アスクル ヤフーへの提携解消申入れと社長再任否決 支配株主の要求の拒絶による独立性の選択と、創業社長・独立社外取締役3名の退任
更新:
何をなぜ決めたか
- 概要
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筆頭株主ヤフーがLOHACO事業の譲渡と岩田彰一郎社長の退陣を求めたのに対し、アスクルの取締役会は独立役員会の審議を経て譲渡を拒み、2019年7月12日に業務・資本提携の解消協議を申し入れた。ヤフーは協議は不要と回答し、所有割合45.13%のヤフーと11.63%のプラスは8月2日の第56回定時株主総会で岩田彰一郎社長と独立社外取締役3名の再任に反対した。4名全員の再任が否決され、上場子会社としての独立性を選んだ判断は、合計56.76%を持つ2社の票に覆された。
- 背景
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アスクルは1993年にプラスの社内事業部として生まれ、1997年5月にプラスから営業を譲り受けて独立した。2012年4月27日にヤフーと業務・資本提携契約を締結し、同年5月の第三者割当増資を経てBtoC通販LOHACOを共同で立ち上げ、2015年5月19日に契約を更改してヤフーの連結子会社となった。
更改後の契約は、アスクルが議決権の希薄化を伴う行為を行う際、ヤフーの議決権割合を維持するためのあらゆる措置を講じることを義務づけている。2017年2月の物流拠点の火災とLOHACOの損益が重なり、2019年5月期の親会社株主に帰属する当期純利益は4億34百万円まで減少した。
- 内容
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2019年1月、ヤフーはLOHACO事業の譲渡の可否と条件を検討するよう要請した。アスクルは翌月、独立役員会および取締役会の審議を経て、譲渡の提案は行わないと決定して回答した。6月27日にヤフーが第56回定時株主総会の第2号議案で岩田彰一郎社長の再任に反対する意向を表明すると、7月10日、独立役員会は売渡請求権の行使の是非を含む提携関係の見直しを検討し交渉すべきとの意見を示した。
これを踏まえ7月12日、アスクルは経営思想の違い、業務・資本提携契約で合意したイコールパートナーシップ精神の喪失、上場企業としての独立性の侵害を理由に、提携関係を解消するための協議を申し入れた。ヤフーは17日付で協議は不要と回答し、業務・資本提携契約はその後も存続している。
- 含意
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支配株主が議決権を用いて、創業社長だけでなく少数株主を守るはずの独立社外取締役3名までも退けた。独立社外取締役は2020年3月13日の臨時株主総会で4名が選ばれるまで7か月余り不在となり、その間は独立社外役員会議も指名・報酬委員会も開かれず、社外取締役候補者を選ぶ暫定指名・報酬委員会が代わりを務めた。
一方で提携解消の申入れは実らず、業務・資本提携契約はLINEヤフーとの間で今も残る。独立性を掲げた取締役会は、統治の担い手を入れ替えられたうえ、争点だった契約そのものは動かせなかった。
いつ何が起きたか 8件
筆者の見解
親子上場が抱える「独立性」という難問
この決断の核心は、事業の損得よりも、上場子会社が支配株主に対してどこまで独立を保てるのかという統治の問いにあった。LOHACOの赤字が連結を通じて自らの業績に響くヤフーにとって、事業の譲り受けや経営陣の刷新を求めること自体には株主としての理がある。一方でアスクルの取締役会は、独立役員会の審議という手続きを踏み、成長事業を安く明け渡さないことが少数株主の利益にかなうと判断した。どちらの立場にも筋が通っていたからこそ、この対立は単純な善悪では割り切れない。
もっとも、決着のつき方は親子上場という構造の弱点を鮮明にした。少数株主を守るために置かれたはずの独立社外取締役3名が、ほかならぬ支配株主の議決権によって創業社長もろとも退けられ、その後7か月余り独立社外取締役は不在だった。しかも申し入れた提携解消は果たされず、争点だった契約は今も残っている。独立性を担保する仕組みは、合計56.76%の票の前では機能しきらない——親会社を持つ上場企業が独立しているとはどういうことかという問いを、この一件は日本の資本市場に残したと思われる。
Yutaka Sugiura, 2026年7月
業績の推移
経緯と対応
経緯と対応
| 科目 | 概要 | 備考 |
|---|---|---|
| LOHACO事業の譲渡要請 | 2019年1月 | ヤフーが譲渡の可否と、譲渡が可能な場合の各種条件を検討するよう要請した |
| 譲渡しないという回答 | 2019年2月 | 独立役員会および取締役会の審議を経て、譲渡の提案は行わないと決定した |
| 社長再任への反対の意向表明 | 2019年6月27日 | 第56回定時株主総会の第2号議案(取締役選任議案)についてヤフーが表明した |
| 独立役員会の意見 | 2019年7月10日 | 売渡請求権の行使の是非を含め、提携関係の見直しを検討し交渉すべきとした |
