歴史概要 — 現在に至るあゆみ 主要な意思決定と帰結のまとめ
創業2013年11月、戸建分譲で「パワービルダー」と呼ばれた6社が、共同株式移転で持株会社・飯田グループホールディングスを東京・西東京市につくった。一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームの6社は、首都圏で家を持てない層へ低価格の建売を量産する同じ商売を競い合い、合計で年間約45,000戸を供給していた。採算は用地仕入と建材調達のコストで決まり、各社単独では下げきれない。それを規模で押し下げるため、6社が一つの傘下に集まった。
決断統合にあたり6社を一社へ溶かさず、独立したセグメント会計のまま競わせ、HDは用地仕入・建材調達・人材だけを束ねる連邦型を選んだ。量産の利幅は原価で決まるため、コストの上流そのものを握った。2014年に子会社化したファーストウッドを皮切りに、木材・サッシ・住宅設備・建材流通を順に内製化し、2022年にはロシア極東の森林・製材会社RFPを約180億円で取り込んだ。薄い利幅を自前の原価管理で守る垂直統合が、いまの収益構造である。
歴史詳細 - 3つの時代区分で読み解く
2013年〜2017年 戸建分譲6社統合と年間4万棟超のパワービルダー連合の発足
パワービルダー6社が共同株式移転で連合した経緯
2013年6月、戸建分譲市場で「パワービルダー」と呼ばれる有力6社が、共同持株会社方式での経営統合に係る株式移転契約を締結した[1]。一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームの6社は、首都圏を中心に低価格の建売住宅を量産する事業モデルを共有していた[2]。統合前の上場市場は分かれており、飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワンは東京証券取引所第一部、一建設とアイディホームはジャスダックに上場していた[3]。6社は戸建分譲市場の量的トップ集団を形成していたが、各社単独では、用地仕入の競争と建材調達のスケール、人材確保のコストが採算上の負担となっていた。6社の経営者は、価格競争で消耗する代わりに、共同持株会社の傘下に入って規模の経済を獲得する統合スキームを選んだ。
2013年7月に飯田産業の株主総会で株式移転計画書が承認され、続く2013年8月には一建設・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホームの株主総会でも統合計画が承認された[4]。6社が同一持株会社の傘下に入ることが確定し、業界第1位連合の成立が定まった。同年11月、共同株式移転により6社の親会社として飯田グループホールディングス株式会社が東京都西東京市に設立され、即日東京証券取引所市場第一部に上場した[5]。6社は完全子会社化され、HD設立から即時の市場アクセスを確保する設計である。HD初代社長には西河洋一氏が就任し、[6]創業者の飯田一男氏が初代の代表取締役会長に就いた。だが飯田一男氏は設立直後の同年11月29日に逝去し、設立時に代表取締役副会長であった創業家の森和彦氏が、翌2014年2月に代表取締役会長へ就任して経営の中核を担った[7]。
統合の経済合理性は、用地仕入と建材調達の2点に集中していた。各社が個別に競合していた首都圏の戸建用地は、HD傘下で共通の仕入基準と価格交渉力を持つことが可能になり、ゼネコン・建材メーカーへの発注も6社分を束ねた一括交渉が可能となった。HD設立直後のFY13連結売上高は7,538億円、親会社株主当期純利益338億円で、6社合算ベースとの実質連結初年度を超えた水準で着地した。日本の戸建分譲市場は、6社統合により業界トップ連合が出現する構造変化を経験した。6社を束ねた供給戸数のスケールは、財閥系大手の不動産デベロッパーが個別に持つ住宅事業を一段超える規模で、価格を武器に郊外戸建市場を押さえる独自ポジションが定着した。
