創業から13年。8回の決断

概要- Historical Summary -
2013年設立。山田進太郎がスマホアプリ「メルカリ」をリリースし、日本のC2C市場を開拓した。テレビCMと大型資金調達で急成長し、ヤマト運輸との提携で物流基盤を整備。2018年に東証マザーズに上場したが、米国子会社での巨額減損や情報漏洩・不正決済の問題にも直面した。メルペイの設立で決済領域に進出しOrigamiを買収するなどフィンテック展開も推進。鹿島アントラーズの株式取得でスポーツ事業にも参入している。
洞察- Author's Insights -
概要- Historical Summary -
2013年設立。山田進太郎がスマホアプリ「メルカリ」をリリースし、日本のC2C市場を開拓した。テレビCMと大型資金調達で急成長し、ヤマト運輸との提携で物流基盤を整備。2018年に東証マザーズに上場したが、米国子会社での巨額減損や情報漏洩・不正決済の問題にも直面した。メルペイの設立で決済領域に進出しOrigamiを買収するなどフィンテック展開も推進。鹿島アントラーズの株式取得でスポーツ事業にも参入している。
洞察- Author's Insights -
2013
決断
株式会社コウゾウを設立(現メルカリ)
ウノウ売却経験者が選んだ「スマホ×CtoC」という勝負所
2013
決断
スマホアプリ「メルカリ」をリリース
オークションではなく「即決価格」を選んだ設計思想
2014
決断
14.5億円を調達・テレビCMの放映
スタートアップがテレビCMに踏み切った異例の判断
2014
販売手数料を有料化。売上計上を開始
2014販売手数料を有料化。売上計上を開始
2014
Mercari, Inc.を設立(米国)
2014Mercari, Inc.を設立(米国)
2015
本社を六本木ヒルズに移転
2015本社を六本木ヒルズに移転
2015
ヤマト運輸と提携
2015ヤマト運輸と提携
2015
完全子会社ソウゾウを設立
2015完全子会社ソウゾウを設立
2015
Mercari Europe Ltd.を設立(英国)
2015Mercari Europe Ltd.を設立(英国)
2016
決断
83.5億円を資金調達
評価額1200億円の調達が固定化した「広告先行型」の成長構造
2017
メルペイを設立。決済の内製化に注力
2017メルペイを設立。決済の内製化に注力
2018
東証マザーズに株式上場
2018東証マザーズに株式上場
2018
決断
マイクロサービス化の開始を公表
「逆コンウェイの法則」で組織まで分割した野心と誤算
2018
マイケル社を買収
2018マイケル社を買収
2019
鹿島アントラーズの株式取得
2019鹿島アントラーズの株式取得
2019
フリマアプリの競争激化
2019フリマアプリの競争激化
2020
メルペイがOrigamiを買収
2020メルペイがOrigamiを買収
2020
BASEの株式6%を約70億円で売却
2020BASEの株式6%を約70億円で売却
2021
決断
完全子会社ソウゾウを設立(2代目)
CtoC基盤でBtoCを成立させる実験と28億円の授業料
2021
決断
情報漏洩・不正決済が継続的に発生
半年で32億円の不正補償が突きつけた統制コストの現実
2021
決断
Mercari, Inc.で巨額減損を計上
累計181億円の減損が示す米国CtoC市場の壁
2023
未収入金が増加
2023未収入金が増加
業績を見る
売上メルカリ:売上高
単体 | 連結(単位:億円)
1,874億円
売上高:2024/6
利益メルカリ:売上高_当期純利益率
単体 | 連結(単位:%)
8.6%
利益率:2024/6
業績を見る
区分売上高利益利益率
2013/6単体 売上高 / 経常利益0億円-0億円-
2014/6単体 売上高 / 経常利益0億円-13億円-
2015/6単体 売上高 / 経常利益42億円-10億円-26.0%
2016/6連結 売上高 / 経常利益122億円-0億円-0.8%
2017/6連結 売上高 / 経常利益220億円-27億円-12.3%
2018/6連結 売上高 / 経常利益357億円-47億円-13.2%
2019/6連結 売上高 / 経常利益516億円-121億円-23.5%
2020/6連結 売上高 / 経常利益762億円-193億円-25.4%
2021/6連結 売上高 / 経常利益1,061億円49億円4.6%
2022/6連結 売上高 / 経常利益1,470億円-38億円-2.6%
2023/6連結 売上高 / 営業利益1,720億円174億円10.1%
2024/6連結 売上高 / 営業利益1,874億円163億円8.6%

Author's Insights

売上の97%を広告に投じた1年目
ネットワーク効果を買い取るための先行投資構造

FY2015(2014年7月〜2015年6月)、メルカリの売上高は42億円であった。同年の広告宣伝費は41億円。売上高の97.6%を広告に投じた計算となる。翌FY2016は売上高122億円に対して広告宣伝費68億円(55.7%)、FY2017は売上高220億円に対して141億円(64.0%)と、3年間で売上高は5倍に成長したものの、広告宣伝費率は一貫して50%を超える水準にあった。この異常な広告投資は、赤字の拡大を前提として行われたものであった。

この投資モデルの核心は、CtoC市場における「ネットワーク効果」の獲得にある。フリマアプリでは出品者が増えるほど購入者にとっての品揃えが充実し、購入者が増えるほど出品者にとっての売却確率が高まる。この正のフィードバックループが一度確立されれば、後発サービスとの差は加速度的に広がる。メルカリの広告投資は、このネットワーク効果の臨界点にいち早く到達するための「市場の購入」であった。2014年5月のテレビCM放映はスタートアップとしては異例の判断であり、オンラインサービスがマスメディアを活用すること自体に賛否があった。

小泉文明氏(メルカリ会長)は入社後3ヶ月で資金調達・テレビCM制作・仙台CSオフィス立ち上げを同時並行で実行したと述べている。この時間感覚は、フリマアプリ市場がWinner Takes Mostの構造であるという認識に基づいていた。PayPayフリマが参入する2019年時点で、メルカリはすでに市場を支配する規模に達しており、後発の追随を困難にしていた。広告先行投資は競争が激化する前に市場構造を固定化するための時間との戦いであった。

