日本M&Aセンターの直近の業績・経営課題と展望
日本M&Aセンターの直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望
二層ネットワークの稀少性喪失と品質回復のための減速
1991年に創業者の分林保弘氏が大阪で日本エム・アンド・エー・センター(現・日本M&Aセンター)を設立し、全国の会計事務所と地方銀行の二層ネットワークで案件情報を集約する仲介モデルを敷いた。会計事務所1,072・地方銀行95行・信用金庫221庫の提携と、教育機会を介した人的関係の蓄積によって、他社が短期に複製できない情報経路を作った。だが2021年12月に同社が不正会計を公表し、社外調査委員会は過大ノルマと営業評価制度を主因として指摘した。2025年3月期は新規受託件数こそ過去最高だが、成約件数は1,146→1,078件へ減少し、業界登録仲介約700社の乱立で現場の営業品質も下がり続けている。
2024年4月、事業子会社(株)日本M&Aセンターの社長に竹内直樹氏が就いた。三宅卓社長と並ぶ二頭体制で、2021年度の不祥事を起点とする「起承転結」シナリオの仕上げである2025年度「結」にあたる。竹内CEOは5事業本部を10チャネル制へ解体し、2025年度はさらに営業・バリュー推進・マーケティング・コーポレートの4本部体制へ切り替えた。中期目標も2027年度連結売上高540億円・経常利益200億円へ下方修正し、上場以来初めて売上高予想を前年予想額から引き下げた。コンサルタント一人当たり予算を引き下げ、顧客接点を1.5倍から2倍へ広げる移行期間として位置付けた。
竹内体制は同時に、海外とファンドの二領域に投資配分を寄せた。海外はシンガポール・ベトナム・マレーシア・タイ・インドネシアのASEAN5拠点を基盤に2025年度から本格収益化の第3ステージへ入り、現地中小企業と日系企業のクロスボーダー案件を増やす計画を置いた。ファンドは日本投資ファンド(PE)・AtoG Capital(クロスボーダー)・日本サーチファンドの3本柱で、2024年10月設立の日本サーチファンドは南九州・北海道・北陸の3地域で2025年度に1号ファンドを順次組成する。PMI事業も拡張し、初回M&Aの譲受け企業に全案件PMIコンサルを付ける目標を掲げた。成約課金型の単発仲介から、案件単価と継続収益を併せ持つ事業構成への切り替えを試みている。
日本M&Aセンターが直面しているのは、創業期の優位だった「情報集約ハブ」モデルが市場成熟と仲介乱立で稀少性を失った事態である。1992年の「後継社」広告で潜伏需要を引き出して以来、市場啓蒙そのものが新規参入を呼び、同社は自ら広げた市場で後発の登録仲介約700社と価格・品質で競う立場に変わった。竹内体制の下方修正と4本部再編は、短期売上を犠牲にしても品質と信頼を取り戻すための減速であり、海外5拠点とサーチファンド3地域は、成約課金型の単発仲介から、サーチャー育成・PMI伴走による継続収益型への切り替えを試みる足場である。竹内CEOと三宅社長の二頭体制は、不正会計後の信頼回復と新収益源の立ち上げを並行で動かす段階に立つ。
日本M&Aセンターの業績推移直近10ヵ年・有価証券報告書をもとに作成(XBRLよりデータ取得)
| 項目 | 単位 | FY152016/3 | FY162017/3 | FY172018/3 | FY182019/3 | FY192020/3 | FY202021/3 | FY212022/3 | FY222023/3 | FY232024/3 | FY242025/3 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 損益計算書 (PL) | |||||||||||
| 売上高YoY | 億円 | 148+20.9% | 191+29.0% | 246+29.1% | 285+15.6% | 320+12.5% | 348+8.7% | 404+16.1% | 413+2.3% | 441+6.8% | 441−0.1% |
| 売上原価 | 億円 | 53 | 70 | 91 | 114 | 126 | 136 | 163 | 178 | 195 | 193 |
| 売上総利益 | 億円 | 95 | 121 | 155 | 171 | 195 | 212 | 241 | 235 | 246 | 248 |
| 販管費 | 億円 | 25 | 30 | 39 | 46 | 52 | 59 | 77 | 82 | 86 | 81 |
| 営業利益YoY | 億円 | 70+14.8% | 90+29.2% | 116+28.3% | 125+8.0% | 142+13.7% | 153+7.6% | 164+7.1% | 153−6.9% | 161+5.0% | 167+4.0% |
| 経常利益YoY | 億円 | 71+12.8% | 91+27.5% | 117+28.7% | 125+7.4% | 145+15.4% | 155+6.9% | 169+9.0% | 155−8.2% | 165+6.8% | 169+2.4% |
| 当期純利益YoY | 億円 | 48+22.5% | 62+27.6% | 81+31.9% | 89+8.9% | 103+15.9% | 107+3.9% | 114+7.1% | 98−13.9% | 107+9.0% | 110+2.1% |
| 貸借対照表 (BS) | |||||||||||
| 自己資本比率 | % | 83.2 | 64.4 | 69.5 | 76.3 | 81.0 | 82.2 | 86.2 | 82.8 | 74.9 | 76.4 |