ファーストウッド子会社化とロシア進出──垂直統合戦略の第一歩
2014年5月、飯田グループHDはファーストウッド株式会社を子会社化した[8]。ファーストウッドは木材・建材の調達を担う商社で、戸建分譲のコスト構造の上流を内製化する垂直統合の第一歩である。建売住宅の建材コストは1棟あたり数百万円規模で、ゼネコンや商社経由で調達するよりも自社グループで原木から流通まで持つほうがコストを下げられる。戸建分譲の事業構造上、用地仕入と建材調達がコストの2大要素であり、HD化で用地仕入を統合した次の手として建材内製化が選ばれた。ファーストウッド子会社化は、HD設立から半年での最初のグループ拡張M&Aで、以後の垂直統合策の先例となった。
ファーストウッド子会社化に前後して、飯田グループHDはロシア極東を木材調達の拠点に据える動きを進めた[9]。ロシア産の構造用木材(主にSPF材:スプルース・パイン・ファー)は日本の戸建住宅市場で広く使われており、戸建分譲6社の年間建材需要をロシア木材で賄う構想が背景にあった。このロシア極東での木材調達の足場は、後年の2022年1月のRFPグループ買収へつながった[10]。木材自給率を高める戦略は、戸建分譲業界の中でも珍しい垂直統合への踏み込みで、建売住宅の量産モデルにおける原価管理の足場を提供した。
HD設立後は海外進出と建材内製化の動きも続いた。木材調達のためのロシア極東のほか、米国・東南アジアにも事業拠点を広げる海外展開を進め、窓・サッシなど建材内製化の対象も建材流通ルートへと拡張した[11]。HD設立後の数年間で、用地仕入・建材調達・木材自給という3方向で垂直統合を試行した。
2018年〜2021年 西河社長期の年間46,000戸供給と兼井社長への交代
「日本一の住宅戸数供給企業」としての10%成長目標
西河洋一社長は2014年1月の取材で、6社統合後の経営目標を二桁成長率に置く方針を示した[12]。実際の連結売上高はFY13の7,538億円からFY14には1兆1,881億円へ57.6%増、FY15に1兆1,360億円、FY16に1兆2,324億円、FY17に1兆3,353億円と、HD設立から5年で売上規模を1.7倍に拡大した。親会社株主当期純利益もFY13の338億円からFY17の695億円へ約2倍に伸びた。
6社の販売戸数は、HD化前から年間4万棟超の合計値を保ち、HD設立後も増加を続けた[13]。2020年初頭には戸建供給戸数が年間46,000戸へ達し、住宅戸数供給で国内最大のポジションが定着した[14]。西河社長は創業時から、住まいを持てない層への戸建供給を理念として掲げ、低価格戸建分譲の社会的意義を強調した。耐震基準を標準強度の1.5倍に設定し、全棟住宅性能評価書付の対応を継続するなど、価格と品質の両立を経営の柱に据えた[15]。
セグメント別の業績は、HD化以降も6社(一建設・飯田産業・東栄住宅・タクトホーム・アーネストワン・アイディホーム)の独立した会計区分を維持した。FY17の各社売上高は、一建設グループ3,729億円、アーネストワングループ2,903億円、飯田産業グループ2,561億円、東栄住宅グループ1,552億円、タクトホームグループ1,458億円、アイディホームグループ1,132億円であった。最大のセグメントである一建設グループはHD設立前の親会社系列で、6社の中でも首都圏での販売拠点数が最も多かった[16]。各社別の独立性を保ちながら、HDが用地仕入・建材調達・人材戦略を統括する分業体制が、6社統合の運営原理として定着した。
2021年4月の兼井雅史社長就任とコロナ期の需要追い風
2019年10月、ファーストプラス株式会社を子会社化し、住宅設備関連の内製化も進めた[17]。住宅設備(給湯器・浴室・キッチン等)は1棟あたり200〜300万円規模のコストで、ファーストプラスの取り込みにより部材調達コストの抑制が可能になった。HD設立後7年で、木材(ファーストウッド・ロシア極東での木材調達)・住宅設備(ファーストプラス)に加え、窓サッシ・建材流通を含む複数領域で垂直統合の対象を広げた。建売住宅の総原価のうち、HD傘下で内製化された比率が一段上がる構造が定着した。