しかし一度構築された高固定費構造は成長鈍化局面での調整余地を狭める。売上の半分以上を広告に投じ続けるモデルは、取引量の成長が鈍化した瞬間に利益率を圧迫する。メルカリが上場後に赤字拡大で株価が1/3に暴落した背景には、市場がこの構造的リスクを織り込んだ側面がある。ネットワーク効果を買い取るための先行投資は、独占的地位をもたらしうるが、投資と回収の時間差をどう乗り越えるかという資本政策の難問を常に伴う。

2026-02-17 | by author
累計181億円を失った米国事業
なぜ日本のCtoCモデルは海外で再現できなかったのか

メルカリは2014年1月に米国子会社Mercari, Inc.を設立し、同年9月に手数料無料で米国版メルカリのサービスを開始した。日本で急成長したスマホ完結のCtoC体験を米国市場に横展開する戦略であった。しかし米国事業は収益化が進まず、FY2018に103億円、FY2021に78億円の減損を計上し、累計181億円の損失を生んだ。国内事業で稼いだ利益を米国に投入し続ける構造が常態化していた。

米国市場でメルカリが苦戦した構造的要因は複数ある。まず、eBayやFacebook Marketplaceなど既存のCtoC・中古取引プラットフォームがすでに根付いており、「スマホで手軽に売買できる」という日本でのメルカリの差別化要素が米国では十分な優位性にならなかった。加えて米国の中古取引文化はガレージセールやFacebook Marketplaceの地元取引など対面取引が根強く、全国配送を前提とするメルカリのモデルとは行動様式が異なっていた。

山田進太郎氏は投資家との対話において「全方位の積極投資から慎重な見極めへ」と姿勢を転換したことを明かしている。この発言は、上場後の高い成長期待を背負ったテック企業が投資規律の再構築を迫られる局面を示している。2017年にはJohn Lagerling氏(元Google)を米国事業の責任者に据えるなど経営体制の強化を図ったが、プロダクトの現地適応と市場開拓の速度は計画通りには進まなかった。

日本のスタートアップによる米国市場への挑戦は、ほとんどの場合に想定を上回る時間とコストを要する。メルカリの累計181億円の減損は、プロダクトの質だけでは市場を取れないという事実を数字で示した。メルカリの日本での成功はスマホCtoC市場そのものが未開拓であったことと、テレビCMによる短期間での認知獲得が噛み合った結果である。米国では両方の条件が欠けており、日本モデルの「再現」ではなく「再発明」が必要であったと考えられる。

2026-02-17 | by author
CtoC→決済→BtoC→あと払い、取引プラットフォームが金融化する構造的帰結

メルカリの事業変遷は、CtoC取引プラットフォームが金融サービスへと拡張していく過程を示している。2017年11月にメルペイを設立し、フリマアプリ内の売上金を決済に利用できる仕組みを構築した。2019年にはPayPayの「100億円還元キャンペーン」に対抗すべく全社の経営資源をメルペイに集中投入する決断を下し、シェアサイクル事業「メルチャリ」を売却した。フリマの売上金という独自の資金循環を持つメルカリにとって、決済領域は自然な拡張であった。

しかし決済からさらに一歩進んだ「あと払い」サービス(定額払い、メルカード)の導入は、メルカリの事業構造を質的に変えた。FY2023期末時点の貸倒引当金は54億円に達し、あと払いの利用拡大に伴い未収入金がYoYで353億円増加した。この結果、営業キャッシュフローはマイナスに転落した。取引プラットフォームが信用供与を行う金融機関的な機能を持ち始めたことで、従来のテック企業とは異なる財務リスクが発生している。

メルカリの金融化は、CtoCプラットフォームが陥りやすい成長の天井を打破するための戦略として理解できる。フリマの手数料収入(売上高の10%)だけでは成長率に限界があり、決済手数料・あと払い手数料・利息収入という新たな収益源を開拓する必要があった。2021年のメルカリShops(BtoC)の立ち上げも同様の文脈にあり、取引主体を個人から事業者に広げることでGMVの拡大を図った。しかしShopsは28億円の減損に至り、金融領域への傾斜がより一層強まる結果となった。

プラットフォーム企業が金融サービスに拡張する動きは世界的に見られるが、メルカリの場合その速度が極めて速い。創業からわずか10年でフリマアプリ→決済→信用供与(あと払い)まで進んでいる。貸倒引当金54億円、営業CF悪化という数字は、テック企業の評価軸では捉えきれないリスクが発生していることを意味する。メルカリの企業価値を評価する際に問われるのは、テックと金融の両方のリスクを同時に管理できる経営体制が整っているかという点であろう。

2026-02-17 | by author
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2013
2月

株式会社コウゾウを設立(現メルカリ)

2013/6期(単体)売上高 0億円経常利益 -0億円
ウノウ売却経験者が選んだ「スマホ×CtoC」という勝負所

山田進太郎氏はウノウの設立・売却を経て、プロダクトの質こそが勝敗を分けるという確信を持っていた。GoogleもFacebookも先発ではなかったという認識のもと、既存のPC型オークション市場をスマホで再定義するアプローチを選択した。創業時からVCの資金で「自分の財布と会社の財布を分ける」ことで採用投資に踏み切れた点や、WebViewを途中で廃棄してネイティブに切り替えた判断には、完成度より市場適合を優先する姿勢が表れている。

背景

スマホ前提の個人取引構想形成

2000年代後半、日本のCtoC取引はPC前提のオークション型が中心であり、出品や取引の手間が高い構造にあった。一方、スマートフォンの普及が進み、個人が日常的にアプリを通じて写真撮影や決済に触れる環境が整いつつあった。山田進太郎氏は、過去にWebサービスの立ち上げと売却を経験しており、個人が直感的に使えるUIを備えたサービスこそが次の成長余地になると認識していた。

当時の国内市場では、スマートフォンに最適化されたCtoCプラットフォームは存在しておらず、個人間取引の潜在需要は顕在化していなかった。従来の延長線上での改善ではなく、取引体験そのものを再設計する必要があるという問題意識が、事業構想の出発点となっていた。