| 有利子負債比率 | % | 0.5 | 18.0 | 11.0 | 7.0 | 3.4 | 0.9 | 0.0 | 0.0 | 10.7 | 8.7 |
| キャッシュフロー (CF) | |||||||||||
| 営業CF | 億円 | 44 | 78 | 98 | 69 | 103 | 115 | 111 | 82 | 105 | 131 |
| 投資CF | 億円 | -52 | 15 | -81 | -6 | -58 | 223 | 3 | -40 | -182 | 120 |
| 財務CF | 億円 | -15 | -26 | -34 | -45 | -23 | -31 | -59 | -61 | -152 | -88 |
| 従業員 | |||||||||||
| 連結従業員数 | 人 | 258 | 283 | 337 | 451 | 582 | 810 | 972 | 1,083 | 1,043 | 1,086 |
| 単体従業員数 | 人 | 255 | 271 | 321 | 415 | 531 | 653 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 平均年収(単体) | 万円 | 1,237 | 1,419 | 1,320 | 1,414 | 1,353 | 1,243 | — | — | — | — |
IR資料直近5ヵ年
決算説明会資料
| 年度 | 経営の振り返り | 報告資料 |
|---|---|---|
| FY25 | 業界における不適切な譲受け企業とのトラブル事案報道の影響を受けつつ、新規売り受託件数は過去最高を記録。新中計を提示し営業利益170億円目標を継続。前年に続き29円配当(特別配当6円含む)、海外事業の本格展開と日本M&AセンターHDのフィロソフィー再定義を発信。 | 2025年3月期 決算説明資料 https://www.nihon-ma.co.jp/ir/pdf/250430_presentation2.pdf |
| FY24 | 株主優待制度の廃止に伴い特別配当を実施、2025/3期は1株当たり29円配当(内、特別配当6円)を予想。子会社バトンズが連結子会社から持分法適用会社へ。自己株式取得を継続し、内部統制再構築後の業績回復と配当政策の見直しを軸とした株主還元を強化。 | 2024年3月期 決算説明資料 https://www.nihon-ma.co.jp/ir/pdf/240430_presentation.pdf |
| FY23 | 売上計上不祥事後の信頼回復期。年間配当23円(配当性向77.3%)、配当性向60%への引き上げを発信。十六フィナンシャルグループとの合弁会社設立、上場仲介の継続(はなHD・GTHD)等、地方金融機関との提携強化と新規上場支援の枠組みを拡大。 | 2023年3月期 決算説明資料 https://www.nihon-ma.co.jp/ir/pdf/230428_presentation.pdf |
| FY22 | 売上計上に関わる不祥事を受け、内部統制の再構築を全面的に実施。売上報告・売上計上の業務フローを再構築し2022年3月決算から完全適用、売掛金計上要件を厳格化。商号「日本M&AセンターHD」へ移行に向けた持株会社体制の強化、ガバナンス・コンプライアンス重視を経営陣全員で推進。 | 2022年3月期 決算説明資料 https://www.nihon-ma.co.jp/ir/pdf/220428_presentation1_r.pdf |
| FY21 | — | 2021年3月期 決算説明資料 https://www.nihon-ma.co.jp/ir/pdf/210430_presentation2.pdf |
アニュアルレポート / 統合報告書
| 年度 | 経営の振り返り | 報告資料 |
|---|---|---|
| FY26 | — | 統合報告書2025 https://www.nihon-ma.co.jp/groups/ir/pdf/ir_integrated_report2025.pdf |
| FY25 | 統合報告書2024。中長期ビジョンと成長戦略を再整理した編集版。社長年齢70歳以上の中小企業の事業承継ニーズを中心に、価値創造を実現する成長戦略・基盤を体系化。M&A総合企業への進化方針とグループ各社のサービス範囲拡充を発信。 | 統合報告書2024 https://www.nihon-ma.co.jp/groups/ir/pdf/ir_integrated_report2024.pdf |
| FY24 | 統合報告書2023。純粋持株会社体制移行(2021年10月)後、グループ各社による専門性・業務品質の高いサービス拡充を継続。採用・人材育成とDX活用による規模拡大・生産性向上、提携先金融機関との連携強化、コーポレート・ガバナンス強化を体系化。 | 統合報告書2023 https://www.nihon-ma.co.jp/groups/ir/pdf/ir_integrated_report2023.pdf |
| FY23 | グループ初の統合報告書(2022年12月発行)。2021年10月1日の純粋持株会社体制への移行を起点に、M&A仲介を中心とした事業ポートフォリオを再整理。売上計上不祥事を踏まえたガバナンス強化・リスクマネジメント体制を発信し、業界リーディングカンパニーとしての中長期ビジョンを提示。 | 統合報告書(グループ初) https://www.nihon-ma.co.jp/groups/ir/pdf/221220_ir_integrated_report_01b.pdf |