2020年からのコロナ禍では、テレワーク普及で郊外戸建の需要が増加し、飯田グループHDの戸建分譲の販売が拡大した。FY20の連結売上高は1兆4,562億円・営業利益1,213億円・親会社株主当期純利益833億円となり、HD設立後の最高益を更新した。営業利益率は8.3%、ROEは18%水準と、戸建分譲業界の上場大手の中でも高い収益性を確保した。コロナ期の住宅需要のシフトと、HD化後の垂直統合の効果が、同時に業績へ反映された。FY20の決算では西河社長期の最終年度として、HD設立から7年の経営成果が数字として現れた。
2021年3月、西河洋一社長は任期満了で退任し、後任に副社長の兼井雅史氏が就任した[18]。兼井社長は2021年4月の就任時、経営基盤強化を新体制移行の目的に置き、HD設立から7年経過したグループの体制再構築に着手した。創業者・森和彦会長は2021年3月時点で取締役名誉会長へ退き、創業家の経営関与は資本面に限定された[19]。兼井社長期は、HD設立当初の6社独立経営から、HD主導の統合度を一段引き上げる移行期に当たる。西河社長から兼井社長への交代は、HD設立後の初代から2代目への世代交代であった。
2021年1月の株式会社オリエント子会社化と土地仕入機能の強化
2021年1月、株式会社オリエントを子会社化した[20]。オリエントは戸建分譲事業の拡張を目的とした買収で、首都圏の戸建用地仕入機能の強化が狙いである。HD設立から7年で、6社統合・垂直統合・新規会社買収という3方向の事業拡張パターンが定着した。FY21の連結売上高は1兆3,870億円・営業利益1,533億円・親会社株主当期純利益1,034億円で、営業利益は過去最高を更新した。営業利益率は11.1%まで上昇し、HD設立以来の最高水準に達した。同期は西河社長から兼井社長への交代期と重なり、HD設立後の収益ピークが社長交代のタイミングに当たった。
セグメント別ではアーネストワングループの営業利益が404億円・利益率12.6%、東栄住宅グループ227億円・13.3%、タクトホームグループ187億円・11.7%と、6社のいずれもが二桁の利益率を確保した。コロナ期の住宅需要追い風と、用地・建材コスト抑制の両輪が、6社全体の利益率を引き上げた。HD設立から8年で、6社統合の経済効果が数字として現れた局面である。だがコロナ期の需要追い風は一時的なもので、ロシア・ウクライナ情勢の悪化と建材コスト上昇により、2022年以降の業績は転換期に入った。
2022年〜2025年 RFPロシア資源買収とウクライナ侵攻後の利益急減・西野体制への交代
RFPグループ買収と直後のロシア・ウクライナ情勢悪化
2022年1月、飯田グループHDはRussia Forest Products (BVI) Limited(RFP(BVI))およびDallesprom・ALK等計19社(RFPグループ)を子会社化した[21]。RFPグループはロシア極東の森林資源・製材会社グループで、木材原料の自社調達体制を一気に強化する規模を持つ。買収額は約180億円規模で、木材自給戦略の象徴的案件として位置付けられた[22]。HD設立後に進めたロシア極東での木材調達の延長線上で、ロシア木材の上流(森林資源・製材)まで自社グループで持つ垂直統合の到達点である。
だが買収直後の2022年2月、ロシアがウクライナへ侵攻し、欧米諸国がロシア向け制裁を強化した[23]。日本政府もロシア材の輸入規制と取引制限を順次強化し、ロシア極東に資産を持つ飯田グループHDは、RFPグループの事業継続と資産評価の両面で経営判断を迫られた。FY22にはRFPグループの事業見直しに伴う減損損失を計上し、連結営業利益は1,023億円・親会社株主当期純利益756億円へ前期比減益となった。営業利益率は7.1%へ低下し、コロナ期の追い風が止まった建材コスト上昇局面で、ロシア資産の不確実性が業績の不安定要因に転じた。
