1993年3月、文具メーカーであるプラス株式会社の社内に『アスクル事業部』が社内ベンチャーとして発足し[1]、中小事業所向けにオフィス用品のカタログ通信販売を開始した[2]。立ち上げ当初はわずか4人という小所帯で、プラス製品を中心に500アイテムほどの品揃[3]えからの出発だった。プラスは1948年設立の文具メーカーで、コクヨが業界首位として大手企業向けの直接販売・量販店経由販売を主戦場としていたなかで、中小事業所に大企業並みのサービスを提供することを掲げて新規事業を立ち上げた。アスクル事業推進室の責任者として室長に着任したのが、1986年にライオン油脂からプラスへ転じていた岩田彰一郎氏であり、1973年から13年間勤めたライオンでの消費財マーケティング経験を活かす形で、文具流通という業態の組み換えを試みた。
1990年代前半の日本の文具流通は、大手企業向けには文具卸売の大塚商会や日本紙パルプ商事が、中小事業所向けにはコクヨなどの量販店が販売チャネルを支配しており、中小事業所が望む『カタログでまとめ買いし翌日に届く』[引用元]ような購買体験を提供する仕組みは存在しなかった。アスクル事業部は社名そのものに『明日来る』を冠し[4]、注文から翌日配送までを一貫させることを基本サービス[5]として設計した。事業部発足初年度に整備したのは、商品カタログの配布網、ファクス・電話の受発注体制、そして所沢物流センターからの全国出荷ルートであった。[6]
事業立ち上げから3年で売上高は急成長し、1997年2月、アスクル事業部はオフィス関連用品の翌日配送サービスを目的として独自の商号を取得した。[7]同年3月にインターネットによる受注を開始し、[8]5月にプラス株式会社よりアスクル事業の営業を譲り受けて東京都文京区に本社を設置、独立した株式会社として正式に営業を開始した。[9]プラス株式会社の社内事業部として4年間運用するなかで、メーカー資本ではなく流通独立資本として再起動する判断が下された。同時に埼玉県入間郡に所沢物流センターを開設し[10]、文具メーカーとは別の物流網を自社で構築する起点となった。
1997年3月のインターネット受注開始は[11]、日本国内のBtoB EC黎明期における先行事例の一つであった。当時の日本のインターネット普及率は10%未満で、企業がインターネット経由で文具を発注する習慣は確立していなかった。アスクルが受発注をWebに早期から接続したのは、ファクス・電話で受注した注文情報を物流センターのオペレーションへ即時接続するための内部システムを、最初からインターネット技術で設計したことの副産物でもあった。1998年3月にはインターネット注文に限り当日配送(東京23区内)を開始し[12]、翌日配送を基本としつつ近距離は当日対応で差別化する二段構えを始動させた。
1999年7月には所沢物流センターを東京都江東区へ移転して東京センターを設置、[13]2000年9月には福岡県糟屋郡に福岡センターを開設し、配送網の全国カバー化を本格化した。[14]JASDAQ市場に株式上場を果たし、プラス株式会社からの資本独立を株式市場ベースでも進めた。上場で調達した資金は、文具メーカーとして文房具中心の品揃えから、OA・PC用品、生活用品、家具、医療用品まで取扱領域を拡張する商品開発と、全国物流網の整備に振り向けられた。
2001年1月には東京センター内に『e-tailing[15] center』を開設し、本社事務所を文京区から江東区へ移転、Eコマースとロジスティクスが一体化した運営体制を整えた。『e-tailing』は当時の社内造語で、eコマースとリテーリング(小売)を組み合わせ、インターネット受注と全国物流網が一体になった事業形態をそう呼んだ。2003年9月には法人向けインターネット一括購買システム『アスクルアリーナ』(後のソロエルアリーナ)のサービスを開始し、[16]中小事業所向けに加えて、購買管理機能を必要とする中堅・大企業向けの集約購買サービスへも事業を拡張した。
2004年4月、東京証券取引所市場第一部へ上場を果たし[17]、ジャスダックからの2回目の上場でアスクル本体の資本市場での地位を確立した。2004年9月に名古屋センター、[18]2006年9月に大阪DMC(大阪物流センター)、[19]2007年8月に仙台DMC(仙台物流センター)を相次いで開設し、[20]全国主要都市に直営物流センターを配置する物流ネットワーク戦略を加速させた。2004年1月には『アスクル メディカル&ケア カタログ』、[21]2005年11月には医療施設向け『ASKUL for Medical Professionals』を発刊し、業種別カタログによる取扱領域の細分化を進めた。[22]
