創業地岡山県倉敷市
創業年1926
上場年1933
創業者大原孫三郎
現代表川原仁
従業員数12,117

1926年、倉敷紡績社長の大原孫三郎が岡山県倉敷市にレーヨン子会社の倉敷絹織を興した。京都大学・桜田一郎らの研究を基に1950年に国産資源(石灰石・石炭・水)原料の合成繊維ビニロンを工業化、漁網・セメント補強材の産業資材で地歩を固めた。

1962年に中条でポバール、1964年に倉敷で人工皮革クラリーノ、1972年に岡山でガスバリア樹脂エバールと独自素材を連続で立ち上げ、1970年に倉敷レイヨンからクラレへ社名を改めた。2001年2月に祖業レーヨンを停止し、同年12月のスイスClariant事業取得、2012年の米MonoSol買収、2014年の米DuPontビニルアセテート事業648億円取得でポバール世界首位を盤石にした。

2018年の米Calgon Carbon買収1,234億円で活性炭事業へ参入し、連結売上高は8,000億円規模へ倍増したが、米国エバール工場の爆発火災と累計736億円の訴訟損失も同時に抱えた。2021年就任の川原仁社長は5年5,000億円を活性炭と水溶性フィルムに投じる一方、FY25のイソプレン150億円・エラストマー106億円の減損で基幹事業を整理する。ポバールで築いた障壁が活性炭と水溶性フィルムでも超過利潤を生むのか、それとも連続買収が利益体質の悪化で終わるか――5年5,000億円投資の使い切り方が分水嶺となる。

クラレ:売上高の内訳と営業利益率(PL 分解 × 営業利益率)
売上高(億円)営業利益(億円)販管費(億円)売上原価(億円)営業利益率(%)
歴代社長
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FY08
FY09
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FY11
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FY13
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FY18
FY19
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FY21
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FY30
和久井康明
代表取締役社長
歴代社長
FY99
FY00
FY01
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FY22
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FY24
FY25
和久井康明
代表取締役社長
伊藤文大代表取締役社長伊藤正明代表取締役社長川原仁代表取締役社長
クラレ:投資CF(M&A・設備投資ほか/事業施策と紐付き)
投資CF(億円)
クラレクラフレックス株式会社を吸収合併2025
米Calgon Carbon Corporationを買収2018
米DuPontからビニルアセテート関連事業を買収2014
有価証券の純増2010
スイスClariant AGからポバール及びPVB事業を買収2001

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歴史概略

1926年〜1989ビニロンからエバールへ — 独自素材の連続的開発

倉敷紡績から生まれた化学繊維メーカー

1926年、倉敷紡績の社長であった大原孫三郎は、化学繊維レーヨンの将来性に着目し、子会社として倉敷絹織株式会社を設立した。フランスからの技術導入と京都大学との共同研究を経て、1928年に倉敷工場でレーヨンの商業生産を開始し、国内市場への供給を本格化した。1936年までに西条・岡山を含む4工場体制を整え、レーヨン専業メーカーとして地歩を固めた。太平洋戦争中は軍需工場への転換を強いられたが、戦後は速やかに化繊生産を再開し、1949年に倉敷レイヨン株式会社へ社名変更して再出発した。大原家が培った倉敷の産業基盤と京大との連携が、のちの独自技術志向の原点となった。

戦後の同社を特徴づけたのが、国産技術による合成繊維ビニロンの工業化である。石灰石・石炭・水という国産資源を原料とするビニロンは京都大学の桜田一郎らの研究成果を基に開発され、1950年に岡山工場で生産を開始し、日本初の独自技術による合成繊維となった。当初は風合いや染色性の難から市場開拓は困難を極めたが、1954年に高強力タイプの開発に成功すると漁網・ロープ・セメント補強材などの産業資材として用途が広がり、同社の技術力を代表する素材となった。ビニロンの成功は、倉敷レイヨンの企業文化に他社の真似をしない独自技術という価値観を刻み込んだ。

基幹事業の確立 — クラリーノ・エバール・イソプレン

1960年代、同社は繊維にとどまらない多角化に舵を切った。1962年に新潟県中条町で天然ガスを原料とするポバール工場を稼働させ、化学品事業の基盤を築いた。1964年に独自技術による人工皮革「クラリーノ」の生産を開始し、天然皮革に迫る風合いと軽量性で市場を驚かせた。米デュポンなど複数社が競って参入するなか、同社は品質の優位性と積極的なマーケティングで首位を押さえ、ランドセル向けをはじめとする用途で高い市場シェアを獲得した。クラリーノは同社の顔となるブランドに育ち、その後の多角化戦略の軸となった。ポバールとクラリーノの組み合わせは繊維依存を脱する最初の足場で、以降の新素材開発を支える収益源ともなった。

