2013年2月、東京都港区六本木に資本金2,000万円で株式会社コウゾウが設立された。社長へ就いた山田進太郎氏は、2001年8月に設立したウノウで代表取締役を務め、その後Zynga Japanのゼネラルマネージャーを経ていた。設立の5か月後にあたる同年7月、個人間取引のためのマーケットプレイス「メルカリ」の提供を始め、11月には社名を株式会社メルカリへ改めている。店舗での中古品売買には来店の手間と取扱商品の限りがあり、買取業者が間に入るぶん価格が不透明になる。インターネットオークションにも、出品の煩雑さと入札に要する時間という難点があった。スマートフォンから誰でも出品でき、提示された価格でその場で買い手が付く形は、その双方の難点を外した位置に置かれた。
メルカリが商品代金に応じた手数料の徴収を始めたのは、提供開始から14か月が過ぎた2014年10月である。第2期にあたる2014年6月期の提出会社の売上高は計上がなく、経常損失は13億7,300万円だった。手数料を後ろへ回した期間の費用は、売上ではなく資本で賄われている。第3期の2015年6月期に売上高は42億3,700万円となり、翌2016年6月期には連結売上高122億5,600万円まで伸びた。会社は2018年の時点でも、10%という手数料の水準を適度だと考えていた。出品者が増えるほど買い手の品揃えが厚くなり、買い手が増えるほど出品者の売却確率が上がる。この循環が立ち上がるまでは、手数料は回転を鈍らせる摩擦にしかならない。
手数料収入を持たない段階で、メルカリは調達した資金を広告へ振り向けた。2014年3月に第三者割当増資で14億5,000万円を集め、同年5月には初のテレビCMを全国で放映している。資本金は2014年6月期の8億8,500万円から2016年6月期の62億8,600万円へ増えた。その間にA種からD種までの優先株式が順に発行されている。日本のメルカリ事業の立ち上げ時期にも、非常に大きな投資が投じられていた。一定の線を超えれば利益が伸びる事業モデルであり、その線に達するまでは投資収益率を見ながら慎重に投じてきたという。手数料を後ろへ回したうえで広告費を先に積む順番は、収益ではなく利用者の数を先に買う判断だった。
日本で形になった手順を、メルカリは早い段階から海外へ移した。2014年1月に米国子会社Mercari, Inc.を設立し、同年9月に米国でマーケットプレイス「Mercari」の提供を始めている。米国でも手数料は後回しにされ、商品代金に応じた徴収を始めたのは2016年10月だった。2015年11月には英国子会社Mercari Europe Ltd.を設立し、2017年3月に英国での提供も始めた。米国市場は日本市場よりも成長余地が大きいという見立てのもとに置かれ、黒字化の時期は示されないままだった。急な拡大ではなく、売り手と買い手の双方を確保しながら着実に伸ばすことを重んじ、投資収益率を見ながら慎重に投じる方針を取っている。
英国での事業は、本格展開へ進む前に畳まれた。Mercari Europe Ltd.は2018年12月に解散を決議し、提供は2019年3月に終えている。英国事業には一定の成果もあったが、グループ戦略と資源配分を総合して考えた末に清算が選ばれた。英国よりも米国事業とメルペイ事業へ資源を振り向ける優先順位が高いと判断している。2016年4月に設立した英国子会社Merpay Ltd.も、2019年6月に解散を決議した。同じ時期、米国については、個人間取引のマーケットプレイスとして米国一位のアプリと言えるかどうかで今後のグローバル戦略が変わるとみていた。目標には月間の流通取引総額1億ドルという線を据えている。撤退の可否は市場の大きさではなく、限られた人手と資金をどこへ寄せるかで決まっていた。
本体の周りには、対象を絞った別のアプリが次々に置かれた。2016年3月にクラシファイドアプリ「メルカリアッテ」、2017年5月に本・CD・DVD向けの「メルカリカウル」を出した。中核である国内のメルカリ事業の成長は、海外と新規事業に資金を投じる前提にもなっていた。その周辺に、同年7月のライブ動画配信「メルカリチャンネル」、8月のブランド品向け「メルカリメゾンズ」、11月の即時買取「メルカリNOW」が相次いで加わったが、どれも一年から二年のうちに終了するか、機能を本体へ移して姿を消した。周辺へ広げた分だけ本体の人員が手薄になり、国内事業は当時、資源不足のなかで優先順位をつけながら進んでいた。こうした終了の連続を、メルカリは2018年の決算説明会で経営資源の選択と集中と位置づけた。