2009年3月、長らく親会社の位置にあったプラス株式会社が、アスクルの自己株式公開買付に応じて保有株式の一部を売却した結果、親会社からその他の関係会社へ異動した[23]。1997年の分社独立から12年を経て、持株比率の面でもプラスからの資本独立を達成した。同年4月には配送・物流業務の一部を担うBizex株式会社[24](後のASKUL LOGIST株式会社)の発行済全株式を取得し、物流業務の内製化をさらに推し進めた。
2010年11月、株式会社アルファパーチェス[25]株式の78.8%を取得し連結子会社化した。アルファパーチェスは消耗品・補修用品等の間接材(MRO=Maintenance, Repair and Operations)購買代行に特化した企業で、アスクル本体のオフィス用品取扱に加え、製造業向けの間接材調達領域を取り込んだ。同時期、2009年11月にアスマル株式会社を設立し、[26]個人向けネット通販事業『ぽちっとアスクル』を翌2010年2月に簡易吸収分割で承継した。[27]BtoCへの本格進出に向けたインフラ整備として、企業向け事業から独立した個人向け事業のためのオペレーションを並行で立ち上げた。
2012年4月27日、アスクルはヤフー株式会社(現LINEヤフー株式会社)と業務・資本提携契約を締結した。同年5月にヤフーに対する第三者割当増資を実施し、ヤフーがアスクル株式の議決権ベースで一定比率を取得する形で資本関係に入った。同年11月20日、一般消費者向け通信販売サイト『LOHACO(ロハコ)』のサービスを開始[28]し、業務開始からわずか半年で個人向けECの本格運用にこぎ着けた。
立ち上げ当初は伸長したものの、LOHACO事業は黒字化までに長期を要し、累積赤字を抱える状態が続いた。BtoBの直営型物流に最適化されていたアスクル物流網を個人宅配送向けに転用する難しさ、Yahoo!ショッピング上での価格競争、配送品質コストの増大が複合した結果である。
2013年7月、埼玉県入間郡に[29]延床面積72,000平方メートル超の物流センター『ASKUL Logi PARK 首都圏』[引用元]を開設した。[30]自社所有物流センターで、首都圏のオフィス用品翌日配送[31]と一般消費者向けLOHACO配送の両方を支える基幹拠点として設計された。直営物流網の拡大路線の象徴であり、自社で建物・設備を所有して在庫管理から配送オペレーションまで一貫運用する『持つ経営』の到達点でもあった。
2017年2月16日、その『ASKUL Logi PARK 首都圏』[引用元]で火災が発生した[32]。出火源はピッキング作業用の天井走行式自動機の摩擦熱と推定され、火災は鎮火まで12日を要し、建屋と全在庫が焼失した。物流の中枢を一夜にして失ったアスクルは、緊急的に外部委託倉庫への移管とBCPの再構築に追われた。同時に、自社所有・自社運営の物流センターをワンセンターで運用する集中型物流の脆弱性が顕在化し、火災事故を契機に岩田彰一郎氏(社長)は『持たざる経営』への回帰を経営方針として掲げた。[33]
火災事故後の動きは速かった。2017年11月20日に焼失現場の建物を売却し[34]、自社所有モデルからの撤退を確定させた。並行して2017年4月に物流センター『ASKUL Value Center 日高』[引用元](現ASKUL日高DC)を埼玉県日高市に、[35]同年9月に『ASKUL Value Center 関西』[引用元](現ASKUL関西DC)を大阪府吹田市に開設し、賃借ベースで物流網を再整備した。[36]2020年2月には焼失現場と同じ立地に『ASKUL 三芳センター』を賃借契約で再開し[37]、所有から賃借への切り替えを完了させた。火災以前の自社所有型から、賃借+自動化機器投資型へと物流戦略を転換した。
2014年8月、酒類通販の昌利株式会社の発行済全株式を取得し同月中[38]に吸収合併、酒類取扱領域へ進出した。2015年8月には水の製造販売を行う嬬恋銘水株式会社の全株式を取得して連結子会社化、[39]2015年9月には配送サービスの差別化を目的として株式会社エコ配の株式を取得した。[40]2017年7月、ペット用品eコマース大手の株式会社チャーム[41]の発行済全株式を取得し連結子会社化、LOHACOにおけるペット用品取扱を強化した。
