創業1997年12月、インターネットが家庭に入り始めた頃、当時24歳の槙野光昭氏が東京で有限会社コアプライス(後のカカクコム)を興し、価格比較サイト「kakaku.com」を立ち上げた。家電量販店ごとに違う売価を消費者が横並びで見られる仕組みで、安く買いたい消費者と、選ばれたい店を一枚の画面でつないだ。自社は在庫も店舗も持たず、掲載する店から手数料を取る。値段を比べる側の関心が、比べられる側の出稿を呼ぶ場だった。
決断創業者は5億円稼いだら辞めると起業時から決めており、2001年に28歳で事業をICPへ約25億円で売って退いた。創業者の色を残さない代わりに同社が選んだのは、価格比較で確かめた仕組みを別の領域へ移すことである。2005年の食べログは、評価する利用者が口コミを無償で書き、評価される飲食店が掲載料を払う関係を外食に持ち込んだ。利用者が中身を作り、評価される側が払う両面の場が、売上の四割近くを営業利益として残す収益体質を生んだ。
- 歴史詳細 3章・4,130字
メインコンテンツ。一次資料をベースに歴史を紐解く
- 沿革年表 33件
主要な出来事を重要度別に時系列で整理
- 長期業績 2002〜2026年(25カ年)
有価証券報告書などの公開データに基づく長期データ
- 直近の業績
業績推移と経営体制
- セグメント情報 2005〜2025年(21カ年)
各事業の売上・営業利益・利益率の推移
- 歴代社長 3名
代表取締役社長・CEO の在任期間・経歴・在任中の施策
- 取締役一覧 2018〜2025年(8カ年)
取締役の構成バランスと社外独立性
- 大株主・株主構成 2005〜2024年(20カ年)
上位10名の入れ替わりと所有者区分7区分の推移
- 組織と給料 2011〜2025年(15カ年)
連結/単体の年次変化と業界他社の平均給与比較
決断の理由 — クリティカルな歴史の転換点を読み解く
- Q なぜ槙野光昭氏は2001年に28歳でkakaku.comを売却したのか
- A 1997年12月に有限会社コアプライスを興した時点で、槙野光昭氏は5億円稼いだら辞めると終了基準を決めていた。事業そのものの永続より、価格比較という新規性の高い仕組みを早く現金化することが当初からの設計だったためである。家電量販店ごとの売価を消費者が横並びで見られるkakaku.comは在庫も店舗も持たず、掲載する店から手数料を取る身軽な構造で短期間に価値を高めた。2001年、槙野氏は28歳でこの事業をICPへ約25億円で売り、当初の5億円基準を5倍超で上回って退いた。
- Q なぜ2005年に価格比較から離れて食べログを立ち上げたのか
- A 2005年に食べログを立ち上げたのは、kakaku.comで確かめた両面型の仕組みを別の領域へ移すためである。価格比較は、安く買いたい消費者の関心が、選ばれたい店の出稿を呼ぶ場として成り立っていた。同じ関係を外食に持ち込めば、評価する利用者が口コミを無償で書き、評価される飲食店が掲載料を払う構造ができると見た。2004年入社で後に第5代社長となる村上敦浩氏が中心となり、ユーザー投稿型の口コミサイトとして開始した。この両面の場が、売上の四割近くを営業利益として残す収益体質を生んだ。
- Q なぜ2024年に食べログの生みの親・村上敦浩氏を社長に据えたのか
- A 2024年4月に村上敦浩氏を第5代社長に据えたのは、最大の利益源を自ら設計した生え抜きへ承継を切り替えるためである。これまでは買い手ICP出身の穐田誉輝氏、三菱銀行から移った田中実氏、JT出身の畑彰之介氏と、歴代のトップを外から入った人材が継いできた。村上氏は2005年に食べログを立ち上げた当人で、FY24期に181億円のセグメント利益を上げる主力サービスの生みの親である。2012年以来電通グループが筆頭株主に座る資本の形は変えず、経営の判断だけを社内で稼ぎ頭を生んだ当人へ移した。
歴史詳細 - 3つの時代区分で読み解く
1997年〜2001年 槙野光昭氏が在学中に立ち上げた価格比較サイトと28歳での売却
1997年・有限会社コアプライス設立と「kakaku.com」の誕生
1997年12月、当時24歳の槙野光昭氏が有限会社コアプライスを設立し、価格比較サイト「kakaku.com」を立ち上げたのが事業の起点である[1][2][3]。1997年は日本でインターネットが家庭に普及し始めた時期で、ヤフーの日本サービスが1996年4月開始、楽天市場が1997年5月開始という前後関係にあった。価格比較サービスは、家電量販店ごとに異なる売価をユーザーが横並びで確認できるという、当時として新規性の高いサービスだった。槙野氏は事業を在学中に着想し、5億円稼いだら辞めると決めていたと後年語っているとおり、起業から早期売却を視野に入れた事業設計が当初から組み込まれていた。