決断

スマホ特化型CtoC事業創業

こうした背景の下、2013年2月に株式会社コウゾウを設立し、スマートフォンに完全特化したフリマアプリの開発に着手した。出品から購入、決済までをアプリ内で完結させる設計とし、従来のオークション型とは異なる「即時性」と「簡便性」を重視した点が特徴であった。

また、創業初期から少人数の開発体制でプロダクト検証を進め、ユーザーの行動データを基に仕様を高速に修正する方針を採用した。大規模な事前計画よりも、実装と改善を繰り返すことで市場適合を図る判断が取られていた。

結果

個人間取引の主流化基盤形成

スマートフォン前提のUIと取引設計は、従来CtoCに参加していなかった層の参入を促し、個人間取引の裾野を広げる効果をもたらした。特に写真投稿と価格設定の容易さは、出品行動の心理的ハードルを大きく引き下げた。

この創業期の判断により、メルカリは単なる既存市場の代替ではなく、新たな取引習慣を生み出す基盤を構築した。その後の急速なユーザー拡大と資本調達は、この初期設計が市場構造に適合していたことを示す結果となった。

山田進太郎氏の経歴
日時所属備考
1977/9愛知県瀬戸市生まれ
1996/3東海高校卒業
1996/4早稲田大学教育学部入学
2001/8有限会社ウノウ代表取締役(会社設立)
2010/9Zynga Japanゼネラルマネージャー
2013/2メルカリ代表取締役社長(会社設立)
2017/4メルカリ代表取締役会長兼CEO
日時
1977/9
所属
愛知県瀬戸市
備考
生まれ
Date主なリリース
2013/1「メルカリ」の仕様策定。エンジニアの募集開始
2013/2実装開始。AndroidでWebViewを採用
2013/4AndroidのWebViewで開発中止。コード廃棄
2013/7/2Android版「メルカリ」をリリース
2013/7/23iOS版「メルカリ」をリリース
2013/11/14キャッシュの消去機能を追加
2014/1/19商品のシェア機能を追加
2014/2/4iOSでiPadに対応
2014/2/4カテゴリーから探す機能を追加
2014/4/15クレカ情報の消去機能を追加
2014/4/23ブランド検索機能を追加
2014/7/31コメント削除機能・検索サジェストを追加
2014/9/18ブロック機能を追加
Date
2013/1
主なリリース
「メルカリ」の仕様策定。エンジニアの募集開始
メルカリ > 創業期の資本政策
date調達額評価額割当先
2013/2/12000万円2000万円会社設立
2013/3/29500万円1500万円山田進太郎氏など
2013/6/35000万円6.5億円EastVentures
2013/8/302.2億円15.2億円ユナイテッド(株)
2014/3/2814.5億円82.8億円グローバルブレイン等
2014/9/1010.0億円212.3億円グローバルブレイン等
2014/9/3013.5億円236.1億円WiL Fund等
date
2013/2/1
調達額
2000万円
評価額
2000万円
割当先
会社設立
2013/6期(単体)売上高 0億円経常利益 -0億円
ウノウ売却経験者が選んだ「スマホ×CtoC」という勝負所

山田進太郎氏はウノウの設立・売却を経て、プロダクトの質こそが勝敗を分けるという確信を持っていた。GoogleもFacebookも先発ではなかったという認識のもと、既存のPC型オークション市場をスマホで再定義するアプローチを選択した。創業時からVCの資金で「自分の財布と会社の財布を分ける」ことで採用投資に踏み切れた点や、WebViewを途中で廃棄してネイティブに切り替えた判断には、完成度より市場適合を優先する姿勢が表れている。

証言山田進太郎氏(メルカリ創業者)

帰国後、立ち上げたのが現在のメルカリです。不要になったものを捨てるのではなく誰かに譲り、それをまた大事に使うことで無駄をなくしていくということが世界的な潮流になっています。日本でもフリーマーケットのようなイベントは昔から人気があります。それをスマホ一つで、安全で手軽に売りたいものを出品したり欲しいものを探したりして個人間で売買できる仕組みを作ろうと考えたのです。

証言山田進太郎氏(メルカリ創業者)

完全に、プロダクト重視です。例えば、Googleは世界で最初の検索エンジンだったわけではないですし、Facebookが最初のソーシャルネットワークだったわけでもありません。結局、最終的に明暗を分けるのは「プロダクトの質」だと思っています。

だからこそ、「最高のプロダクトを作るチームをいかに作るか」が重要で、それがあるからこそ、資金調達や人材採用、マーケティングといった勝負ができるわけです。やはり、GoogleもFacebookも、今うまくいっているところは、創業者が相当プロダクトにコミットしてやっているところだと思います。逆に、あまり経営っぽい、マネジメントっぽいことに行くとよくないと思っています。

証言山田進太郎氏(メルカリ創業者)

一番大きな理由は、自分のお金と会社のお金の財布が分かれることによる効果です。自己資金だと、人を雇うにも自分の財布から1人あたり1000万円出すみたいな感覚になってしまうので、やっぱり思い切った投資はすごくやりづらくなる。でも、最初の調達があったからこそ、思い切っていい人材を集めようという気になれた

年表株式会社コウゾウを設立(現メルカリ)に関する出来事
20131月Twitterでエンジニア募集
20132月株式会社コウゾウを設立
資本調達額0.2億円
20136月EastVenturesから資金調達
20138月Unitedから資金調達
2013
7月

スマホアプリ「メルカリ」をリリース

2013/6期(単体)売上高 0億円経常利益 -0億円
オークションではなく「即決価格」を選んだ設計思想

メルカリがヤフオクと決定的に異なるのは、オークション方式を採用せず即決価格を基本とした点にある。価格が決まっている方が購入の意思決定が速く、出品者にとっても値付けの心理的負担が軽い。この設計により出品から購入までの回転速度が上がり、取引の「日常化」が実現した。完成度よりも実利用からの学習を優先し、UIや文言を高頻度で更新し続けたことで、従来CtoCに参加しなかった層を巻き込み、フリマアプリという新カテゴリそのものを市場に定着させた。