2015年10月には製造工場・建設現場向け間接資材カタログ『現場のアスクル』を発刊し[42]、オフィス用品から製造現場用品へ取扱領域をさらに広げた。2015年8月には自己株式取得を実施し、ヤフー株式会社との業務・資本提携契約に基づく反希薄化条項により、ヤフーの議決権比率を維持する形での資本構造調整を行った。グループ会社拡大と取扱領域の多角化、自己株式取得を組み合わせた経営姿勢が、後の株主間係争の伏線にもなる。
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|---|---|---|---|---|
| プラスの全額出資でプラス工業を設立 | ★ | |||
| 岩野木工場を新設 | ★ | |||
| 埼玉シルバー精工をプラス工業に商号変更 | ★ | |||
| 同社への営業譲渡により休眠会社化 | ★ | |||
| 1993〜2011年文具メーカーの新規流通事業部から始まる中小事業所翌日配送 | アスクル事業開始(プラスアスクル事業部において事業開始) | ★★ | ||
| リンクスに商号変更。併せて、営業目的を不動産の売買、賃貸借・管理に変更 | ★ | |||
| 商号をアスクルに変更 | ★ | |||
| 岩田彰一郎 | インターネットによる受注を開始 | ★★ | ||
| 岩田彰一郎 | プラスよりアスクル事業の営業を譲受け、本社を開設し営業を開始 | ★★ | ||
| 岩田彰一郎 | アスクル、インターネット受注による法人向けBtoB EC先駆モデルの確立 1993年にプラス株式会社の社内ベンチャーとして始まったアスクルは、1997年のインターネット受注開始を経て、1999年から2000年にかけて中小事業所向けオフィス用品通販のBtoB EC先駆企業としての評価を確立し、2000年11月にJASDAQ市場へ株式を上場した経営判断。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 岩田彰一郎 | アスクル、「EC先駆者」評価の反動と岩田彰一郎社長の原点回帰 2000年11月のJASDAQ上場後、『EC先駆者』としてPER100倍前後の高株価評価を得ていたアスクルは、2001年4月11日の業績予想下方修正を機に株価が4日連続ストップ安となり公開来高値の半値以下まで下落し、岩田彰一郎社長が情報開示の甘さを認め、顧客第一主義という原点に立ち返る形で信頼回復に取り組んだ経営判断。 詳細を読む | ★★★ | ||
| 岩田彰一郎 | 株価が4日連続ストップ安 | ★ | ||
| 岩田彰一郎 | 医療・介護施設向け用品カタログ「アスクル メディカル&ケア カタログ」を発刊 | ★ | ||
| 岩田彰一郎 | プラスがアスクル株式の一部を売却し親会社からその他の関係会社に異動 | ★ | ||
| 岩田彰一郎 | 東日本大震災により本社事務所「e-tailing center」、物流センター「仙台DMC」が被災 | ★ | ||
| 2012〜2018年ヤフー業務資本提携とLOHACO・物流センター火災 | 岩田彰一郎 | ヤフーと資本業務提携 | ★★ | |
| 岩田彰一郎 | 一般消費者向け通信販売サイト「LOHACO(ロハコ)」サービス開始 | ★★ | ||
| 2019〜2024年プラス・ヤフー連合による創業社長解任とeコマース再構築 | 岩田彰一郎 | アスクルの独立性防衛と創業社長・岩田彰一郎氏の解任 2019年、筆頭株主ヤフーがLOHACO事業の譲渡と岩田彰一郎社長の退陣を求めたのに対し、アスクルの取締役会が独立役員会の審議を経てこれを拒み、上場子会社としての独立性と少数株主の利益を優先した経営判断。8月の株主総会でヤフーと第二位株主プラスの議決権連合により、岩田彰一郎氏(社長)と独立社外取締役3名全員の再任が否決された。 詳細を読む | ★★★ | |
| 岩田彰一郎 | 現任取締役全員の再任を決議 | ★★ | ||
| 吉岡晃 | 物流センター 「ASKUL東京DC」を開設 | ★ | ||
| 吉岡晃 | 連結子会社であるアルファパーチェスが、東京証券取引所スタンダード市場に上場 | ★ | ||
| 吉岡晃 | フィード等を子会社とするAP67の株式85%を取得 | ★ | ||
| 吉岡晃 | 物流センター「ASKUL関東DC」を開設 | ★ |
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事実根拠:出所(アスクル)