創業から60年。1回の決断

概要- Historical Summary -
1991年創業。分林保弘が日本オリベッティでの法人営業の経験を活かし、全国の会計事務所と地方銀行をネットワーク化してM&Aの情報基盤を構築した。中小企業の事業承継問題をビジネスとして体系化し、日経新聞の一面広告や書籍出版による市場啓蒙と営業力で案件を創出。全国金融M&A研究会やバンクオブザイヤー表彰で地銀との関係を深め、東証一部上場を果たしたが、2021年に不正会計が発覚して信頼が大きく揺らいだ。
洞察- Author's Insights -
概要- Historical Summary -
1991年創業。分林保弘が日本オリベッティでの法人営業の経験を活かし、全国の会計事務所と地方銀行をネットワーク化してM&Aの情報基盤を構築した。中小企業の事業承継問題をビジネスとして体系化し、日経新聞の一面広告や書籍出版による市場啓蒙と営業力で案件を創出。全国金融M&A研究会やバンクオブザイヤー表彰で地銀との関係を深め、東証一部上場を果たしたが、2021年に不正会計が発覚して信頼が大きく揺らいだ。
洞察- Author's Insights -
1966
分林保弘が日本オリッベティに入社
1966分林保弘が日本オリッベティに入社
1991
日本エム・アンド・エー・センターを設立
1991日本エム・アンド・エー・センターを設立
1992
日経新聞に一面広告を出稿
1992日経新聞に一面広告を出稿
1999
分林保弘が『「中小企業」M&Aの時代が来た! : 後継者問題、相続対策を一挙に解決』を執筆
1999分林保弘が『「中小企業」M&Aの時代が来た! : 後継者問題、相続対策を一挙に解決』を執筆
2000
全国金融M&A研究会を発足
2000全国金融M&A研究会を発足
2002
商号を日本M&Aセンターに変更
2002商号を日本M&Aセンターに変更
2003
本社を東京丸の内1丁目に移転
2003本社を東京丸の内1丁目に移転
2006
東証マザーズに株式上場
2006東証マザーズに株式上場
2007
東京証券取引所第一部に株式上場
2007東京証券取引所第一部に株式上場
2008
矢野経済研究所を持分法適用関連会社化
2008矢野経済研究所を持分法適用関連会社化
2012
M&Aシニアエキスパート認定制度を開始
2012M&Aシニアエキスパート認定制度を開始
2013
名古屋支社設置
2013名古屋支社設置
2013
バンクオブザイヤーの表彰制度を開始
2013バンクオブザイヤーの表彰制度を開始
2016
シンガポール・オフィス設置
2016シンガポール・オフィス設置
2016
企業総合評価研究所を設立
2016企業総合評価研究所を設立
2019
インドネシア駐在員事務所開設
2019インドネシア駐在員事務所開設
2020
マレーシア駐在員事務所開設
2020マレーシア駐在員事務所開設
2020
株式会社スピアを株式譲受により完全子会社化(現連結子会社)
2020株式会社スピアを株式譲受により完全子会社化(現連結子会社)
2021
持株会社制に移行
2021持株会社制に移行
2021
不正会計が発覚
2021不正会計が発覚
2024
竹内直樹が代表取締役社長に就任
2024竹内直樹が代表取締役社長に就任
2024
株式会社日本サーチファンドを設立
2024株式会社日本サーチファンドを設立
2025
決断
減収決算を発表
品質管理の強化が成約を遅らせるという仲介業の構造矛盾
業績を見る
売上日本M&Aセンター:売上高
単体 | 連結(単位:億円)
440億円
売上高:2025/3
利益日本M&Aセンター:売上高_当期純利益率
単体 | 連結(単位:%)
24.7%
利益率:2025/3
業績を見る
区分売上高利益利益率
2005/3 売上高 / 当期純利益14億円2億円19.8%
2006/3 売上高 / 当期純利益20億円3億円18.6%
2007/3 売上高 / 当期純利益26億円5億円21.2%
2008/3 売上高 / 当期純利益34億円9億円26.3%
2009/3 売上高 / 当期純利益40億円8億円21.7%
2010/3 売上高 / 当期純利益36億円7億円21.3%
2011/3 売上高 / 当期純利益50億円12億円24.0%
2012/3 売上高 / 当期純利益60億円16億円26.6%
2013/3 売上高 / 当期純利益72億円20億円28.7%
2014/3 売上高 / 当期純利益105億円33億円31.8%
2015/3 売上高 / 当期純利益122億円39億円32.3%
2016/3 売上高 / 当期純利益147億円48億円32.9%
2017/3 売上高 / 当期純利益190億円61億円32.4%
2018/3 売上高 / 当期純利益246億円81億円33.0%
2019/3 売上高 / 当期純利益284億円88億円31.1%
2020/3 売上高 / 当期純利益320億円102億円31.8%
2021/3 売上高 / 当期純利益347億円106億円30.5%
2022/3 売上高 / 当期純利益404億円114億円28.2%
2023/3 売上高 / 当期純利益413億円98億円23.7%
2024/3 売上高 / 当期純利益441億円107億円24.2%
2025/3 売上高 / 当期純利益440億円109億円24.7%