| 提携解消の協議の申入れ | 2019年7月12日 | 経営思想の違い、イコールパートナーシップ精神の喪失、独立性の侵害を理由とした |
| ヤフーの回答 | 協議は不要 | 2019年7月17日付。「LOHACO」事業の業務提携関係は継続する意向も併せて示した |
| 反対票の公表 | 2019年7月24日 | ヤフーと第二位株主プラスが、インターネットを用いた方法により公表した |
| 反対された取締役 | 岩田彰一郎社長と独立社外取締役3名 | 戸田一雄氏・宮田秀明氏・斉藤惇氏。取締役10名のうち独立役員は3名だった |
| 2社の所有割合 | ヤフー45.13%・プラス11.63% | 2019年5月20日現在。発行済株式(自己株式を除く)に対する割合で合計56.76% |
| 総会の結果 | 2019年8月2日に4名の再任を否決 | 独立社外取締役が不在となり、吉岡晃氏が代表取締役社長CEOに就任した |
| 独立社外取締役の不在 | 2019年8月2日から2020年3月13日 | この間、独立社外役員会議と指名・報酬委員会はいずれも開催されていない |
| 体制の回復 | 2020年3月13日 | 臨時株主総会で社外取締役4名を選任。それまでは暫定指名・報酬委員会を開いた |
出所:アスクル 有価証券報告書 第56期(2019年5月期)【事業等のリスク】【大株主の状況】・第57期(2020年5月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】
取締役会の構成の推移
アスクル:取締役会の構成の推移
| (人) | 取締役 | うち社外取締役 | うち独立社外取締役 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年5月期 | 9 | 4 | − | 独立役員の員数は記載がない |
| 2015年5月期 | 10 | 5 | 3 | |
| 2016年5月期 | 10 | 5 | 3 | |
| 2017年5月期 | 10 | 5 | 3 | |
| 2018年5月期 | 10 | 5 | 3 | |
| 2019年5月期 | 10 | 5 | 3 | 2019年7月26日現在。8月2日の総会で3名の再任が否決され独立社外取締役は不在に |
| 2020年5月期 | 9 | 5 | 4 | 2020年3月13日の臨時株主総会で選ばれた社外取締役4名を含む |
| 2021年5月期 | 11 | 5 | 4 | |
| 2022年5月期 | 11 | 5 | 4 | |
| 2023年5月期 | 10 | 5 | 4 | |
| 2024年5月期 | 10 | 4 | 4 |
出所:アスクル 有価証券報告書 第51〜61期【コーポレート・ガバナンスの状況等】(各報告書の提出日現在の員数)
連結業績の推移
アスクル:連結業績の推移
| (百万円) | 売上高 | 営業利益 | 親会社株主に帰属する当期純利益 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2014年5月期 | 253,408 | 4,276 | 2,165 | |
| 2015年5月期 | 276,759 | 6,849 | 4,032 | |
| 2016年5月期 | 315,024 | 8,517 | 5,255 | |
| 2017年5月期 | 335,914 | 8,865 | 1,014 | 2017年2月の物流拠点の火災が利益を押し下げた |
| 2018年5月期 | 360,445 | 4,192 | 4,693 | |
| 2019年5月期 | 387,470 | 4,520 | 434 | 対立が表面化した期。当期純利益は前期の1割を下回った |
| 2020年5月期 | 400,376 | 8,821 | 5,652 | |
| 2021年5月期 | 422,151 | 13,923 | 7,758 | |
| 2022年5月期 | 428,517 | 14,309 | 9,206 | |
| 2023年5月期 | 446,713 | 14,620 | 9,787 | |
| 2024年5月期 | 471,682 | 16,953 | 19,139 |
出所:アスクル 有価証券報告書 第51〜61期(連結損益計算書)
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参考文献
- アスクル 適時開示「ヤフー株式会社からの社長退陣要求に関する当社意見と提携解消協議申入れのお知らせ」
- アスクル 適時開示「ヤフー株式会社・プラス株式会社による反対票表明」
- アスクル 適時開示「第56回定時株主総会・取締役選任結果」
- アスクル 有価証券報告書「第56期(2019年5月期)【事業等のリスク】【大株主の状況】」
- アスクル 有価証券報告書「第57期(2020年5月期)【コーポレート・ガバナンスの状況等】」
- アスクル 有価証券報告書「第51〜61期【コーポレート・ガバナンスの状況等】【連結損益計算書】」
- アスクル 有価証券報告書「第62期(2025年5月期)【事業等のリスク】」