背景

個人間取引の摩擦と未開拓需要

2010年代初頭、日本の個人間取引はPC前提のオークション型が主流で、出品準備や価格設定、取引完了までの手続きが煩雑だった。取引は一部の慣れた利用者に限られ、日常的な不用品売買が広く浸透しているとは言い難い状況にあった。一方でスマートフォンの普及が進み、写真撮影・投稿・決済を日常的に行う行動様式が定着し始めていた。

こうした環境下で、個人が持つ不用品を「すぐ出して、すぐ売れる」体験に再設計できれば、潜在需要は大きいという見立てがあった。既存サービスの延長ではなく、スマホ前提で取引摩擦を徹底的に取り除くことが、新しい市場を開く条件だという認識が、プロダクト構想の背景にあった。

決断

スマホ完結の取引体験設計

2013年7月、スマートフォンアプリ「メルカリ」をリリースした。出品は写真撮影から価格入力までを数分で完結させ、購入から決済、配送手続きまでをアプリ内で一気通貫に設計した。オークション方式ではなく即決価格を基本とし、取引のスピードと分かりやすさを優先した点が特徴である。

リリース当初から、プロダクト改善を高速に回すためのデータ計測と仮説検証を重視し、UIや文言、導線の細部まで頻繁に更新した。完成度の高さよりも、実際の利用行動から学習することを優先する判断が、開発と運営の基本方針として置かれていた。

結果

フリマアプリ市場の成立

スマホ完結の取引体験は、従来CtoC取引に参加していなかった層の参入を促し、出品と購入の回転を大きく高めた。写真投稿を起点とする直感的な操作は、取引行動の心理的ハードルを下げ、日常的な売買を可能にした。

このリリースを契機に、フリマアプリという新しいカテゴリが日本市場で成立し、メルカリはその代表的存在として急速に存在感を高めていった。2013年7月のアプリ公開は、単一プロダクトの投入にとどまらず、個人間取引の主流を作り替える起点となった。

2013/6期(単体)売上高 0億円経常利益 -0億円
オークションではなく「即決価格」を選んだ設計思想

メルカリがヤフオクと決定的に異なるのは、オークション方式を採用せず即決価格を基本とした点にある。価格が決まっている方が購入の意思決定が速く、出品者にとっても値付けの心理的負担が軽い。この設計により出品から購入までの回転速度が上がり、取引の「日常化」が実現した。完成度よりも実利用からの学習を優先し、UIや文言を高頻度で更新し続けたことで、従来CtoCに参加しなかった層を巻き込み、フリマアプリという新カテゴリそのものを市場に定着させた。

2014
5月

14.5億円を調達・テレビCMの放映

2014/6期(単体)売上高 0億円経常利益 -13億円
スタートアップがテレビCMに踏み切った異例の判断

2014年時点でスタートアップがテレビCMを打つことは異例であり、オンライン完結型サービスにマス広告は不要という見方が主流だった。しかし小泉文明氏は入社直後から資金調達・CM制作・仙台CSオフィス立ち上げを同時並行で進め、わずか3ヶ月で実行に移した。この判断の核心は、フリマアプリを一部のIT層に留めず一般生活者に認知させるには、短期間で大規模なリーチが必要だという認識にある。CM放映後の半年間で500万DLから700万DLへと加速し、ニッチからマスへの転換点となった。

背景

初期成長段階と認知拡大の壁

2013年のサービス開始以降、メルカリはスマートフォンに最適化された個人間取引サービスとして一定のユーザー拡大を実現していた。しかし、成長は主に口コミやネット広告に依存しており、一般層への認知は限定的であった。フリマアプリという概念自体がまだ広く理解されておらず、潜在需要を顕在化させるには、より強力な認知獲得手段が必要となっていた。

また、取引量の増加に伴い、サーバー負荷や不正対応、カスタマーサポート体制の整備といった運営面の課題も顕在化していた。プロダクトの改善と同時に、事業基盤を安定させるための投資余力を確保することが、次の成長段階に進むための前提条件となっていた。

決断

資金調達とテレビCM投下

2014年5月、メルカリは14.5億円の資金調達を実施し、その資金を原資としてテレビCMの放映に踏み切った。これは、スタートアップとしては異例の判断であり、オンライン完結型のサービスがマスメディアを活用すること自体に賛否があった。

それでもメルカリは、フリマアプリを一部のITリテラシー層に留めず、一般生活者にまで浸透させるには、短期間で大規模な認知を獲得する必要があると判断した。テレビCMは即時の費用対効果を求める施策ではなく、市場そのものを創出するための先行投資として位置付けられていた。

結果

一般層への浸透と成長加速

テレビCMの放映により、メルカリの認知度は急速に高まり、これまでサービスに触れていなかった層の新規登録が増加した。フリマアプリという概念が広く共有され、個人間取引が日常的な行動として受け入れられる下地が形成された。

この施策は、短期的には広告費の増大というコストを伴ったが、結果としてユーザー基盤と取引量の拡大をもたらし、その後の大型資金調達や市場支配につながる成長軌道を描く起点となった。14.5億円の調達とテレビCM投下は、メルカリがニッチサービスからマス向けプラットフォームへ転換するための決定的な一歩であった。

カスタマーサポートの施策(推定)
DateTypeAction
2014/3CSCS50名の採用決定
2014/3開発(バッチ処理)不適切商品の自動抽出
2014/3開発(社内管理画面)禁止用語のアラート
2014/5CS仙台CS拠点を稼働
2014/7開発(社内管理画面)出品停止機能を追加
2014/11開発(社内管理画面)模造品の削除強化
2015/2開発(アプリバックエンド)再登録防止システム
Date
2014/3
Type
CS
Action
CS50名の採用決定
出所メルカリ:カスタマーサポートの取り組みを中心に | 2015/3/20
期間内容還元
2014/5/10-25CM放映記念総額300万円分出品キャンペーン
2014/6/6-12300万DL突破記念最大10万円分のポイントがあたる
2014/7/2-9ありがとう1周年記念総額300万円分出品キャンペーン
2014/9/25-30500万DL突破記念毎日総額100万が5000人にあたる
2014/10/11-23CM放映記念総額1000万円分出品キャンペーン
2014/11/14-26CM放映記念出品キャンペーン・10000円分をゲッツ
2014/12/3-12/7700万DL突破記念3万円分のポイントがあたる
期間
2014/5/10-25
内容
CM放映記念
還元
総額300万円分出品キャンペーン
出所メルカリ公式(@meracri_jp)のTweetより
2014/6期(単体)売上高 0億円経常利益 -13億円
スタートアップがテレビCMに踏み切った異例の判断