Author's Insights

なぜネットワークという強固な障壁が崩れたのか?
M&A仲介のパイオニアが、自ら創った市場に飲み込まれるまで

日本M&Aセンターの競争優位は、会計事務所と地方銀行の情報ネットワークにあった。創業者の分林保弘は日本オリベッティ時代に築いた会計事務所との接点を起点に、1991年の創業時に全国の会計事務所が出資する形でM&Aの情報ネットワークを組織化した。1999年には著書を出版して地方銀行から研修依頼を獲得し、2000年に「全国金融M&A研究会」を発足させた。提携契約ではなく長年の教育と人的関係の蓄積によって構築されたこのネットワークは、後発参入者にとって模倣が困難だと考えられていた。2013年にはバンクオブザイヤーの表彰制度で地銀間の紹介実績を競わせる仕組みも加え、ネットワークの結束を制度的に強化した。

しかしこの障壁は、外部と内部の二方向から崩れた。外部要因として、M&A仲介業は金融免許も大規模設備投資も不要であり、参入障壁が構造的に低い業態だった。2025年時点でM&A支援機関は約3,000社、仲介専門会社は約700社が中小企業庁に登録されている。その多くはネットワークを持たないブティック型で、ダイレクトメールやテレアポで直接案件を獲得する。竹内直樹社長は「経営者は日々届く多くのDMに対して疲弊しており、反応率は低下している」と述べている。ネットワークの「外側」で案件を獲得する手法が確立されたことで、ネットワーク内部の情報優位は相対化された。

内部要因として、2021年12月に発覚した不正会計がネットワークの信頼基盤を毀損した。会計事務所と地銀が案件を紹介する前提は、紹介先の品質と信頼性にある。不正会計はその前提に疑問を突き付けた。発覚後に品質管理と審査体制を強化した結果、案件が成約に至るまでの期間が延び、2025年3月期には減収決算を発表した。先行指標の受託件数が伸びても成約が遅延すれば売上は減少するという構造が可視化され、ネットワークの量的優位が収益に直結しない局面が生まれた。品質管理の強化は仲介業として正しい対応だが、成約課金型のモデルではそれが短期業績の悪化に直結する矛盾を抱えている。

ネットワーク型の参入障壁は、市場の未成熟期に最も強く機能する。案件情報が限られ仲介の信頼性が未確立な段階では、長年の人的関係に基づく情報流通が圧倒的な優位を持つ。しかし市場が成熟し中小企業M&Aの認知が広がるにつれて、ネットワークを経由しない案件獲得が可能になった。さらに業界の乱立は「不適切な譲受け企業に関する報道」を生み、経営者全体を慎重にさせている。日本M&Aセンターが30年かけて構築したネットワークは、市場を教育し拡大させた結果として生まれた約3,000社の参入者と、不正会計という自傷によって、二重に侵食された。市場を創った企業のネットワークが、創った市場の成熟によって相対化されるという構造は、啓蒙型ビジネスモデルに内在する逆説である。

2026-02-28 | by author
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2025
3月

