1995年までにファーストリテイリングは、中国に工場を抱える現地メーカー4社と契約を締結し、中国での生産委託を強化した。
契約締結に当たっては、東レ(日本のトップ繊維メーカー)を退職してコンサルタントとして独立した長谷川靖彦氏が、大きな役割を果たした。東レの輸出部を歴任して中国の生産事情に詳しい長谷川氏は、東レでは実現できなかった中国での現地生産に将来性を見出した。独立直後に、長谷川氏はファーストリテイリングとの取引を開始した。
長谷川氏はファーストリテイリングの委託先工場を探す手伝いをして、現地メーカーに対してユニクロの製造委託をするメリットを伝えるなど、契約締結に当たって大きな役割を果たした。ファーストリテイリングが上場したことで店舗拡大に目処がついたことから、大量ロットの受注が期待できることが、中国の現地メーカーにとって大きなメリットになった。
長谷川氏による仲介によって、1995年からファーストリテイリングは中国での委託生産を本格化し、宿願であったグローバルなSPAを構築した。
なお、中国の委託メーカーは、ユニクロとの取引が契機となり業容を拡大し、2000年代以降には株式上場を行う委託メーカーも現れた。このため、現地メーカーの経営者はファーストリテイリングの柳井正氏に心酔していったという。
ただし、委託先が4社程度に対して、生産拠点となる工場数は約80と非常に多く、中国の現地メーカーの生産性は悪かったと推察される。このため、1990年代後半にファーストリテイリングは委託先の工場の絞り込みを実施している。
また、ファーストリテイリングにおいて、中国における委託先の情報はトップシークレットとして扱われ、2017年に取引先を公表するまでは「委託工場での過酷な労働実態」が噂されるなど、様々な憶測を呼んだ。