2014年時点でスタートアップがテレビCMを打つことは異例であり、オンライン完結型サービスにマス広告は不要という見方が主流だった。しかし小泉文明氏は入社直後から資金調達・CM制作・仙台CSオフィス立ち上げを同時並行で進め、わずか3ヶ月で実行に移した。この判断の核心は、フリマアプリを一部のIT層に留めず一般生活者に認知させるには、短期間で大規模なリーチが必要だという認識にある。CM放映後の半年間で500万DLから700万DLへと加速し、ニッチからマスへの転換点となった。

証言小泉文明氏(メルカリ・会長)

当時のメルカリは良いプロダクトはあるけれど、広報・PRができていない状態だったんです。Winnerになるためには、後輪をどう回していくかがすごく重要になるな、と。もちろん、PRにも力を入れるのですが、認知度を一気に高めてアプリのインストール数を増やし、GMV(流通取引総額)を上げていくには、ペイドメディアを活用した広告にも力を入れていかないといけない。そのためには当然、一定の資金も必要になります。メルカリに入社後、まずは資金調達の交渉とテレビCMの制作を同時並行で進めていきつつ、「テレビCMを放送したら現状のカスタマーサポート(CS)では対応しきれなくなる」と思っていたので、CS仙台オフィスの立ち上げもやっていきました。

証言小泉文明氏(メルカリ・会長)

入社から3カ月間はこれらの事柄に全力で取り組み、やりきったという感じです。結果的に2014年3月末に14.5億円の資金調達を実行し、ゴールデンウィーク明けにはテレビCMを開始し、そこから一気にサービスを伸ばしていくことができました。

年表14.5億円を調達・テレビCMの放映に関する出来事
20145月テレビCM放映開始
20149月国内500万DL突破
2014
販売手数料を有料化。売上計上を開始
2014
Mercari, Inc.を設立(米国)
2015
本社を六本木ヒルズに移転
2015
ヤマト運輸と提携
2015
完全子会社ソウゾウを設立
2015
Mercari Europe Ltd.を設立(英国)
2016
3月

83.5億円を資金調達

2016/6期(連結)売上高 122億円経常利益 -0億円
評価額1200億円の調達が固定化した「広告先行型」の成長構造

83.5億円の調達は競合が本格参入する前に規模で圧倒するための先行投資であり、市場そのものを固定化する狙いがあった。実際、FY2015-FY2017の広告宣伝費率は55〜97%と異常に高く、売上の大半を広告に再投資する構造が常態化していた。この投資モデルはネットワーク効果による独占的地位の確立には有効だったが、一度組み上がった高固定費構造は成長鈍化局面での調整余地を狭めるリスクも孕んでいた。黒字化より規模を優先するという明確な意思表示が、メルカリの成長軌道と経営課題の両方を規定した転換点である。

背景

国内CtoC急成長と競争前夜

2015年から2016年にかけて、メルカリは国内CtoC市場において急速に取引量を拡大させていた。スマートフォン前提のUIと即時性の高い取引体験が一般層に浸透し、フリマアプリというカテゴリ自体が新たな市場として成立し始めていた。一方で、サービスの急拡大に伴い、広告投資、サーバー増強、不正対策、カスタマーサポートといった運営コストも同時に増加していた。

また、メルカリの成長を受けて、既存のEC事業者や新興スタートアップによる参入が想定され、市場競争が本格化する前段階に差しかかっていた。取引量とユーザー数で先行優位を確立できるかどうかが、中長期の競争力を左右する局面であり、短期的な利益確保よりも、スケール拡大を優先すべきフェーズに入っていた。

決断

大規模調達による先行投資

こうした状況を踏まえ、2016年3月、メルカリは三井物産などを引受先として83.5億円の資金調達を実施した。評価額は約1200億円に達し、国内スタートアップとしては異例の規模であった。この資金は、広告宣伝費の増額、開発体制の拡充、取引安全性を高めるためのシステム投資などに重点的に充てられる計画とされた。

この判断は、黒字化を急ぐよりも、取引量とユーザー基盤を最大化することを優先する明確な意思表示であった。競合が本格的に資本投下を始める前に、圧倒的な規模と認知を確立することで、市場構造そのものを固定化する狙いがあったと言える。

結果

市場支配確立と費用構造固定

調達資金を背景にした広告投資はユーザー獲得を一段と加速させ、メルカリは国内CtoC市場において事実上のトップポジションを確立した。取引量の拡大はネットワーク効果を強化し、後発サービスとの差は急速に広がっていった。

一方で、この局面で形成された広告依存型の成長モデルと固定費構造は、その後の成長鈍化局面において調整余地を狭める要因ともなった。83.5億円の資金調達は、市場支配力を確立するための決定打であったと同時に、高成長を前提とした経営構造を固定化した転換点として位置付けられる。

メルカリ > 売上高・広告宣伝費
FY売上高(a)広告宣伝費(b)(b)/(a)
FY201542億円41億円97.6%
FY2016122億円68億円55.7%
FY2017220億円141億円64.0%
FY
FY2015
売上高(a)
42億円
広告宣伝費(b)
41億円
2016/6期(連結)売上高 122億円経常利益 -0億円
評価額1200億円の調達が固定化した「広告先行型」の成長構造

83.5億円の調達は競合が本格参入する前に規模で圧倒するための先行投資であり、市場そのものを固定化する狙いがあった。実際、FY2015-FY2017の広告宣伝費率は55〜97%と異常に高く、売上の大半を広告に再投資する構造が常態化していた。この投資モデルはネットワーク効果による独占的地位の確立には有効だったが、一度組み上がった高固定費構造は成長鈍化局面での調整余地を狭めるリスクも孕んでいた。黒字化より規模を優先するという明確な意思表示が、メルカリの成長軌道と経営課題の両方を規定した転換点である。