1972年、ポバール技術の応用から生まれたガスバリア樹脂「エバール」の生産を岡山工場で始めた。食品包装材のガス遮断性に革新をもたらすエバールは、のちにクラレ最大の収益源に育つ。同年には鹿島工場でポリイソプレンゴムの製造も始め、イソプレンケミカル分野への本格参入を果たした。ビニロン、クラリーノ、エバール、イソプレンという独自の基幹事業が1960年代から70年代前半にかけて相次いで立ち上がったことが、のちのグローバル機能素材メーカーへの飛躍の礎となった。この時期の連続的な新素材開発は、独自技術で市場を切り拓く同社の企業文化を代表する。

繊維専業からの脱却と社名変更の実行

事業領域の拡大を踏まえ、同社は1970年に「株式会社クラレ」へ社名を変更した。「倉敷レイヨン」からの決別は、名称変更にとどまらず、繊維メーカーから高機能素材メーカーへの転換を宣言する一手だった。1970年代に同社を襲った二度の石油危機は化合繊業界に深刻な打撃を与えたが、同社はイソプレン誘導品による香料・医農薬中間体などのファインケミカル分野への展開、人工腎臓をはじめとするメディカル製品の事業化で危機を乗り越えた。繊維依存からの脱却が激動の時代に耐え抜いた最大の要因で、1960年代から続けた独自素材の開発が石油危機下の経営を支える盾となった。

1980年代に入ると、1983年にエバールの米国現地生産法人EVAL Company of Americaを設立して海外展開に踏み込んだ。1986年に米国工場が稼働を始め、グローバル供給体制の第一歩を踏み出したことは、その後の世界展開の原点となった。国内では面ファスナーの日本ベルクロ、メタクリル樹脂の協和ガス化学工業といった関連企業の合併を進め、事業基盤を統合・強化した。1988年に策定した第2次中期経営計画では繊維事業の合理化と非繊維事業の拡大を打ち出し、祖業であるレーヨンの生産縮小が始まった。この時期の構造改革が、のちの本格的な祖業撤退への下地となり、エバール海外生産の立ち上げと合わせて同社のポートフォリオ転換を加速した。

1990年〜2017グローバル機能素材メーカーへの本格的飛躍

エバール三極体制と祖業からの決別

1990年代、クラレはエバールのグローバル供給体制の構築を進めた。1991年にドイツに欧州統括拠点を設立し、1997年にはベルギーにエバールの欧州生産拠点EVAL Europe N.V.を新設した。1999年に同工場が稼働を始め、日本・米国・欧州の三極生産体制が完成し、クラレは名実ともに世界市場に根ざす供給者となった。エバールは世界シェア首位を押さえ、食品包装から自動車燃料タンクまで用途を広げた。この三極体制の確立は、以降のポバールやPVB事業でも繰り返される原型となった。欧州・北米の食品産業との直接取引が収益の質を高め、現地の規制動向を踏まえた製品仕様の改良サイクルを回す基盤にもなった。各地の顧客に対して日本から輸出で応える形から、現地で設計・生産・改良を完結する体制へ切り替わった意味は大きい。

そして2001年2月、クラレは創業事業であるレーヨンの生産を停止した。75年にわたる祖業からの完全撤退で、化学繊維メーカーから高機能素材メーカーへの転換が名実ともに完了した。同年12月にはスイスのクラリアントからポバールおよびポリビニルブチラール事業を買収し、ドイツの生産拠点を含む欧州の化学品事業基盤を一挙に獲得した。2004年にはドイツのHTトロプラストからPVBフィルム事業も取得し、自動車用合わせガラス中間膜などポバール関連のバリューチェーンを欧州で拡充した。日米欧の三極体制はエバールだけでなくポバール・PVB事業にも広がり、グローバル機能素材メーカーとしての事業基盤が整った。

M&Aによるポバール世界首位の確立

2010年代に入ると、クラレはM&Aを成長の主軸に据える路線へ舵を切った。2012年には米MonoSol Holdingsを取得原価約3.95億ドルで買収し、水溶性ポバールフィルム市場で首位の地位を押さえた。洗剤ポッドなどの個包装向けに伸びるこの分野で、ポバール樹脂からフィルムまでの垂直統合を実現したことは、素材メーカーから加工度の高い最終製品領域への進出を意味した。この買収は、のちの水溶性フィルム世界首位という称号につながる布石となり、クラレのM&A戦略の起点を形作った。自社のポバール樹脂を自社のフィルム工場で加工する体制は、他社が模倣しにくい参入障壁として働いた。

