筆者の見解
顧客志向の徹底とEC先駆者評価の代償
この経営判断の核心は、インターネットという技術そのものではなく、顧客の要望を経営の中枢に取り込む仕組みを先に作り、その実現手段としてITを選んだ点にあるとみられる。文具業界の秩序を守る側からすれば異端であった他社製品の取り扱いや値下げも、岩田彰一郎社長にとっては顧客に忠実であろうとする原則の帰結であり、技術の新しさよりも顧客志向の徹底こそが急成長の推進力であったと推察される。
もっとも、この成功はメディアを通じて"EC先駆者"という単純な物語に集約されやすい面も持ち合わせていた。実際の事業の骨格は、エージェント網や物流センターといった地道な運用の積み重ねに支えられており、ネット受注はその一部にすぎなかった。急成長を支えた実態と、外部から与えられた"ネット時代の旗手"という像との差は、株式上場後の株価をめぐる評価のなかで、まもなく表面化した。
Yutaka Sugiura, 2026年7月