創業1993年3月、文具メーカープラス株式会社の社内に新規流通事業部としてアスクル事業部が発足した。中小事業所向けのオフィス用品翌日配送カタログ通販を主軸とし、社名そのものに「明日来る」を冠した。1997年5月にプラス株式会社から分社独立し、岩田彰一郎氏が代表取締役社長に就任した。
決断2012年4月、ヤフー(現LINEヤフー)との業務・資本提携で個人向け通販LOHACOを立ち上げ、BtoBで磨いたeコマース基盤をBtoCへ展開した。2017年2月、自社所有の大型物流センター「ASKUL Logi PARK 首都圏」で大火災が発生し、自社所有・直営型から賃借+自動化型へ物流戦略を転換した。
課題2019年8月、業務提携先ヤフーと第二位株主プラスから「経営思想の違い」を理由に再任反対の議決権行使を受け、創業社長岩田彰一郎氏は株主総会で再任否決され退任した。後任の吉岡晃氏は2025年7月、新中期経営計画(2026〜2029)で売上高6,000億円・営業利益率5%・ROE20%・「Beyond Retail」ビジョンを掲げ、リテール事業再成長と新たな価値提供領域の確立を進める段階に入った。
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歴史概略
文具メーカーの新規流通事業部から始まる中小事業所翌日配送(1993〜2011)
プラス株式会社内の新規事業として生まれた「明日来る」事業部
1993年3月、文具メーカーであるプラス株式会社の社内に「アスクル事業部」が新規流通事業部門として発足し、中小事業所向けにオフィス用品のカタログ通信販売を開始した。プラスは1948年設立の文具メーカーで、コクヨが業界首位として大手企業向けの直接販売・量販店経由販売を主戦場としていたなかで、中小事業所に大企業並みのサービスを提供することを掲げて新規事業に踏み出した。アスクル事業推進室の責任者として室長に着任したのが、1986年にライオン油脂からプラスへ転じていた岩田彰一郎であり、1973年から13年間勤めたライオンでの消費財マーケティング経験を背景に、文具流通という業態の組み換えを試みた。
1990年代前半の日本の文具流通は、大手企業向けには文具卸売の大塚商会や日本紙パルプ商事が、中小事業所向けにはコクヨなどの量販店が販売チャネルを支配しており、中小事業所が望む「カタログでまとめ買いし翌日に届く」ような購買体験を提供する仕組みは存在しなかった。アスクル事業部は社名そのものに「明日来る」を冠し、注文から翌日配送までを一貫させることを基本サービスとして設計した。事業部発足初年度に整備したのは、商品カタログの配布網、ファクス・電話の受発注体制、そして所沢物流センターからの全国出荷ルートであった。文具メーカーであるプラスの自社製品に加え、他社製品も含めた幅広い品揃えで「中小事業所のオフィス用品調達を一括代行する」業態に踏み出した時点で、すでに後年のeコマース企業としての原型は完成していたといってよい。
事業立ち上げから3年で売上高は急成長し、1997年2月、アスクル事業部はオフィス関連用品の翌日配送サービスを目的として独自の商号を取得した。同年3月にインターネットによる受注を開始し、5月にプラス株式会社よりアスクル事業の営業を譲り受けて東京都文京区に本社を設置、独立した株式会社として正式に営業を開始した。プラス株式会社の社内事業部として4年間運用するなかで、メーカー資本ではなく流通独立資本として再起動する判断が下された格好である。同時に埼玉県入間郡に所沢物流センターを開設し、文具メーカーとは別の物流網を自社で構築する起点となった。
インターネット注文の早期導入と当日配送への進化
1997年3月のインターネット受注開始は、日本国内のBtoB EC黎明期における先行事例の一つであった。当時の日本のインターネット普及率は10%未満で、企業がインターネット経由で文具を発注する習慣は確立していなかった。アスクルが受発注をWebに早期から接続したのは、ファクス・電話で受注した注文情報を物流センターのオペレーションへ即時接続するための内部システムを、最初からインターネット技術で設計したことの副産物でもあった。1998年3月にはインターネット注文に限り当日配送(東京23区内)を開始し、翌日配送を基本としつつ近距離は当日対応で差別化する二段構えに踏み出した。
1999年7月には所沢物流センターを東京都江東区へ移転して東京センターを設置、2000年9月には福岡県糟屋郡に福岡センターを開設し、配送網の全国カバー化を本格化した。2000年11月、JASDAQ市場に株式上場を果たし、プラス株式会社からの資本独立を株式市場ベースでも進めた。上場で調達した資金は、文具メーカーとして文房具中心の品揃えから、OA・PC用品、生活用品、家具、医療用品まで取扱領域を拡張する商品開発と、全国物流網の整備に振り向けられた。
2001年1月には東京センター内に「e-tailing center」を開設し、本社事務所を文京区から江東区へ移転、Eコマースとロジスティクスが一体化した運営体制を整えた。「e-tailing」は当時の社内造語で、eコマースとリテーリング(小売)を組み合わせ、インターネット受注と全国物流網が一体になった事業形態をそう呼んだ。2003年9月には法人向けインターネット一括購買システム「アスクルアリーナ」(後のソロエルアリーナ)のサービスを開始し、中小事業所向けに加えて、購買管理機能を必要とする中堅・大企業向けの集約購買サービスへも事業を拡張した。
直営物流網への集中投資とアルファパーチェス取得による多角化
2004年4月、東京証券取引所市場第一部へ上場を果たし、ジャスダックからの2回目の上場でアスクル本体の資本市場での地位を確立した。2004年9月に名古屋センター、2006年9月に大阪DMC(大阪物流センター)、2007年8月に仙台DMC(仙台物流センター)を相次いで開設し、全国主要都市に直営物流センターを配置する物流ネットワーク戦略を加速させた。同時期に「アスクル メディカル&ケア カタログ」(2004年1月)、医療施設向け「ASKUL for Medical Professionals」(2005年11月)を発刊し、業種別カタログによる取扱領域の細分化を進めた。
2009年3月、長らく親会社の位置にあったプラス株式会社が、アスクルの自己株式公開買付に応じて保有株式の一部を売却した結果、親会社からその他の関係会社へ異動した。1997年の分社独立から12年を経て、株式持株比率の面でもプラスからの資本独立を達成した瞬間だった。同年4月には配送・物流業務の一部を担うBizex株式会社(後のASKUL LOGIST株式会社)の発行済全株式を取得し、物流業務の内製化をさらに推し進めた。
2010年11月、株式会社アルファパーチェス株式の78.8%を取得し連結子会社化した。アルファパーチェスは消耗品・補修用品等の間接材(MRO=Maintenance, Repair and Operations)購買代行に特化した企業で、アスクル本体のオフィス用品取扱に加え、製造業向けの間接材調達領域への踏み出しを意味した。同時期、2009年11月にアスマル株式会社を設立し、個人向けネット通販事業「ぽちっとアスクル」を翌2010年2月に簡易吸収分割で承継した。BtoCへの本格進出に向けたインフラ整備として、企業向け事業から独立した個人向け事業のためのオペレーションを並行で立ち上げた格好である。
以降は執筆中