FY23の連結業績は売上収益1兆4,392億円・営業利益591億円・親会社株主当期純利益372億円で、営業利益率は4.1%まで低下した。HD設立から10年で初めての減益局面で、戸建分譲事業の利益率がコスト上昇に圧迫される構造が数字に現れた。建材コスト上昇に加え、首都圏の戸建用地仕入競争の激化、人件費上昇、住宅ローン金利の動向といった複数の要因が同時に作用した。アイディホームグループはFY23にセグメント利益▲3.2億円の損失を計上し、6社の中で初めての赤字セグメントが出た。
万博パビリオン出展と2025年4月の西野弘社長就任
兼井雅史社長期の終盤、飯田グループHDは2025年4月開幕の大阪・関西万博への企業パビリオン出展を決定した[24]。当時の代表取締役専務であった西野弘氏が万博プロジェクトの統括を担い、大阪公立大学との産学共創パビリオンを企画した[25]。西野氏は2024年初頭、企業と大学の産学共同パビリオン出展が国内初の試みであることを示し、京都の西陣織を用いた外観デザインや人工光合成研究との連携を説明した[26]。万博パビリオン出展は約50億円の費用負担を伴うが、グループのブランド認知向上と次世代住宅技術の発信を狙う長期投資として位置付けられた。
2025年4月、兼井雅史社長は任期満了で退任し、副社長の西野弘氏が新社長に就任した[27]。HD設立から12年で3代目の社長交代となり、西野社長は万博パビリオンの統括経験を活かしてグループの次世代戦略を担う体制となった。経営トップ交代を通じてさらなる成長と価値向上を目指すとの公式表明のもと、6社統合HDの3代目体制が始動した[28]。西河氏(初代)から兼井氏(2代)への交代は経営基盤強化を目的としていたが、[29]兼井氏から西野氏への交代は万博と次世代住宅技術への布石を反映した人事である。
累進配当方針と米国住宅会社買収による事業構造の再編
FY24の連結業績は売上収益1兆4,596億円・営業利益804億円・親会社株主当期純利益506億円となり、FY23から営業利益率は5.5%(前期比+1.4ポイント)まで回復した。同期の決算説明会では、自己株式取得を機動的に実施する方針と、累進配当(業績変動によらず維持または増配)の継続を強調した[30]。累進配当方針は、戸建分譲業界では珍しい株主還元方針で、業績の変動に左右されず配当の下方リスクを抑える設計である。HD設立から12年で、株主還元方針を業績変動に依存しない形へ転換した。
FY25の決算では、売上収益1兆5,088億円・営業利益944億円となり、営業利益率は6.3%(+0.8ポイント)まで回復した[31]。万博出展費用約50億円を負担しながらも、米国住宅会社買収によるのれん増加とRFPグループの事業計画見直しに伴う減損で、のれん純増92億円を計上した[32]。FY27期に向けてのれん償却負担とRFP事業計画の整理が並行で進む局面である。米国住宅会社買収はヒューストン・アトランタ・フォートワースを中心とする現地戸建分譲事業への新規出資で、HD設立後に着手した米国進出の延長線上で、米国市場での事業基盤を構築する段階に入った。
6社統合から12年、HD設立当初の年間4万棟超の戸建分譲事業者が、ロシア森林資源・米国住宅事業・万博パビリオン出展まで事業領域を拡張する道筋は、西河・兼井・西野の3代の社長期にわたって積み上げられた[33]。次の経営課題は、ロシア資産の処理と米国事業の収益化、そして国内戸建分譲事業の利益率回復である。創業家の森和彦氏が築いた6社統合HDの枠組みは、3代目社長期に世代交代と国際化の局面を同時に迎えた[34]。日本の戸建分譲業界では、財閥系大手・ハウスメーカー系・パワービルダー連合という3勢力の中で、飯田グループHDが量的トップの位置をHD設立から12年にわたって維持しており、次の経営課題は質的な事業構造の再編へ移った。