歴史概要 — 現在に至るあゆみ 主要な意思決定と帰結のまとめ
創業1953年1月、堀場雅夫氏が資本金100万円で株式会社堀場製作所を京都市中京区に設立し、pHメーターや分析計を手がける理化学機器メーカーとして出発した。関東に集まる電機・計測産業のなかで、京都発の計測専業という立地を最初から持った。1957年に吉祥院工場で量産基盤を、1959年に日立製作所との技術提携で大手電機の信用を10年以内に得た。1965年には自動車排ガス測定装置に乗り出し、ガス分析という得意領域を新しい対象へと広げ始めた。
決断1992年に創業者の長男・堀場厚氏が4代目社長へ就いてから、堀場製作所は買収で計測の応用先を一気に広げた。1996年のABX社(仏・医用診断)、2005年のSchenck Pegasus社(独、自動車試験)、2015年のMIRA社(英、自動車開発)と20年で連続して買い、自動車・プロセス&環境・医用・半導体・科学の5事業を組み上げた。堀場氏は「赤字を恐れない。投資即決で成長を取りに行く」と語り、即断の買収を成長の軸に据えた。中核は自動車計測を世界へ供給する事業だった。
決断の理由 — クリティカルな歴史の転換点を読み解く
- Q なぜ1959年に総合電機の日立製作所と提携したのか
- A 中堅の計測専業が大企業と伍していくには、限られた人材と資金を得意分野へ集中し、不得意な領域は外部に委ねる分業が合理的だった。創業者の堀場雅夫氏は中小企業が生き残る道は専門分野への特化にあると考え、1959年に日立製作所と対等な連名ブランド「日立-堀場」で業務・技術提携を結んだ。堀場製作所は分析・計測機器の開発に特化し、製造は協力工場、販売は日立系の日製産業のルートに委ねることで、研究投資を計測技術へ振り向けた。
- Q なぜ1996年にフランスのABX社を買収して医用分野へ広げたのか
- A 計測の核であるセンサーと分析技術を持つ堀場製作所にとって、世界規模の医用診断事業を一から育てるより、有力メーカーを取り込むほうが早かった。血球計数装置で世界上位のABX社を買えば、従来の小型・中型機に大型機を加えたフルラインと世界の販路、商品企画力を一度に得られると見た。買収の効果は製品にも表れ、1998年にはABX社との共同開発で炎症マーカーのCRPと白血球数を同時に測れる小型血球計数装置を世界で初めて製品化し、開業医向けのヒット商品に育てた。
- Q なぜ2020年代に半導体計測が稼ぎ頭になったのか
- A 半導体の製造はガスや薬液の流量を質量で精密に制御する工程を欠かせず、堀場製作所は早くから子会社エステックのマスフローコントローラ(MFC)で世界首位級のシェアを握り、製造装置大手の標準的な調達先になっていた。2020年前後に半導体投資が拡大するなか、コロナ下に自動車計測が減速する一方、半導体計測が急伸し、2021年12月期には過去最高益を更新した。足立正之社長は「自動車に続き、半導体関連事業を稼ぎ頭に育てた」と語っている。
歴史詳細 - 3つの時代区分で読み解く
1953年〜1991年 京都の理化学機器メーカーとしての創業と上場
1953年創業──個人創業から株式会社化、自動車排ガス測定への着手
堀場製作所の創業者は1924年生まれの堀場雅夫氏で、京都帝国大学(現京都大学)理学部の在学中に堀場無線研究所を1945年に開設した経歴を持つ。1950年には輸入品が主流だったpH計の国産化に取り組み、国産初のガラス電極式pHメータを完成させた[4]。1953年1月、資本金100万円で株式会社堀場製作所を設立し、本社を京都市中京区に置いた[1]。京都発の理化学機器メーカーとして事業を開始し、設立当初の事業はpHメーター・分析計など基本的な計測機器の製造販売であった。1957年11月には吉祥院工場(現本社工場、京都市南区)を開設して主力生産拠点を整備し、1959年11月には株式会社日立製作所と業務及び技術提携を結ぶことで大手電機との提携を通じた技術基盤の強化に着手した[2][3]。
1965年9月に本社を京都市南区(現在地)へ移転して本社機能を統合し、1965年11月には自動車排ガス測定装置の販売を開始した[5][6]。自動車排ガス測定装置の取り扱いは、後に堀場製作所の主力事業の一つとなる自動車計測分野の起点であり、1960年代の日本のモータリゼーション本格化と並走する形で新規領域への参入が始まった[7]。1970年3月には株式の額面を50円に変更する目的で旧日本藺製品株式会社との形式合併(株式会社堀場製作所への商号変更)を実施し、上場準備のための株主整理にあたる組織再編を完了した[8]。