2014年6月、クラレは米デュポンからビニルアセテート関連事業を約648億円で買収した。VAM、PVA、PVBシートなど年間売上5億ドル超の事業群と米国テキサス州の生産拠点を取得し、ポバール世界シェア首位の地位を盤石にした。デュポンが長年培った技術力と販路をクラレの既存事業と統合し、原料から最終製品までの一貫体制を北米でも築いた。買収効果が本格化した2017年12月期にはビニルアセテートセグメントの売上高が2347億円、セグメント利益613億円に達し、連結売上高は5184億円、営業利益751億円と過去最高水準に達し、営業利益率は14.5%に上昇した。デュポン買収はMonoSolに続く北米ポバール・チェーンの仕上げで、以降の収益基盤を支えた。

世のため人のため、他人のやれないこと

クラレの企業理念である「世のため人のため他人のやれないことをやる」という言葉は、創業以来の独自技術志向を端的に表す。ビニロンもエバールもポバールも、既存の大市場に参入するのではなく、自ら開拓した技術をニッチ市場でグローバルトップに育てる戦略で成長した。デュポン事業の買収はその延長線上で、世界シェア首位のポバール樹脂にフィルム・シートまでの川下領域を加え、バリューチェーン全体を押さえる構図を完成させた。買収シナジーの実現は同社のM&A能力を内外に印象づけ、MonoSolからデュポンに至る一連の取引で水溶性フィルムや合わせガラス中間膜の分野でも競合が追随しにくい地位を築いた。

2017年12月期のセグメント構成をみると、ビニルアセテートが売上2347億円で全体の45%を占め、トレーディング1252億円、機能材料497億円、繊維395億円、イソプレン300億円と続く。ビニルアセテートのセグメント利益は613億円で全社営業利益の8割超を稼ぎ、同事業への収益依存度の高さが際立った。基幹事業の高収益性はクラレの強みである一方、単一事業への過度な依存という戦略的リスクも内包し、次の成長ドライバーを模索する必要性が経営課題となった。過去の10年で買収と撤退を繰り返して整えた収益構造は、ビニルアセテートという一本足打法に戻りつつあった。ビニルアセテート偏重からの脱却が次の一手として急がれ、環境関連素材の本格買収という選択肢が視野に入った。

2018年〜2022大型買収の光と影、米国事故と構造改革の始動

カルゴン・カーボン買収と環境分野への進出

2018年1月、クラレは米国の活性炭最大手カルゴン・カーボン・コーポレーションを約1234億円で買収した。活性炭は水処理、大気浄化、食品産業など幅広い環境関連用途を持つ素材で、クラレはこの買収で「環境ソリューション」を新たな成長の柱と位置づけた。国内で保有していた炭素材料事業とカルゴンの活性炭事業を統合し、原料炭から再生処理までの一貫体制を築いた。機能材料セグメントの売上高はFY17の497億円からFY18には1120億円へ倍増し、同セグメントは事業ポートフォリオ上の主要な位置を占め、環境関連市場への本格参入を果たした。ビニルアセテート偏重の収益構造に環境関連という第二の柱を加える意図が明示された買収だった。

この大型買収でクラレの連結売上高は6030億円に達し、総資産は9471億円へ拡大した。ビニルアセテート事業に偏重した収益構造を是正し、事業ポートフォリオの分散を図る戦略的意図があった。ただし買収資金の多くを借入で賄ったため、有利子負債はFY17の600億円からFY18には2166億円へ急増し、自己資本比率は71.7%から58.6%へ低下した。買収資金の借入が財務構造を変え、その後の経営は財務健全性の維持と成長投資の同時追求という課題を抱え込んだ。カルゴンが持つ米国の石炭系活性炭ラインと日本側のヤシ殻系活性炭は用途が補完的で、統合シナジーは長期で効くと見られたが、短期の財務には明確な負担となった。大型買収の代償は小さくなく、米国エバール工場の火災事故と重なって同社の海外事業運営力が本格的に問われた。

米国工場火災と多額の訴訟損失の発生

カルゴン買収完了からわずか数か月後の2018年5月、米国子会社Kuraray America, Inc.のエバール工場で大規模な爆発火災事故が発生した。定期修繕中にエチレン昇圧操作を誤り、大量のエチレンが放出・着火した結果、外注作業員を含む266名が被災する重大事故となった。被災者側は精神的苦痛を含む巨額の賠償を請求し、クラレは2019年12月期に訴訟関連損失506億円、翌2020年12月期にも231億円を特別損失として計上した。累計736億円に及ぶ損失は、海外事業の急拡大に伴うオペレーションリスクと安全管理の重要性を浮き彫りにし、買収した子会社に対するガバナンスのあり方を経営が根底から見直すきっかけとなった。