年表83.5億円を資金調達に関する出来事
20163月三井物産などから83.5億円を調達
第三者割当増資83.5億円
2017
メルペイを設立。決済の内製化に注力
2018
東証マザーズに株式上場
2018
7月

マイクロサービス化の開始を公表

2018/6期(連結)売上高 357億円経常利益 -47億円
「逆コンウェイの法則」で組織まで分割した野心と誤算

マイクロサービス化で注目すべきは、システムの分割にとどまらず組織構造まで相似形に切り直そうとした点にある。CTOの若狭氏が述懐するように、サービスの切り方が正解かわからない段階で組織も同時に切り直した結果、ソフトウェアは修正できても組織の再編には数週間〜数ヶ月を要するという非対称性に直面した。元Google出身者が「Googleでは誰もマイクロサービスとは言っていなかった」と振り返る点も示唆的であり、急成長スタートアップが大企業の技術手法を導入する際の難しさを浮き彫りにしている。

背景

急成長が招いた技術的限界

2010年代後半、メルカリは国内CtoC市場で圧倒的な取引量とユーザー基盤を確立していた。一方で、その成長はサービス開始当初に構築したシステムアーキテクチャに大きな負荷を与えていた。単一のコードベースと密結合した構成は、機能追加や改修のたびに全体への影響を考慮する必要があり、開発速度と安定性の両立が難しくなっていた。

また、取引量の増加に伴い、障害発生時の影響範囲が拡大し、サービス全体を止めかねないリスクが高まっていた。事業としては国内外での拡張や新規サービス展開を視野に入れていたが、既存のアーキテクチャのままでは、将来の成長を支える基盤として限界があるという認識が、社内で共有されつつあった。

決断

基盤刷新を前提とした構造転換

こうした課題を受けて、2018年7月、メルカリはシステムのマイクロサービス化に着手することを公表した。機能単位でサービスを分割し、開発・デプロイ・運用を独立させることで、開発効率と耐障害性を高めることを目的とした判断であった。

この取り組みは、短期的な開発速度の低下や移行コストを伴うことが前提であり、即時の事業成果を狙った施策ではなかった。それでも、将来の事業拡張と組織拡大を見据え、技術的負債を放置せずに構造的な刷新に踏み切るという、長期視点に立った意思決定がなされた。

結果

持続的開発体制への転換

マイクロサービス化の開始により、メルカリはシステムを段階的に分割し、チーム単位での開発と運用を可能にする体制へと移行していった。これにより、特定機能の改修や新機能追加が全体に与える影響を抑えつつ、開発サイクルを回すことが可能となった。

短期的には移行負荷や運用の複雑化といった課題も顕在化したが、結果としてこの判断は、サービスの安定性と拡張性を確保する基盤を整えることにつながった。2018年のマイクロサービス化は、メルカリが一過性の成長企業から、長期運営を前提としたプラットフォーム企業へ移行するための重要な転換点となった。

2018/6期(連結)売上高 357億円経常利益 -47億円
「逆コンウェイの法則」で組織まで分割した野心と誤算

マイクロサービス化で注目すべきは、システムの分割にとどまらず組織構造まで相似形に切り直そうとした点にある。CTOの若狭氏が述懐するように、サービスの切り方が正解かわからない段階で組織も同時に切り直した結果、ソフトウェアは修正できても組織の再編には数週間〜数ヶ月を要するという非対称性に直面した。元Google出身者が「Googleでは誰もマイクロサービスとは言っていなかった」と振り返る点も示唆的であり、急成長スタートアップが大企業の技術手法を導入する際の難しさを浮き彫りにしている。

証言若狭建氏(メルカリ執行役員・メリカリジャパンCTO)

メルカリには「変更が容易なソフトウエアを作る」という大きなチャレンジがありました。そこで2018年の8月にマイクロサービスに舵を切ったんですよ。それで、「じゃあマイクロサービスを実現するための組織とは」という話をして、各モジュールが自律的に機能するのと同様に、組織もそれと同じ構造にしようとしていたんです。「逆コンウェイの法則(※)」というやつですね。(略)

でも、これは上手くいったかどうかは抜きにして、個人的にはかなり野心的な挑戦だったなと思います。やっぱりソフトウエアとエンジニア(人)は違うんですよ。同じように扱うのは難しい。前職のGoogleを振り返ってみると、誰もマイクロサービスとか言ってなかったんですよ。(略)

そう。でも、思い起こせばエンジニア一人一人はかなりマクロなサービスを触ってたんです。つまり「組織の話と作っているものの話って、そこまでリンクしてないんじゃない?」と思ったりするわけです。で、モノリスからマイクロサービスに切り出そうとしたときに、どう切ればいいかなんて誰も分からないじゃないですか。この切り方で良いのかなんて分かんないけど、とりあえず切る。マイクロサービスと組織は相似形でやりたいから組織も同じように切る。でも、後で「この切り方は間違いだったね」なんて話もあるわけです。すると、ソフトウエアは100歩譲って直せばいいですけど、組織は簡単には直せないじゃないですか。「チームAの一部をチームBに合流させよう」と言ったって、そこにはいろいろな調整が発生して、数週間、ときには数カ月を要することもあります。

年表マイクロサービス化の開始を公表に関する出来事
20185月Web re-architectureプロジェクトを開始
20196月マイクロサービスのリリース開始(Web)
20226月Webにおけるマイクロサービス化が一巡
2018
マイケル社を買収
2019
鹿島アントラーズの株式取得
2019
フリマアプリの競争激化
2020
メルペイがOrigamiを買収
2020
BASEの株式6%を約70億円で売却
2021
3月

完全子会社ソウゾウを設立(2代目)

2021/6期(連結)売上高 1,061億円経常利益 49億円
CtoC基盤でBtoCを成立させる実験と28億円の授業料

メルカリShopsの狙いは、CtoC基盤の集客力を活かして事業者を取り込み、取引総額を拡張することにあった。あえて別会社とすることで既存事業のKPIから切り離し、意思決定速度を確保する設計だった。しかし出店数20万店を超えても、加盟店管理やCSのコスト負担が重く、取引拡大が収益改善に直結しなかった。28億円の減損と100名規模の人員削減は、個人間取引と事業者向け取引では求められるオペレーションが本質的に異なることを示した結果であり、プラットフォームの横展開の難しさを映している。