1999年12月、本社を東京都台東区に移転[4]。2000年5月、有限会社コアプライスから株式会社カカクコムへ組織変更と商号変更を実施し、株式会社としての法人形態を整えた[5]。2000年9月にも台東区内で本社を移転し、組織拡大に対応した[6]。創業から2年半で個人事業に近い形態から、組織化された株式会社へ転換する作業を進めた時期である。
2001年・28歳での「kakaku.com」売却とICPの登場
2001年、槙野氏は28歳でkakaku.comの事業をICP(インターネット総合研究所系の投資会社)に約25億円で売却し、自らはリタイアした[7][8]。槙野氏は新R25インタビューで5億円稼いだら辞めると決めていたと、起業時に立てた終了基準が25億円という売却額で5倍超に達した経緯を語った。ICPの代表だった穐田誉輝氏が、売却後の第2代社長として就任し、カカクコムの経営を引き継いだ[9]。創業者退場と買い手側経営者就任の連続性が、IT黎明期の日本における事業承継の典型事例の一つとして残った。
穐田誉輝氏は1969年生まれ、青山学院大経済卒で、ICPの代表からカカクコム社長に就任した。穐田社長体制の下で、価格比較サイト「kakaku.com」の事業基盤強化と上場準備が並行で進められた。2002年6月、株式会社デジタルガレージの資本参加を受け、翌7月にデジタルガレージから役員を招聘し、同社の子会社となった[10][11]。デジタルガレージは伊藤穣一氏らが創業したインターネット投資企業で、当時の日本のネットビジネスのキーマンが集まる立場にあった。
2002年〜2015年 田中実社長体制10年の連続増収増益と食べログの主力化
2003年マザーズ上場・2005年東証一部昇格
2003年10月、カカクコムは東京証券取引所マザーズに株式を上場した[12]。創業から6年で公開企業へ移行する短期サイクルは、IT企業としても速い部類に属し、価格比較サイトという新規性の高いサービスが市場に評価された結果である。2004年6月、本社を東京都文京区に移転[13]。2005年1月にフォートラベル株式会社を株式取得及び株式交換により完全子会社化、3月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更を完了した[14][15]。上場から1年半で一部昇格を達成する速さも、当時のIT業界としては破格だった。
2005年、食べログ(tabelog.com)が立ち上げられた[16]。後の第5代社長となる村上敦浩氏(2004年入社)が立ち上げの中心人物として関与し、ユーザー投稿型のレストラン口コミサイトとして開始された[17]。食べログは初期から本サイト「kakaku.com」とは別カテゴリの主力サービスとなる潜在性を持ち、2010年代を通じて急成長した。
2006年6月、第3代社長として田中実氏(1962年生、東京外大卒、三菱銀行→デジタルガレージ)が就任した[18][19]。田中氏は2016年まで10年間社長を務め、その間カカクコムは連続増収増益を続け、食べログを主力サービスに育てた経営期間として残った[20]。田中氏は経営プロのインタビューで、カカクコムには熱いおたく集団がいます、うちには、競合とどう差別化するかといったことを、ビジネススクール的なアプローチで分析するような社員はいないんですと、同社の現場主導の事業文化を語った。
2007〜2014年・買収による事業拡大
田中実社長の在任期間、カカクコムは比較・評価領域のサービスを買収で取り込んだ。2007年4月に映画情報サイトの株式会社エイガ・ドット・コムを株式取得により子会社化し、2014年3月に旅行関連の株式会社タイムデザイン、2015年2月に自動車情報の株式会社webCGを相次いで子会社化した[21][22][23]。すでに2005年1月には旅行クチコミのフォートラベル株式会社を完全子会社化しており、映画・旅行・自動車という消費者の関心領域ごとに、比較・評価サービスを自社グループへ取り込む動きを続けた[24]。
価格比較サイト・クチコミサイト・レビューサイトといった「比較・評価」を軸に据えるサービス群を、自社の傘下へ集約することで総合プラットフォーム化を進めた。田中実社長の在任期間における事業拡大は、本サイト「kakaku.com」と食べログの自社開発に、関連領域の買収を併用する形で進んだ。価格・飲食店・旅行・映画・自動車と、ユーザーが意思決定の前に「比較し評価を確かめる」場面を、領域横断で押さえる方向の拡大である。
デジタルガレージから電通へ、上場後10年で入れ替わった主要株主
2009年5月、株式会社デジタルガレージが保有する自社株式の一部をカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)へ譲渡完了し、デジタルガレージ及びCCCの持分法適用関連会社となった[25]。2012年5月、CCCが保有する自社株式の一部を株式会社電通(現・電通グループ)へ譲渡完了し、2012年6月に株式会社電通の持分法適用関連会社となった[26][27]。この間、カカクコム本体の事業は田中実社長の下で連続増収増益を続けており、株主の側だけが3年ごとに入れ替わる構図だった。