減収決算を発表

2025/3期売上高 440億円当期純利益 109億円
品質管理の強化が成約を遅らせるという仲介業の構造矛盾

不正会計後に審査体制を強化した結果、案件の品質は向上したが、成約までの時間が延びて売上が減少した。仲介業では受託から成約までの期間が収益計上のタイミングを規定するため、審査の厳格化はそのまま短期業績の悪化に直結する。先行指標である受託件数が伸びても成約が遅延すれば減収になるという構造は、品質と速度のトレードオフが売上に可視化される仲介モデル固有の特性を示している。正しい運用が業績を押し下げるという逆説が、経営の説明責任を複雑にしている。

背景

不正会計後の信頼回復局面と環境変化

不正会計の公表以降、同社は案件の品質管理と審査体制を強め、営業現場の運用も見直してきた。ただ、顧客の心理や意思決定プロセスは変化し、説明負荷の増加や慎重化により、案件が成約へ至るまでの時間が伸びやすくなっていた。

外部環境でも、業界のルール整備や報道の影響、金利上昇による買い手側の審査厳格化が重なり、案件の進行が鈍化しやすい条件がそろった。先行指標が一定の水準でも、成約の落ち込みが売上に直結する局面となり、減収決算の背景として説明が求められた。

決断

有効策の即効性を示せないまま減収を開示

日本M&Aセンターは、2025年3月期に減収を含む決算(および業績見通し)を開示し、成約件数の減少と案件化期間の長期化を主要因として位置づけた。対策として、顧客に寄り添う時間の創出、案件分析の標準化、教育強化などを掲げ、営業活動の質を上げる方針を前面に出した。

一方で、短期に売上を押し上げる施策は示しにくく、回復の道筋は「正常な達成サイクルを取り戻す」ことに置かれた。先行指標の改善を成約へ結び付ける設計が課題となり、組織運用の転換を続けながら、投資家への説明の一貫性も同時に問われた。

結果

成約減が売上に波及し、低迷局面が可視化

減収決算により、先行指標の伸びと売上のズレが明確になった。受託が積み上がっても成約へ至るまでの時間が延びれば、売上計上が後ろ倒しになり、期中の下振れが発生しやすい。業績は、案件の質とスピードの両立が難しい局面にあることを示した。

この局面は、不正会計後の信頼回復と市場環境の変化が同時に進んだ転換点でもある。ルールや審査が厳格化するほど、成約までの摩擦は増える。仲介モデルが「量」から「運用設計」へ移る中で、どの指標を先行管理し、どのタイミングで収益化できるかが継続的な論点となった。

2025/3期売上高 440億円当期純利益 109億円
品質管理の強化が成約を遅らせるという仲介業の構造矛盾

不正会計後に審査体制を強化した結果、案件の品質は向上したが、成約までの時間が延びて売上が減少した。仲介業では受託から成約までの期間が収益計上のタイミングを規定するため、審査の厳格化はそのまま短期業績の悪化に直結する。先行指標である受託件数が伸びても成約が遅延すれば減収になるという構造は、品質と速度のトレードオフが売上に可視化される仲介モデル固有の特性を示している。正しい運用が業績を押し下げるという逆説が、経営の説明責任を複雑にしている。

証言竹内直樹氏(日本M&Aセンター代表取締役社長)

競合環境も変化しています。M&A支援機関は増加傾向にあり、特にここ数年での起業が激増しました。現在、M&A支援機関は約3,000社、そのうちM&A仲介専門会社は約700社が中小企業庁に登録されています(2025年9月22日現在)。この700社の多くはブティックと呼ばれる小規模なM&A仲介専門会社であり、案件の紹介を受けるネットワークを持たないため、ダイレクトメール(DM)やテレアポ、広告営業によって新規受託を獲得しようと奮闘しています。

しかし、健全なガバナンス体制のない会社は次第に誤解を招くような営業手法を用いるケースが見受けられ、結果的に業界全体の業務品質やモラルが疑問視されるような状況となりました。また、多くの仲介会社からのダイレクトマーケティングにより、中堅・中小企業経営者にM&Aの浸透が進んだ一方で、経営者は日々届く多くのDMに対して疲弊しており、反応率は低下しています。同時に不適切な譲受け企業に関する報道によって経営者は慎重になっています。ダイレクトマーケティングしか案件獲得手法を持たない仲介会社は、今後非常に厳しい環境になると考えられます。