1971年大証2部上場と東証一部指定──公開市場参入とビジネス基盤拡張
1971年3月、堀場製作所は大阪証券取引所市場第二部・京都証券取引所に株式を上場し、創業から18年で公開市場への参入を果たした[9]。同年9月には日製産業株式会社との販売提携を開始し、販売チャネルの強化に着手した[10]。1972年6月には欧州事務所(ドイツ)を発展的に閉鎖して現地法人ホリバGmbH(現 ホリバ・ヨーロッパ社)を設立[11]、1973年4月にはアメリカに現地法人ホリバ・インスツルメンツ社(アメリカ)を設立[12]、1977年10月にはイギリスに現地法人ホリバ・インスツルメンツ社(現 ホリバ・UK社)を設立[13]と、1970年代に欧州・米州・英国の3地域で現地法人を連続的に設置した。
1974年3月には東京証券取引所市場第二部に株式を上場し、東京市場への参入を果たした[14]。1982年9月には東京、大阪両証券取引所市場第一部銘柄に指定され、大証2部上場から11年で大企業としての位置付けを得た[15]。1984年9月には結晶工場(京都市南区)を新設して光学結晶の量産体制を整え、光学技術の生産能力を国内に持った[16]。1988年12月には韓国に現地法人ホリバ・コリア社を設立し、アジア市場進出への足がかりを築いた[17]。1970年代の欧米進出から1980年代のアジア進出へと地域別の海外展開が広がり、京都発の理化学機器メーカーが国際的な事業ネットワークを持つ基盤が形成された。
1992年〜2017年 堀場厚社長在任中のグローバル化とM&A連続──5セグメント体制の確立
1992年堀場厚社長就任と医用・科学分野のM&A本格化
1992年、創業者の堀場雅夫氏の長男である堀場厚氏が代表取締役社長に就任した。堀場厚氏は甲陽学院高等学校・甲南大学理学部経営理学科出身で、計測機器一筋の経歴を持つ創業家2世代目の経営者である。1996年2月には中国・北京事務所を開設して中国市場参入の足がかりを築き、1996年6月にはフランスのABX社(現 ホリバABX社)を買収して医用診断分野の中核を取得し、後の医用事業拡大の起点を作った[18]。同年代の連続M&Aは、1997年6月のシンガポール子会社設立[19]、1997年9月のフランスのインスツルメンツ社(現 ホリバ・フランス社)買収[20]、1998年8月の愛宕物産株式会社(株式会社堀場ジョバンイボン)買収[21]と、欧州・東南アジアでの拠点拡張と科学分析事業の強化を組み合わせる形で運営された。
1990年代末には、堀場製作所はM&Aと自社開発で広げた応用領域それぞれで確たる事業を築いていた。半導体分野では子会社のエステック(現 堀場エステック)が、ガス流量を質量で精密に制御するマスフローコントローラ(MFC)で世界首位(32%)のシェアを持ち、米アプライド・マテリアルズや東京エレクトロンなど半導体製造装置大手への納入を伸ばした[22]。医用分野では1996年に買収したABX社を軸に血球計数装置(血球カウンタ)事業を強化し、1998年にはABX社との共同開発で炎症マーカーのCRP(C反応性蛋白)と白血球数を同時に測れる小型血球計数装置を世界で初めて製品化して、開業医や緊急検査室向けのヒット商品に育てた[23]。
2002年8月には厚利巴儀器(上海)有限公司(現 堀場儀器(上海)有限公司)を設立して中国本格進出を果たし[24]、2005年9月にはホリバ・ヨーロッパ社が独Schenck Pegasus GmbH(現 ホリバ・オートモーティブ・テストシステムズ社)を買収(米国・韓国・東京の関連社も買収)して自動車試験計測の世界的プレーヤー化に踏み込んだ[25]。2005年のシェンク・ペガサス買収は、堀場製作所の事業構造を医用・科学・自動車計測の3軸に拡張させ、後に5セグメント体制(自動車・プロセス&環境・医用・半導体・科学)が固まる契機となった[26]。2006年9月にはホリバ・インド社を設立してインド市場参入を果たし、新興国への展開も並行した[27]。
びわこ工場新設とMIRA買収による自動車試験フルライン化