背景

国内成長鈍化と新収益模索

国内CtoC市場においてメルカリは高い認知と取引量を確立していたが、取引単価や手数料率の構造上、売上成長には限界が見え始めていた。また、フリマ市場を巡る競争が激化する中で、既存モデルの延長のみでは中長期の成長を説明しにくい局面に入っていた。

2020年以降のコロナ禍は、小規模事業者にとってオンライン販売の必要性を顕在化させた一方、メルカリにとってはCtoCの枠を超えた新たな取引主体を取り込む契機ともなった。個人だけでなく事業者を取り込むことで、取引総額の拡張を図る余地が生じていた。

決断

BtoC領域への本格進出

こうした環境を受け、2021年3月に完全子会社ソウゾウ(2代目)を設立し、BtoCサービスである「メルカリShops」の開発を開始した。既存のCtoC基盤とは異なり、加盟店審査や商品管理といった新たな運営要素を取り込む設計となった。

あえて別会社とすることで、既存事業の文化やKPIから切り離し、新規事業としての意思決定速度を確保する狙いがあった。プラットフォームの集客力を活用しつつ、取引主体の拡張による成長を目指す判断であった。

結果

成長実証と収益化の乖離

メルカリShopsは出店数を拡大し、一定の需要を可視化することには成功した。しかし、加盟店管理やサポートに伴うコストは想定以上に重く、取引拡大が即座に収益改善には結びつかなかった。

結果として28億円の減損を計上し、人員削減を含む事業調整を余儀なくされた。この取り組みは、CtoC基盤の延長でBtoCを成立させる難易度と、事業拡張に伴う固定費リスクを明確に示す結果となった。

メルカリShopsの推定開発体制(2021年頃)
namerolememo
石川佑樹氏ソウゾウCEO2023/5にCEOを退任
名村卓ソウゾウCTO2022/6にメルカリを退職
@camyTechnical Product Manager
@unryu-inProduct Manager2022/7メルカリ執行役員に就任
@keigowSoftware Engineer
@dragon3Software EngineerInfra
@napoliSoftware Engineer
@hiroppySoftware EngineerFrontend
@motokieeSoftware EngineerBackend&Frontend
@wakanapoML EngineerML
name
石川佑樹氏
role
ソウゾウCEO
memo
2023/5にCEOを退任
出所mercan:「新会社ソウゾウ立ち上げ期、いま率直にどうですか?」をメンバーに聞いてみた! | 2021/4/28
2021/6期(連結)売上高 1,061億円経常利益 49億円
CtoC基盤でBtoCを成立させる実験と28億円の授業料

メルカリShopsの狙いは、CtoC基盤の集客力を活かして事業者を取り込み、取引総額を拡張することにあった。あえて別会社とすることで既存事業のKPIから切り離し、意思決定速度を確保する設計だった。しかし出店数20万店を超えても、加盟店管理やCSのコスト負担が重く、取引拡大が収益改善に直結しなかった。28億円の減損と100名規模の人員削減は、個人間取引と事業者向け取引では求められるオペレーションが本質的に異なることを示した結果であり、プラットフォームの横展開の難しさを映している。

証言石川佑樹氏(ソウゾウ・CEO)

きっかけの1つはコロナ禍です。決済サービス「メルペイ」の加盟店など、様々な事業者の声に耳を傾けていくと、「オフラインでの営業が厳しくなってしまった」と。そこから、「メルカリというプラットフォームを活用して、何とか解決できないか」という意見を多くいただいていたんです。

年表完全子会社ソウゾウを設立(2代目)に関する出来事
20213月ソウゾウを会社設立
202110月メルカリShopsをリリース
20224月メルカリShops20万店舗を突破
Shops出店数20万店
20226月ソウゾウで減損28億円を計上
ソウゾウ減損損失28億円
20236月前年比で従業員100名削減
人員削減100
2021
5月

情報漏洩・不正決済が継続的に発生

2021/6期(連結)売上高 1,061億円経常利益 49億円
半年で32億円の不正補償が突きつけた統制コストの現実

メルカリの不正問題で注目すべきは、2022年上半期だけで不正決済の補償額が32億円に達した規模感である。情報漏洩1.7万件、不正決済の補償32億円という数字は、マイクロサービス移行の過渡期にシステムの攻撃面が拡大していたことを示唆する。成長フェーズでは利便性を優先し、セキュリティ投資は後回しにされがちだが、プラットフォームが一定規模に達すると統制コストが急激に顕在化する。この局面は、メルカリがスタートアップ的な運営からプラットフォーム企業としての責任体制へ移行を迫られた転換点であった。

背景

取引規模拡大とリスク露出増大

2020年前後、メルカリは国内最大級のCtoCプラットフォームとして取引量と利用者数を拡大させていた。決済、配送、本人確認など多様な機能が統合され、プラットフォームとしての利便性は高まっていた一方、システムの複雑化と外部連携の増加により、セキュリティ上の攻撃面も拡大していた。

特に、不正ログインやアカウント乗っ取り、決済情報の悪用といったリスクは、利用者数の増加に比例して顕在化しやすい構造を持っていた。マイクロサービス化を進める過程で、システム構成や運用フローが過渡期にあったこともあり、技術面・運用面の双方でリスク管理の難易度が高まっていた。

決断

対症対応から体制強化へ

2021年5月、情報漏洩や不正決済が継続的に発生している状況を受け、メルカリは個別事案への対応にとどまらず、セキュリティ対策とリスク管理体制の強化を進める判断を下した。影響範囲の特定や利用者への告知、補償対応を行うと同時に、システム監視や不正検知の仕組みを見直す方針が示された。

これは、成長を優先してきた運営方針の下で後回しになりがちだった統制領域に、経営として本格的に資源を配分する意思決定であった。利便性と安全性のトレードオフを再調整し、信頼を維持することを優先課題として位置付けた点に特徴がある。