この結果、2019年12月期は親会社帰属純利益が20億円の赤字に転落した。2020年には新型コロナウイルス感染拡大による世界的な需要減退が重なり、営業利益はFY20に443億円まで落ち込んだ。ただしビニルアセテート事業の基盤は底堅く、環境規制の強化でエバールやポバールの需要は回復基調を辿った。FY20の売上高は5418億円と前期比6%減にとどまり、営業利益率も8.2%を維持した。自動車・食品包装・水処理といった用途が景気変動の影響をそれぞれ異なるタイミングで受ける事業構成が、一つのショックに対して業績全体が崩れる構造を緩めた。大型買収直後の試練はクラレの経営体制に負荷を与えたが、単一事業への依存を薄めた長年のポートフォリオ分散が、事故とコロナ禍の二重の衝撃を吸収する緩衝材として働いた。

コロナ後の業績回復と構造改革の始動

2021年以降、世界経済の正常化と円安効果でクラレの業績は回復した。FY21に売上高6294億円、営業利益723億円まで戻し、FY22には売上高7564億円、営業利益871億円に達した。営業利益率は11.5%に改善した。ビニルアセテートセグメントは売上3712億円、セグメント利益775億円と伸び、円安による海外収益の嵩上げに加え、食品包装や自動車向けの需要回復が寄与した。大型買収の統合効果とコロナ禍からの需要回復が同時に顕在化し、クラレの業績は短期間で過去最高水準へ戻った。北米デュポン事業と欧州のポバール・PVB事業が通期で寄与し、MonoSolの水溶性フィルムも北米洗剤市場の拡大を取り込んだ。回復基調が経営に再び攻めの姿勢を取り戻させ、2022年のPASSION 2026策定とその後の営業利益目標1100億円への上方修正につながった。

FY22にはセグメント構造の再編が行われ、トレーディングセグメントの販売・マーケティング機能が各事業セグメントに統合された。各セグメントが自律的に市場開拓を担う体制へ移り、事業ポートフォリオの実態を反映する構成となった。同時期にイソプレン事業では中国市況の軟化や原燃料高の影響から操業休止関連費用の計上が始まり、グループ全体の利益の質が問われ始めた。中国勢の合成ゴム増強とエラストマーの市況悪化は2018〜19年から続く構造問題で、クラレの鹿島工場の設備稼働率も下がり始めていた。表面的な好業績の裏で次の構造課題が顕在化し、翌期以降の事業再編を促す下地として経営陣の意識に刻まれ、のちのMMA縮小や不織布撤退といった一連の整理につながった。

参考文献・数字根拠

参考文献

有価証券報告書
日本会社史総覧
会社銀行八十年史
日本経済新聞 2013/11/21
日本経済新聞 2017/9/21
クラレ 中期経営計画「PASSION 2026」進捗と見通し 2025/2/12
ダイヤモンド・オンライン 2015/9
日本経済新聞

数字根拠

売上高(2017/12期)

5184億円

有価証券報告書

営業利益(2017/12期)

751億円

有価証券報告書

営業利益率(2017/12期)

14.5%

有価証券報告書

ビニルアセテート売上高(2017/12期)

2347億円

有価証券報告書

ビニルアセテート利益(2017/12期)

613億円

有価証券報告書

機能材料売上高(FY17→FY18)

497→1120億円

有価証券報告書

有利子負債(FY17→FY18)

600→2166億円

有価証券報告書

訴訟関連損失累計

736億円

有価証券報告書

売上高(2020/12期)

5418億円

有価証券報告書

営業利益(2020/12期)

443億円

有価証券報告書

売上高(2022/12期)

7564億円

有価証券報告書

営業利益(2022/12期)

871億円

有価証券報告書

ビニルアセテート売上高(2022/12期)

3712億円

有価証券報告書

イソプレン減損損失(FY25)

150億円

有価証券報告書

エラストマー減損損失(FY25)

106億円

有価証券報告書

営業利益(2025/12期)

589億円

有価証券報告書

親会社帰属純利益(2025/12期)

75億円

有価証券報告書

有利子負債(FY25)

2849億円

有価証券報告書

DuPont事業 取得原価

648億円

有価証券報告書

Calgon Carbon 取得原価

1234億円

有価証券報告書

MonoSol 取得原価

395百万ドル

有価証券報告書