2009年5月、堀場製作所はびわこ工場(滋賀県大津市)を新設し、自動車試験装置等の量産体制を整えた。びわこ工場の建設は、シェンク・ペガサス買収で取得した自動車試験事業の生産能力を国内で拡充する意思決定であり、自動車計測分野での競争力強化の根幹であった。2011年8月のホリバ・台湾社設立[28]、2013年3月のCameron International Corporation社よりエチレン精製等のプロセス計測設備事業部門の買収[29]、2013年7月のホリバ・インドネシア社設立[30]、2014年2月のPhoton Technology International社(米国)からの蛍光分光分析事業買収[31]と、領域別・地域別のM&Aと拠点設置が並行した。
2015年7月にはHRA International Ltd.(現 ホリバMIRA社)がMIRA Ltd.より自動車開発全般に関するエンジニアリング・試験事業を買収し、自動車試験のフルライン化とエンジニアリングサービス領域への参入を果たした[32]。2016年5月にはびわこ工場を増設してガス計測部門の生産・開発設備を増強[33]、2017年1月には水質・液体分析機器事業を子会社の株式会社堀場アドバンスドテクノに承継して事業会社制への組織再編に踏み込んだ[34]。1996年のABX買収から2015年のMIRA買収までの約20年にわたる連続M&Aで、堀場製作所は5セグメント体制と世界主要市場での生産・販売・R&D拠点を整える事業構造を作り上げた[35]。
2018年〜2025年 足立正之社長在任中の「MLMAP2023」達成と「MLMAP2028」始動
2018年社長交代──堀場厚氏は会長兼グループCEO、足立氏は本体社長
2017年10月25日、堀場製作所は社長を堀場厚氏から足立正之氏へ交代する人事を発表した[36]。堀場厚氏は会長兼グループCEOとしてグループ全体を指揮し、足立氏は本体の代表取締役社長としてオペレーションを担う2人体制への移行であった(出所:日本経済新聞 2017年10月25日)[37]。足立正之氏は立命館大学理工学部物理学科で光物性を研究し、ガス分析計のコア部品である光学フィルターの研究開発に従事した分析計測技術出身の経営者で、海外現法経営も経験した経歴を持つ[38]。創業家以外の生え抜き社長として、堀場厚氏が築いた5セグメント体制の運営とニッチ戦略の継続を引き継ぐ役割を担う格好となった。
2018年9月にはホリバ・ヨーロッパ社がFuelCon社(現 ホリバ・フューエルコン社)を買収し、燃料電池試験領域への進出を果たした[39]。2018年12月にはローム社より微量血液検査システム事業を買収して医用領域を補強[40]、2019年1月にはホリバ・インスツルメンツ社がMANTA Instruments, Inc.を買収して粒径計測領域を強化[41]、2019年9月にはホリバ・ヨーロッパ社がTOCADERO Analytics社(現 ホリバ・トカデロ社)を買収して水質計測を強化[42]と、足立社長の在任中にも領域別の連続M&Aが継続した。堀場厚氏の体制から引き継いだM&A即決の経営姿勢が、社長交代後も維持された経緯を示すものでもあった。
「MLMAP2023」目標前倒し達成と「MLMAP2028」始動
2020年から2022年にかけて、堀場製作所は中期経営計画(2019〜2023年度)のもとで事業を運営した[43]。コロナ下の2020年12月期は売上1,870億円・営業利益197億円と自動車計測の減速影響を受けたが、半導体計測の急成長で過去最高益への足固めが運んだ。2021年12月期はコロナ下でも半導体計測の急成長で売上2,243億円・営業利益320億円と過去最高益を更新[44]、2022年12月期は売上2,701億円・営業利益458億円と「MLMAP2023」の売上高・営業利益目標を1年前倒しで達成し、2023年12月期は売上2,905億円・営業利益472億円とさらに伸長した[45]。
2023年2月にはMIRA UGV社の株式を一部譲渡し持分法適用会社へ変更(2025年4月持分法適用会社から除外)[46]、2023年4月にはTethys Instruments SAS.(現 堀場アドバンスドテクノ・フランス社)を買収して水質・大気計測の欧州拡張[47]、2023年10月にはProcess Instruments, Inc.を買収してプロセス計測拡充と続いた[48]。2024年から始動した中期経営計画(2024〜2028年度)では、従来の5セグメント体制をエネルギー・環境/バイオ・ヘルスケア/先端材料・半導体の3軸に再編して新規始動した[49]。2024年12月期は売上3,173億円・営業利益483億円、2025年12月期は売上3,330億円・営業利益530億円と、新中計の初年度から半導体計測の急成長を主軸に据えた事業構造への移行が進んだ。