結果

信頼回復を軸とした運営転換

継続的な不正事案への対応を通じて、メルカリはセキュリティ投資と運用コストの増加を受け入れることになった。短期的には利益率を押し下げる要因となったが、プラットフォームとしての信頼性を維持するためには不可避の選択であった。

この局面は、メルカリが成長スピードを最優先する段階から、安定運営とリスク管理を重視するフェーズへ移行したことを示している。2021年の一連の不正問題は、プラットフォーム企業としての責任と統制の重要性を再認識させる転換点となった。

2021/6期(連結)売上高 1,061億円経常利益 49億円
半年で32億円の不正補償が突きつけた統制コストの現実

メルカリの不正問題で注目すべきは、2022年上半期だけで不正決済の補償額が32億円に達した規模感である。情報漏洩1.7万件、不正決済の補償32億円という数字は、マイクロサービス移行の過渡期にシステムの攻撃面が拡大していたことを示唆する。成長フェーズでは利便性を優先し、セキュリティ投資は後回しにされがちだが、プラットフォームが一定規模に達すると統制コストが急激に顕在化する。この局面は、メルカリがスタートアップ的な運営からプラットフォーム企業としての責任体制へ移行を迫られた転換点であった。

年表情報漏洩・不正決済が継続的に発生に関する出来事
20176月個人情報の流出を公表
流出件数459
20215月個人情報の流出を公表
流出件数1.7万名
20228月不正決済による補償(損失)
6ヶ月間の補償額32億円
2021
6月

Mercari, Inc.で巨額減損を計上

2021/6期(連結)売上高 1,061億円経常利益 49億円
累計181億円の減損が示す米国CtoC市場の壁

FY2018に103億円、FY2021に78億円と累計181億円の減損を計上した事実は、日本で成功したCtoCモデルの米国横展開がいかに困難かを物語っている。米国にはeBay・Facebook Marketplaceなど既存の中古取引文化が根付いており、メルカリの強みであるスマホ完結の手軽さだけでは差別化が不十分だった。山田氏自身が投資家との対話で「全方位の積極投資から慎重な見極めへ」と姿勢を転換したことは、上場後に高い成長期待を背負ったテック企業が直面する投資規律の再構築という普遍的な課題を映し出している。

背景

海外成長期待と収益化の乖離

2010年代後半、メルカリは国内CtoC市場での優位を背景に、成長余地を海外、とりわけ米国市場に求めていた。米国ではスマートフォン利用が早期に普及しており、個人間取引の市場規模も大きいことから、日本で確立したモデルを横展開できる可能性があると判断されていた。一方で、米国市場では既存ECプラットフォームや中古取引文化がすでに根付いており、単純なUI改善や利便性訴求だけで差別化することは難しい環境にあった。

また、米国事業はユーザー獲得を最優先とし、広告投資や人員拡充を継続してきたため、取引量の拡大に比して収益化が遅れる構造となっていた。国内での黒字基盤を前提に投資を継続していたが、為替や競争環境の変化により、想定していた成長曲線との乖離が徐々に顕在化していた。

決断

海外事業価値の見直し

2021年6月、メルカリは米国子会社Mercari, Inc.において巨額の減損を計上する決断を下した。これは、将来キャッシュフローの見通しを保守的に再評価し、これまでの成長前提を修正する判断であった。短期的な業績悪化を受け入れてでも、事業価値の評価を現実に即した水準へ引き下げる必要があると認識された。

この減損は、海外展開そのものを否定するものではなく、投資規模と回収期間の前提を改めることを意味していた。拡大一辺倒ではなく、選択と集中を伴う運営へ移行するための会計上の整理として位置付けられた判断である。

結果

海外戦略の再定義と負担顕在化

巨額減損の計上により、メルカリの連結業績には一時的に大きな影響が生じた。これまで成長期待を織り込んでいた海外事業が、短期的には利益貢献しないことが明確となり、投資家や市場からは戦略の妥当性が改めて問われる局面となった。

一方で、この減損は海外事業の現状を直視し、今後の戦略を再設計するための前提条件を整えたとも言える。結果として、メルカリは海外展開を長期的視点で捉え直し、投資効率と事業優先順位を再検討する段階へと移行した。2021年6月の減損は、グローバル成長戦略における現実認識を伴う転換点となった。

2021/6期(連結)売上高 1,061億円経常利益 49億円
累計181億円の減損が示す米国CtoC市場の壁

FY2018に103億円、FY2021に78億円と累計181億円の減損を計上した事実は、日本で成功したCtoCモデルの米国横展開がいかに困難かを物語っている。米国にはeBay・Facebook Marketplaceなど既存の中古取引文化が根付いており、メルカリの強みであるスマホ完結の手軽さだけでは差別化が不十分だった。山田氏自身が投資家との対話で「全方位の積極投資から慎重な見極めへ」と姿勢を転換したことは、上場後に高い成長期待を背負ったテック企業が直面する投資規律の再構築という普遍的な課題を映し出している。

証言D.Friedman氏と山田進太郎氏の質疑応答

D.Friedman氏:メルカリの株価がアンダーパフォームしている要因として、投資家の期待がグロースよりも利益の創出にシフトしてきていると思う。今後、メルカリはどのようにして利益を創出していく計画か?

山田進太郎氏の答:我々も投資規律をアップデートしており、業績予想から計算すれば分かる通り、4Q は損益が大きく改善する見込みを立てている。マーケティングだけでなく、コスト全般を見直し、筋肉質な体制を目指している。投資についても半年ほど前まで行っていたような全方位に積極的な投資モードから、特に新規事業については慎重に見極めながら投資をするように変更している。グループ全体としての黒字化を目指すという話ではないが、世の中的な流れを受けて、我々も投資の考え方をアップデートしたということ。一方、周りの状況も刻々と変化しているので、その中でチャンスがあれば投資をしていくことも検討する。

年表Mercari, Inc.で巨額減損を計上に関する出来事
20186月Mercari, Inc.で減損を計上
減損損失103億円
20216月Mercari, Inc.で減損を計上
減損損失78億円
2023
未収入金が増加