小平浪平氏の国産技術主義は、技術の自立である以上に、販路の自由を確保する手段になった。外国企業と提携しなかったため、1930年代前半のインドなどで扇風機は日立の独壇場となり、地域制限を受けた他社は参入できなかった[3]。輸出は1926年の米国向け扇風機に始まり、ソ連向けの発電機にまで広がった[4]。提携による技術の近道を捨てた代償は、輸出先を選べる自由で回収されたことになる。日立鉱山からの創業での自前主義が、後発の日立に世界市場への入口を開いた。
戦後の日立が重電で東芝に並べたのは、創業以来の自前主義を撤回し、先行者と同じ技術源を獲得したからだった。GEとの提携では東芝が先行していたが、火力タービンの大容量化を見込んだGEが複数の提携先を認めた機会を捉えた[7]。GEとの技術提携から6年後の1959年には、重電部門で東芝を追い抜いたと業界で認知された[8]。後追いの提携でも、戦前から蓄えた研究陣の厚みが、導入技術の吸収を速めた。
日立の半導体投資を狂わせたのは、市場の読み違いより、東芝から首位を奪還するという目標の立て方だった。1メガに的を絞った東芝が1989年3月期の営業利益で日立を上回り、4メガでの首位奪還が理屈抜きの目標になった[11]。順位を基準にした配分は、情報・エレクトロニクス部門への傾斜を強めた。事業間の相互補完という総合電機の強みも、偏った配分の下では機能しない。DRAM以外の収益源を育てなかった帰結が、1999年3月期の創業以来初の最終赤字である[12]。
庄山悦彦氏の構造改革の意義は、事業の数を減らしたことより、撤退の基準を指標に置き換えた点にある。2002年に資本コストを織り込んだ業績指標FIVを導入し、2年連続でマイナスの事業を閉鎖・売却・再編の対象とした[14]。一方で同じ時期にIBMのHDD事業を買収し、HDDは2008年3月期後半まで低迷した[15][16]。基準は整えたものの、最大の新規投資への適用は先送りされた。撤退基準の徹底は、2009年3月期の巨額赤字を経た次の経営陣に委ねられた。
川村隆氏の再建は、縮小の局面であえて上場子会社を取り込み、事業の範囲を広げた点で異例だった。2009年3月期に7,873億円の最終赤字を計上した直後、上場5社の完全子会社化に2,556億円を投じ、公募増資と転換社債で資本を補った[19][20]。社会イノベーション事業への集中は、売る事業と残す事業の線引きを先に決めたからこそ、縮小と拡大を同時に実行できた。2015年のアンサルド鉄道2社の買収も、その線引きの内側で海外の成長を担う案件である。
2019年以降の再編では、売却と買収が一つの資本配分の両面として扱われた。2020年4月に日立化成の株式を4,951億円で売却し、同年7月にはABBのパワーグリッド事業の買収を7,220億円で完了した[25]。グループの境界を、世界で競争できるかどうかで引き直した判断と言える。2024中期経営計画では1兆円規模の成長投資枠を用意しながら、条件に合う案件を見いだせなかった[26][27]。選別の物差しが厳しいほど、買収の機会も限られるという制約を抱える。
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