2018年6月、メルカリは東京証券取引所マザーズへ株式を上場した。直近の2018年6月期は連結売上高357億6,500万円に対し、経常損失47億4,100万円である。親会社株主に帰属する当期純損失は70億4,100万円だった。上場に伴って資本金は前期の62億8,600万円から348億300万円へ増えた。発行済株式総数も651万4,269株から1億3,533万9,722株となっている。A種からD種までの優先株式は取得請求権の行使を受けて自己株式となり、普通株式へ置き換わった。連結の従業員数は前期の596人から1,140人へ倍増している。損失を抱えたまま公開市場へ出たのは、投資を止めずに資金の出所を入れ替えるためだった。
第二の柱として選ばれたのは決済事業だった。2017年11月に国内子会社株式会社メルペイを設立し、2019年2月にスマホ決済サービス「メルペイ」の提供を始めている。会社が強みとして挙げたのは入金の側である。毎月数百億円が利用者のメルカリ口座へ入るが、その売上金はメルカリの中で使うか銀行口座へ引き出すかしかなかった。流れを加盟店へ向け替えれば、加盟店にとって導入の利点が増す。しかも売上金は自宅の不要品から生じた金であり、通常の金より消費されやすい。登録者は2019年6月末で200万人となり、月間利用者約1,350万人のメルカリに対する通過点と位置づけられた。決済そのもので短期に稼ぐのではなく、メルカリの流通取引総額を押し上げることを先に狙う設計である。
2020年6月期、新型コロナウイルスの感染拡大が事業の追い風になった。在宅の頻度が増えて利用者数と購入頻度が上がり、第4四半期の国内流通取引総額は前年同期比40%増、調整後営業利益率は42%に達している。会社は投資を抑え、広告宣伝費を四半期比で11億円削減した。それでも通期の連結売上高762億7,500万円に対する営業損失は193億800万円で、赤字の幅はこの期が最も大きい。米国事業は目標の月間流通取引総額1億ドルに届いたが、単月黒字には至らなかった。それでも顧客獲得単価を抑えながら生涯価値が上がってきたことを理由に、継続が決まっている。同じ年、三本柱を確立する実効性を高めるため監督と執行を分離し、執行部門が中長期の事業成長に集中する形へ改めた。
2021年6月期、メルカリは連結売上高1,061億1,500万円に対して営業利益51億8,400万円を計上し、通期で初めて営業黒字となった。決済子会社のメルペイも同年5月に単月の黒字へ届いた。収益力が上がった理由は、注力してきた与信事業と、メルカリの内外で増えた決済手数料収入にあった。ただし、黒字を守る経営へ移ったわけではない。国内のマーケットプレイス・メルペイ・米国事業の三本柱にはなお成長の余地があり、新規事業を含めて投資を続けるとした。短期の利益より将来利益の最大化を重んじる方針も、黒字化を境に変えなかった。初の黒字は到達点ではなく、次の投資の原資として扱われた。
黒字化と前後して、会社は三本柱の外側へ子会社を並べた。2021年1月に株式会社ソウゾウを設立し、4月には暗号資産を扱う株式会社メルコインを置いている。10月にはソウゾウが事業者向けの「メルカリShops」を始め、物流の株式会社メルロジも設立された。山田進太郎氏の見立てでは、経営資源を集中した三本柱は成果を上げ、成功の確信度も高まっていた。2022年6月には東京証券取引所の区分をプライム市場へ移し、同じ月にインドで開発子会社を設立している。これに対しソウゾウとメルコインは、成功を確信しているというより機会の大きな事業という位置づけであり、確信を持てる事業と機会の段階にとどまる事業を同じ資本のもとで並べて走らせる構えだった。
取引の場に貯まった履歴は、与信へ振り替えられた。2022年11月、メルペイは「メルカリ」の利用履歴に基づく独自のAI与信を使ったクレジットカード「メルカード」の提供を始めている。2025年6月期までに発行は500万枚を超え、2025年3月には上位カードの「メルカードゴールド」も加えた。会社はゴールドについて、メルカードの利用頻度が高い顧客が移ってきており、成長の余地は大きいとみている。暗号資産にも手を伸ばし、2023年3月にメルコインが「メルカリ」でビットコイン取引を、2024年5月にはイーサリアムの取り扱いを始めた。品物を売った代金が決済へ回り、決済の履歴が与信の材料になる構造ができあがった。
創業から10年目にあたる2023年、会社は看板と機関設計を同時に替えた。2021年12月に置いたESG委員会は、2024年7月に執行役会へ組み込まれた。これに先立ち2023年2月には新たなグループミッション「あらゆる価値を循環させ、あらゆる人の可能性を広げる」を掲げ、同年9月に監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移っていた。山田進太郎氏は、会社の仕組みを整えることが大事な局面に入ったとして、統治の強化と全体の戦略づくりに時間の多くを充て、その間の執行はSVPに任せていた。本来の専門は現場でのプロダクト管理であり、欧米で得た情報を若手の現場へ戻す場も増やしている。全体戦略と現場という両端を創業者自らが握り、その中間を制度で補う形に近づけた。