創業期の親会社デジタルガレージから、レンタル・流通のCCC、広告最大手の電通へと、2009年から2012年にかけて持株比率の主軸が移り変わった[28]。デジタルガレージ→CCC→電通という筆頭株主の連続的な交代は、上場後10年間のカカクコムを資本面から特徴づける動きである。事業の主導権は一貫してカカクコム経営陣が握り続けた一方、資本側ではネット投資会社からメディア・広告系の事業会社へと持株の重心が移っていった。
2016年〜2026年 畑彰之介社長体制から村上敦浩社長体制への承継と食べログの収益柱化
2016年・第4代畑彰之介社長就任
2016年6月、田中実氏は10年に及ぶ社長在任を終え、第4代社長として畑彰之介氏(1974年生、東大経済卒・JT→2001年カカクコム入社)が就任した[29]。畑氏は営業本部から昇格した人物で、田中社長体制で蓄積した連続増収増益基調を引き継ぐ立場での就任となった。2016年6月の東洋経済オンラインは絶好調カカクコム、10年ぶり新社長の課題「高収益・急成長」をと見出しに掲げ、田中社長時代の高水準業績を維持できるかが新社長の主要課題と位置付けた。
2018年1月に株式会社LCLを株式取得により子会社化、引き続き関連領域の買収を進めた[30]。2012年に持分法適用関連会社となった電通グループは2020年代を通じて筆頭株主の立場を維持し、株主構成は比較的安定した状態が続いた。畑社長体制のFY15期売上412.7億円から、FY19期売上609.8億円までの4年間で売上は約48%伸長し、田中社長時代の連続増収増益が継続した。
コロナ禍の業績低迷と食べログ訴訟リスクの顕在化
FY20期(2021年3月期)はコロナ禍でレストラン業界の需要が縮小したため、食べログ事業の広告収入が直撃を受け、売上510.8億円・営業利益182.9億円とFY19期売上609.8億円から約16%減収となった。FY21期売上517.2億円・営業利益191.5億円と回復は緩やかで、コロナ禍前のFY19期売上609.8億円水準を取り戻すのに3年を要した。FY22期売上608.2億円・営業利益239.5億円、FY23期売上669.3億円・営業利益258.2億円と、需要正常化期に入って業績は回復軌道に乗った。
この期間中、食べログのレストラン店舗評価アルゴリズムを巡って、複数の飲食店からの訴訟が継続的に提起された。2022年6月の韓流レストラン店舗による訴訟(東京地裁判決でカカクコム敗訴、食べログのアルゴリズム変更による評点減点が独占禁止法違反とされた)は、外食業界紙やネット業界紙の主要トピックとなった[31]。プラットフォーム事業者としての評価アルゴリズムの透明性と公平性が、社会的な議論の対象となった時期である。
2024年・食べログの生みの親が社長登板、求人ボックス加えた3本柱へ
2024年4月、畑彰之介氏は8年の社長在任を終え、第5代社長として村上敦浩氏(1974年生、慶大経済卒・アクセンチュア→2004年カカクコム入社)が就任した[32][33]。村上氏は2005年に食べログを立ち上げた中心人物で、主力サービスの設計者がCEOに登板した形である[34]。2024年2月の日経記事は、カカクコム社長に49歳の村上敦浩氏 副社長から昇格と速報し、食べログを2005年に立ち上げ主力サービスに育てた当事者として、消費者と事業者をつなぐサービスの拡大を引き続き進める方針を伝えた。
村上社長の就任前後で業績は最高益を更新した。FY23期売上669.3億円・営業利益258.2億円・営業利益率38.6%、FY24期売上784.3億円・営業利益293.0億円・営業利益率37.4%・当期純利益200.3億円と過去最高益となった。事業セグメントはFY23期から価格.com事業・食べログ事業・求人ボックス事業・インキュベーション事業の4区分に再編され、FY24期の各セグメント利益(食べログ181億円・価格.com117億円・求人ボックス43億円・インキュベーション19億円)から、食べログが最大の利益源として確立されている[35][36]。
求人ボックス事業の伸びが、食べログへの収益集中を和らげている。求人横断検索サービス「求人ボックス」は、Indeed・dodaなどの求人プラットフォームに対抗してユーザー基盤を広げ、FY23期売上93.5億円・利益46億円からFY24期売上133.6億円・利益43億円へと、売上を約43%伸ばした[37][38]。1997年に槙野光昭氏が在学中に立ち上げた価格比較サイトから始まったカカクコムは、創業者の早期売却(2001年に約25億円でICPに売却)、第2代穐田誉輝氏の上場準備、第3代田中実氏の10年連続増収増益、第4代畑彰之介氏のコロナ禍を挟む8年を経て、食べログの生みの親である村上社長の下で、食べログ・価格.com・求人ボックスの3本柱に多角化した売上784億円規模・営業利益率37%超の収益体質に至った。