クラレの直近の動向と展望
クラレの直近の業績・経営課題・市場ポジションと、今後の展望をまとめたページです。
セグメント構成や中期的な論点を、現経営陣の発信と有価証券報告書の記述をもとに整理しています。
直近の動向と展望
PASSION 2026 — 創業100周年に向けた中期経営計画
2022年に策定された5か年中期経営計画「PASSION 2026」は、創業100周年となる2026年に向けた成長戦略の柱である。当初のFY26目標は営業利益1000億円、ROIC 8%だったが、事業環境の変化を踏まえ2025年に上方修正され、営業利益1100億円、ROIC 9%、EBITDA 1860億円を目指す構成となった。5年間の成長・戦略投資額は当初計画比1200億円増の5000億円に引き上げられ、活性炭の年産2.5万トン増設やモノソルの水溶性フィルム新ライン建設など、競争力のある事業への集中投資が進む。環境ソリューション・ビニルアセテート・イソプレンという3本柱のうち前2者に資源を傾け、後者は構造改革の対象と位置づける色分けが計画全体の骨格となった。経営計画は創業100年という節目に向けた意思を示し、過去のMonoSol・デュポン・カルゴン買収で築いた事業基盤を磨き上げる段階へ移った。
事業ポートフォリオの最適化も並行して進む。MMA生産能力の削減、乾式不織布事業からの完全撤退、アクリル系ブロック共重合体やポリエステル関連製品の生産終了など、不採算・低成長と判断した領域からの撤退を矢継ぎ早に決めた。かつて伊藤正明は「苦労して苦労して事業の縮小撤退を進め、会社の中身を入れ替えてきた」(ダイヤモンド・オンライン 2015/9)と語り、撤退の痛みと引き換えにポートフォリオを組み替える方針を打ち出した。FY26までに入替えを完了し、構造改革費用の計上を終える方針が示されている。攻めのM&Aと守りの撤退を並走させる構図は、祖業レーヨンからの撤退と新素材開発を重ねた1980年代の構造改革を彷彿とさせる。
- クラレ 中期経営計画「PASSION 2026」進捗と見通し 2025/2/12
- 有価証券報告書
- ダイヤモンド・オンライン 2015/9
イソプレン・エラストマー事業の減損と収益課題
直近の最大の課題は、イソプレン事業の構造的な収益低迷である。2023年にタイで稼働を始めたブタジエン・イソブチレン誘導品のプラントは安定稼働に入ったが、中国における建築用途の需要低迷が長期化し、エラストマーの市場競争も激化した。FY25にはイソプレンケミカル事業で150億円、スチレン系熱可塑性エラストマーで106億円の減損損失を計上した。イソプレンセグメント全体では49億円の赤字となり、事業の抜本的な見直しが迫られている。1972年に鹿島工場で立ち上がった基幹事業の一つが大きな転機を迎え、タイ新拠点の収益化と既存設備の再編を同時に進める難しい局面が続く。
この減損の影響もあり、FY25の連結営業利益は589億円と前期比31%減で、営業利益率は7.3%に低下した。特別損失は380億円に達し、親会社帰属純利益はわずか75億円にとどまった。最大セグメントであるビニルアセテート事業も利益625億円と前期の876億円から減少し、ガスバリア樹脂や中間膜の中国向け需要の軟化がグループ全体の収益力に影を落としている。中国の自動車生産鈍化と建築用ガラス需要の低迷がPVB中間膜の販売量を押し下げ、食品包装向けEVOH樹脂も現地顧客の在庫調整で出荷が伸び悩んだ。海外需要の構造的な変調が同社の収益基盤を揺さぶり、事業ポートフォリオの抜本見直しは避けられない。グローバル首位級の地位を保ちつつ中国市場の変化にどう対応するかが、次期中計の中心論点となる。
- クラレ 中期経営計画「PASSION 2026」進捗と見通し 2025/2/12
- 有価証券報告書
- ダイヤモンド・オンライン 2015/9
ニッチトップ戦略の深化と次の百年に向けた展望
クラレは売上高8000億円を超えるスペシャリティ化学企業に育ったが、戦略の本質は巨大市場での価格競争ではなく、ニッチ市場でのグローバルトップを追う一貫した姿勢にある。ポバール世界首位、エバール世界首位、水溶性フィルム世界首位、活性炭世界首位級と、いずれも「他人のやれない」領域で地位を築いた。この戦略は高い参入障壁と安定した収益をもたらす反面、個々の市場規模には限界があり、成長の持続にはM&Aによる事業領域の拡張が不可欠で、経営上のジレンマを抱える。デュポン・カルゴンの大型買収が財務負担と訴訟損失を同時に呼び込んだ経験は、その構図のリスクを浮き彫りにした。
2026年の創業100周年を目前に控え、イソプレン事業の構造改革、タイ新拠点の収益化、カルゴンを起点とする環境ソリューション事業の拡大が次の成長軌道を左右する。有利子負債は2849億円と依然高水準で、デュポン・カルゴンの大型買収で積み上がった財務負担を圧縮しつつ、新たな成長投資の原資を確保する舵取りが求められる。活性炭や水溶性フィルムといった環境関連の需要は中長期で伸びが続くとみられ、カルゴンのPFAS(有機フッ素化合物)処理案件の獲得実績も増えている。創業100年を迎える同社は、祖業レーヨンからの脱却と高機能素材への特化という軌跡の上に、次の100年の成長基盤をどう築くかという課題に直面しており、ビニロン以来のニッチトップ戦略をどこまで更新できるかが次の焦点となる。
- クラレ 中期経営計画「PASSION 2026」進捗と見通し 2025/2/12
- 有価証券報告書
- ダイヤモンド・オンライン 2015/9