黒字が続くようになると、争点は成長と収益のどちらへ資金を寄せるかへ移った。成長と収益の均衡に気を配った経営の結果、2023年6月期は流通取引総額が前年比10%伸び、調整後営業利益率は44%に達した。固定費まで含めて費用の見直しがこの一年で進み、投資規律も根づいたことで、マーケットプレイスは収益を上げやすい体質に変わっていた。2024年6月期は焦点を再びトップラインの成長に戻し、流通取引総額で10%以上の成長率を目標とした。会社はまた、新たなサービスや機能を生み出して投資を向ければ、規模が拡大しても投資収益率の高い投資先は減らないと説明した。利益率を天井ではなく調整弁と見なすことを、目標の立て方自体で宣言した形である。
品物の売買の外側にも、同じ利用者基盤を当てにした事業が置かれた。2024年3月に空き時間の仕事を扱う「メルカリハロ」を始め、4月には全国へ広げている。登録者は開始から1年3か月で1,200万人を超え、2025年4月からは手数料の徴収も始めた。国境の外へも越え、2024年8月に台湾、2025年5月に香港へ越境取引で進出した。2025年6月期の越境取引は900億円で、2022年6月期からの3年で約15倍になっている。会社は提携先を介した取引に加え、自社で越境の体験を直接届ける形の拡大も目指していた。ただしメルカリハロは2026年6月期に撤退し、同期の業績予想の上方修正において、その撤退は主たる要因ではなかった。
日本で作った型の移植は、10年目に会計上の評価として跳ね返った。2023年2月、会社はMercari, Inc.株式について約80億円の評価損を公表し、2023年6月期第2四半期に計上している。同期の米国セグメントは売上高444億4,000万円に対してセグメント損失87億5,800万円だった。会社は苦戦の理由を、新型コロナウイルスの感染拡大で在宅時間が長くなり、それが追い風として働いた点に求め、その分だけ同業他社よりも反動を強く受けている面があると説明した。赤字はこの期に限らず、前期の2022年6月期も売上高416億1,100万円に対して121億3,500万円の損失を出しており、二期続けての赤字だった。追い風が止めば、それで得た成長は同じ幅だけ戻る。
翌年、会社は米国事業の規模そのものを縮めた。2024年6月に人員を半数程度へ絞り、米国セグメントの従業員は2024年6月期末の147人から2025年6月期末には121人となった。2024年3月には米国で販売手数料を無料化し、購入者が手数料を負担する形へ改めている。2025年1月には、主に出品者が負担する形へ戻した。国内でも整理が進み、2023年8月にソウゾウの「メルカリShops」に関わる一部の部門を吸収分割で本体へ移した。ソウゾウ自体も2024年4月の吸収合併で消えている。伸びない事業から投資を引き、伸びる事業へ人と金を戻す作業が、国内と米国の双方で二年がかりで進んだ。
連結では2025年6月期、売上収益1,926億3,300万円に対し営業利益278億4,000万円を計上した。米国セグメントも売上高364億1,800万円で営業利益7億3,700万円を出し、損益分岐点を回復した。国内では流通取引総額が1兆1,209億円に達し、月間利用者数は2,300万人を上回った。米国事業は当面続け、できるだけ早く成長の軌道に戻すことを目標とする一方、独立資本での成功には固執せず、外部資本や提携も含めたあらゆる選択肢を検討対象とした。2026年6月期は上期が計画を超え、連結のコア営業利益の予想が40億円上方修正された。
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|---|---|---|---|---|
| 2013〜2020年手数料を後回しにして規模を買い、赤字のまま上場した投資期 | 山田進太郎 | コウゾウを設立 | ★★ | |
| 山田進太郎 | スマホ前提の個人間取引への再定義による新市場の開拓 2013年2月、ウノウの設立・売却を経た山田進太郎社長が東京都港区六本木に資本金20百万円で株式会社コウゾウを設立し、同年7月にスマートフォンに完全特化したフリマアプリ「メルカリ」を公開した。価格を競り上げるオークションではなく、出品者が値を決める即決価格のフリマ形式を採った創業判断である。商号を株式会社メルカリへ改めたのは同年11月で、サービスの名がそのまま社名になった。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 山田進太郎 | 社名をメルカリに変更 | ★ | ||
