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2010年 経営統合・合併 成立

NECエレクトロニクスとルネサステクノロジの経営統合(2010年成立)

電機3社の半導体部門を一つに束ねた「日の丸マイコン連合」は、なぜ発足直後に巨額赤字へ陥ったのか?

経営統合 合併
交渉期間 2009年4月〜2010年4月
帰結 成立
統合比率 1:20.5

エグゼクティブサマリー

  • 2010年4月、NECエレクトロニクスを存続会社としてルネサステクノロジが合併し、ルネサスエレクトロニクスが発足した。NEC・日立・三菱電機の3系統の半導体部門を1社に束ねた再編で、マイコンで世界首位級の規模となった。
  • リーマン・ショック後の半導体不況で各社が巨額赤字に陥り、「売上1兆円・利益率10%」級の規模がなければ生き残れないとの危機感が共有されていた。単独では先細りの見える事業を、規模の統合で立て直す狙いがあった。
  • 2009年4月27日に統合検討を発表、同年12月16日に合併最終契約を締結。合併比率はルネサス1株にNECエレ20.5株。新社はマイコン・システムLSI・個別半導体を3本柱とし、株主はNEC・日立・三菱電機が並ぶ枠組みとなった。
  • 統合初年度の2011年3月期に東日本大震災が直撃し、純損失1,150億円を計上。その後も赤字とリストラが続き、2012〜13年に産業革新機構を筒頭株主とする官民の支援で実質国有化される。規模の統合が直ちに収益力に結びつかなかった一例である。
関連する動き
  1. 日立製作所と三菱電機が半導体部門を統合しルネサステクノロジを設立
  2. NECエレクトロニクスとルネサステクノロジが事業統合の検討開始を発表
  3. 両社が合併最終契約を締結(合併比率はルネサス1株にNECエレ20.5株)
  4. 合併が成立しルネサスエレクトロニクスが発足
  5. 統合初年度の2011年3月期決算で純損失1,150億円を計上(東日本大震災が直撃)
  6. 産業革新機構・トヨタら8社が1,500億円を出資し実質国有化が完了

統合の背景

マクロ環境——リーマン後の半導体不況と「規模」への危機感

2000年代後半の半導体産業は、世界的な需要の急減に見舞われていた。2008年秋のリーマン・ショックを境に電子機器の需要が一気に冷え込み、設備投資と研究開発に巨額の資金を要する半導体メーカーは軒並み採算を崩した。NECエレクトロニクスの2009年3月期は営業損失が683億円規模、ルネサステクノロジも同期に営業損失が965億円規模に達したと伝えられ、両社とも単独での業績回復は容易でない状況に置かれていた。インテルや韓国サムスン電子といった巨大企業が研究開発と量産で先行するなか、国内勢には「売上が1兆円以上で売上高利益率が10%以上なければ生き残れない」という規模をめぐる危機感[1]が広がっていたとされる。

当事者の素性——電機3社の半導体部門という出自

統合の当事者は、いずれも大手電機メーカーの半導体部門を母体とする会社であった。NECエレクトロニクスは、2002年11月に日本電気が汎用DRAMを除く半導体事業を会社分割により分社化して設立した会社[2]で、2003年7月に東証一部へ上場している。一方のルネサステクノロジは、2003年4月に日立製作所と三菱電機が半導体部門を統合して発足した合弁会社[3]で、日立が55%、三菱電機が45%を出資していた。発足当初のルネサステクノロジは半導体売上で国内首位、世界でもインテル・サムスンに次ぐ規模とされ、両社の統合は電機3社の半導体部門を一つに束ねる再編を意味した。

統合の発端

公表経緯——3本柱の「世界第3位」を掲げた統合構想

統合が表面化したのは2009年4月27日であった。NECエレクトロニクスとルネサステクノロジは同日、事業統合の検討を開始することで合意したと発表する。両社は統合後の新会社を、マイコン、システムLSI、個別半導体という3つの製品群を持つ会社と位置づけ、半導体全体では世界第3位に立つ規模になると説明した[4]。不況下で巨額赤字に沈む両社にとって、単独で続けるよりも開発資源を一つにまとめ、規模の経済で競争力を取り戻すという発想が統合の骨格であった。発表当時、ルネサステクノロジは日立製作所が55%、三菱電機が45%を出資する合弁であり、統合にはNEC・日立・三菱電機という親会社3社の合意が前提となっていた。

NECエレクトロニクス

最終契約——存続会社はNECエレ、合併比率は1対20.5

検討開始から約8か月を経た2009年12月16日、両社は合併の最終契約を締結する。合併は2010年4月1日付で、上場会社であるNECエレクトロニクスを存続会社とし、社名を「ルネサスエレクトロニクス」に改める形がとられた[5]。合併比率はルネサステクノロジの普通株式1株に対しNECエレクトロニクスの普通株式20.5株を割り当てるものとされ[6]、あわせて第三者割当増資などにより、NEC・日立・三菱電機の3社が新会社の株主として並ぶ枠組みが整えられた。経営体制は、ルネサステクノロジの赤尾泰社長が新会社の社長、NECエレクトロニクスの山口純史社長が代表権を持つ会長に就くと報じられた。マイコン・システムLSI・個別半導体の3分野で「開発リソースの選択と集中」を進めるという統合の狙いが、ここで具体的な枠組みに落とし込まれた。

統合の経過

発足——日本最大の半導体メーカーの誕生

2010年4月1日、合併が成立し、ルネサスエレクトロニクスが発足する。電機3社系統の国内半導体3社が一つに統合された結果、新会社は売上で1兆円を超える日本最大の半導体メーカーとなり[7]、とりわけマイコンの分野では世界首位級の地位を占めた。自動車に搭載される車載マイコンでは高い世界シェアを握り、「日の丸マイコン連合」とも称された。発足直後の2010年11月にはフィンランドのノキアからワイヤレスモデム事業を譲り受ける[8]など、携帯通信向けの事業領域にも踏み出している。規模の面では、統合は当初の狙いどおりに国内随一の半導体メーカーを生み出したといえる。

統合初年度の躓き——震災が直撃した巨額赤字

ところが統合の効果が現れる前に、外部環境が新会社を直撃した。2011年3月に発生した東日本大震災で、ルネサスの主力工場である那珂工場が被災し、生産が長期にわたって停止する。統合初年度にあたる2011年3月期の連結最終損益は1,150億円の赤字となり、従来予想していた800億円の赤字から大きく下方修正された[9]。建屋・設備の復旧費用など震災に関連した特別損失だけで約500億円が計上され[10]、人員削減や生産改革に伴う費用なども加わって、特別損失の合計は1,000億円を超えたとみられる。本業の営業損益は黒字を確保していたものの、震災と統合に伴う費用がそれを覆い隠す形となった。

統合の帰結

再建——リストラと、産業革新機構による実質国有化

発足後のルネサスは、震災に加え円高や汎用モデム事業の不振が重なり、赤字とリストラが繰り返される苦しい局面に入る。2013年3月期には統合以来最大規模となる純損失1,676億円を計上し、自力での再建が難しくなった。2012年には米投資ファンドのKKRが買収を提案したと伝えられたが、車載向けなど基幹的な半導体技術が海外へ流出することへの懸念から、政府系の産業革新機構を中心とする官民の支援に道筋がつけられる[12]。2012年12月10日、産業革新機構とトヨタ自動車・日産自動車・パナソニックなど取引先各社が共同で出資することが決まり、総額1,500億円規模の第三者割当増資が組まれた[11]

増資は2013年9月30日に完了し、産業革新機構の出資比率は約69%に達した[13]。引受額の内訳は、産業革新機構が1,383億5,000万円、トヨタ自動車が50億円、日産自動車が30億円などとされ[14]、自動車・電機の大手8社が出資に名を連ねた。これにより産業革新機構が筆頭株主となり、ルネサスは事実上の公的資金による救済を受け、いわゆる「実質国有化」の状態に入った。電機メーカーの寄り合い所帯として発足した会社が、設立からわずか3年で官製ファンドの主導する再建に委ねられた形である。

筆者の見解

「規模の統合」が収益力に直結しなかったこと

この統合は、規模を一つに束ねること自体は計画どおりに実現したものの、それが直ちに収益力へ転化しなかった点に教訓があるとみられる。発足の狙いは、不況下で巨額赤字に沈む各社の開発資源を集中し、世界の巨大メーカーに対抗できる規模を得ることにあった。実際に売上1兆円を超える日本最大の半導体メーカーは誕生した。だが、発足直後の震災という外部要因に加え、性格の異なる3系統の事業や組織を一つにまとめる難しさが重なり、シナジーの発現は容易には進まなかった。3社の寄り合い所帯という出自そのものが、意思決定や事業の選択と集中を鈍らせた面もあったと指摘される。

もっとも、統合そのものを失敗と断じる材料ばかりではない。産業革新機構の主導する再建を経て、ルネサスはその後に黒字化を果たし、車載マイコンの世界的な供給者として収益モデルを立て直していく。規模の統合は出発点にすぎず、統合後にどう事業を絞り込み、どの市場で勝負するかという実行段階こそが帰趨を分けたとも読める。電機各社の半導体部門を集約した「日の丸連合」の歩みは、再編の成否がディール成立の瞬間ではなく、その後の長い実行過程に懸かることを示す事例といえるのだろう。

yutaka sugiura

出典・参考
  • NEC プレスリリース 2009年4月27日「NECエレクトロニクスとルネサス テクノロジの事業統合について」
  • NEC プレスリリース 2009年9月16日「NECエレクトロニクス株式会社と株式会社ルネサス テクノロジの統合基本契約締結について」
  • レスポンス(Response.jp)2009年12月16日「NECエレクトロニクスとルネサステクノロジ、合併で最終合意」
  • 日本経済新聞 2011年5月10日「ルネサス最終赤字1150億円 11年3月期、震災で下方修正」
  • 株式会社産業革新機構(INCJ)2012年12月10日「ルネサスエレクトロニクス株式会社への共同出資を決定」
  • 東洋経済オンライン 2012年12月23日「ルネサスに巨額出資 国が背負った十字架」(前田佳子)
  • EE Times Japan 2013年9月30日「ルネサスの“実質国有化”が完了」
  • 日立製作所 ニュースリリース 2002年10月3日「日立製作所と三菱電機が半導体新会社 ルネサス テクノロジの設立で合意」