| 山田進太郎 | 14.5億円の資金調達を原資としたマス広告への一気の投入 2014年5月10日、サービス開始から2年目のメルカリが、初のテレビCMを一部の地域を除く全国で放映した。原資は3月31日に第三者割当増資で集めた14.5億円で、山田進太郎社長のもと、調達したばかりの資金をマス広告へ一気に振り向けた。 商品代金の原則10%を出品者から受け取る手数料の徴収が始まるのは同年10月で、2014年6月期の提出会社には売上高の記載がなく、経常損失は1,373百万円、純資産額は351百万円にとどまる。収入の裏づけを持たないまま全国へCMを流す選択だった。 詳細を読む | ★★ | ||
| 山田進太郎 | 初のテレビCMを全国で放映開始 | ★★★ | ||
| 山田進太郎 | 6億米ドルを注ぎ、11年目に営業黒字へ届いた米国事業 2014年1月、日本でのサービス開始から半年で米国子会社Mercari, Inc.をカリフォルニア州パロアルト市に設立し、同年9月にCtoCマーケットプレイス「Mercari」の提供を米国で始めた。議決権は100.0%を保有し、企画・開発・運営は現地法人が担いながら開発業務は日本側が受託する形をとった。 商品代金に応じた手数料の徴収は日本より2年遅い2016年10月まで見送り、無料のまま利用者を積み上げた。出資はその後も積み増され、Mercari, Inc.の資本金は2018年6月期末の240,555千米ドルから2025年6月期末には620,511千米ドルに達している。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 小泉文明 | スマホ決済への参入による、フリマと決済をつなぐ自社経済圏の構築 2017年11月20日、メルカリは金融関連の新規事業を行うことを目的に、100%子会社の株式会社メルペイを東京都港区に設立した。資本金は600百万円、主要な事業内容は資金移動業等の金融関連事業の企画・開発・運営で、フリマで得た売上金を実店舗やネットの決済でも使える経済圏の構築を子会社に担わせる形をとった。 2018年7月31日に3,000百万円を払い込んで増資し、同年12月1日には決済サービス事業に関する権利義務の一部を吸収分割でメルペイへ移した。2019年2月にスマホ決済サービス「メルペイ」の提供が始まり、フリマに次ぐ第二の柱として金融・決済への参入が形になった。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 小泉文明 | 東京証券取引所マザーズに株式上場 | ★★ | ||
| 山田進太郎 | NTTドコモとの業務提携を開始 | ★★ | ||
| 2021〜2026年黒字転換後の金融への拡張と、米国事業の縮小 | 山田進太郎 | 国内子会社メルコインを設立 | ★ | |
| 山田進太郎 | 情報漏洩・不正決済が継続的に発生 | ★★ | ||
| 山田進太郎 | 「メルカリShops」の提供を開始 | ★ | ||
| 山田進太郎 | 「メルカード」の提供を開始 | ★★ | ||
| 山田進太郎 | 創業CEOが退任したあとの後継の選び方を、先に制度へ預ける機関設計の転換 2023年9月28日の第11回定時株主総会で定款の変更が決議され、同日付で監査役会設置会社から指名委員会等設置会社へ移った。取締役会は社外取締役6名を含む10名となり、その下に指名委員会・報酬委員会・監査委員会を設置した。指名委員会と報酬委員会はいずれも4名のうち3名が独立社外取締役で、委員長も独立社外取締役から選ぶ。 法令・定款・取締役会規程で定めた事項を除く業務執行の意思決定は、6名の執行役へ委ねられた。監督と執行を、人でも権限でも切り分けた形である。 詳細を読む | |||
| 山田進太郎 | Mercari, Inc.株式の評価損約80億円を公表(計上は2023年6月期第2四半期) | ★★ | ||
| 山田進太郎 | 「メルカリハロ」を提供開始 | ★ | ||
| 山田進太郎 | 海外の拡大に区切りをつけ、成長の軸を国内へ戻す転換 2024年6月期第4四半期、メルカリは米国事業で人員削減を含む組織再編に踏み切った。USセグメントの従業員数は1年で260人から147人へ減り、マーケティング費用の見直しとあわせてセグメント損失は8,758百万円から5,293百万円へ縮んだ。 同じ2024年3月には空き時間おしごとサービス「メルカリ ハロ」を国内で始め、開始3か月弱で登録ユーザ数は500万人、パートナー拠点数は全国5万店舗に達した。海外の拡大に区切りをつけ、成長の軸を国内へ戻す転換であった。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 山田進太郎 | 「メルカリ」越境取引で台湾に進出 | ★ |
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事実根拠:出所(メルカリ)