MCJが1998年から2012年までに解いていたのは、在庫を持たない売り方の効きが、規模の小ささでは出ないという問題である。受注生産は注文を受けてから部材を買うため、売れ残りを抱えない。ただし部材の値段は買う量で決まるから、年商125億円の組立会社が単独で交渉する限り、原価で大手に並ぶことはできない。2005年からの連続買収は、この一点へ向かっていた。パーツ卸のシネックス、液晶ディスプレイのiiyama、店舗を持つアロシステム。買った先はばらばらに見えて、いずれも仕入れるか売るかの量を増やす装置だった。1,230億円という購買力を掲げたPC・JAPAN共同機構は、その考え方をグループの外へ広げた枠組みである。
代金は四年後に請求された。2009年3月期、MCJは過去に買った子会社ののれんを約38億円減損し、上場後初の最終赤字36億9,400万円を計上する。ネットブックが単価を押し下げ、取引先の九十九電機が破綻し、買収時に置いた収益の見込みが立たなくなった。ここで会社が採ったのは、買った会社を売り直すことではなく、内側へ寄せることだった。マウスコンピューターがiiyamaを吸収して製造の大半を外注から内製へ戻し、投資事業とSNSと外国為替証拠金取引からは撤退する。規模ではなく収益性へ、と方針を言い換えたとき、抱え込む対象はパソコンとモニタに絞り込まれていた。買って広げた四年と、撤退で絞った二年は、量を自前で持つという同じ一つの判断の表と裏である。
株式会社MCJの出発点は、1998年8月にマウスコンピュータージャパン株式会社の製造部門と卸部門を切り離して設けられた有限会社エムシージェイである。資本金は300万円、置かれたのは埼玉県春日部市柏壁東の一角であった。2000年9月に株式会社へ組織を改め、翌2001年4月には親会社にあたるマウスコンピュータージャパンと合併比率1対1で合併し、製造と販売を一つの器に戻した。2003年11月に商号を株式会社MCJへ変更し、2004年6月に東京証券取引所マザーズへ上場する。上場から半年後の資本金は7億4,400万円、従業員は社員57名・アルバイト83名・派遣社員10名の合計150名にすぎなかった。
この会社の売り方は、注文を受けてから部材を発注する受注生産に置かれていた。顧客の注文に応じて国内外のメーカーへパソコン関連部品を発注し、製造委託先と自社工場で組み立てて出荷する。順序をこう決めれば、部材を先に仕入れて在庫として抱え込む必要がない。2004年9月中間期の固定資産は7,500万円にとどまり、総資産38億8,500万円の2%に満たなかった。設備投資を保有しない身軽な事業の形は、上場を挟んでも崩されなかった。同中間期の売上高は前年同期比39.1%増の51億9,200万円、営業利益は3億5,600万円で、営業利益率は6.9%へ上がった。パーツの価格下落と販売量の拡大によって粗利率が上向いたことが、この改善を支えている。
上場の年度を、会社は急拡大への準備期と定めた。最先端の製品モデル以外は製造を基本的に外注へ出し、修理を担うリペアセンターと問い合わせを受けるサポートセンターの体制をおよそ二倍へ広げた。販売・購買・生産・納品・サポートを貫く統合システムを刷新し、伝票の滞留時間を排除して納期短縮と在庫回転率の向上を図る計画も同時に置いた。売り先は個人向けの通販とインターネットだけではない。2004年9月中間期の売上構成は、コンシューマーチャネルが42.0%、法人向けのコーポレートチャネルが19.7%、家電量販店などのビジネスパートナーが37.5%であった。ヨドバシカメラとギガスケーズデンキにはノートパソコンを供給していた。
2005年4月、MCJはパソコンおよびパソコン関連製品のマルチディストリビュータである株式会社シネックスの株式を取得した。シネックスは米Synnex Corporationの日本法人として設立された卸で、2006年3月期の単体売上は233億円、経常利益は3億4,600万円を計画していた。同年11月にはシネックスがハードディスク販売のフリーク株式会社と株式交換の契約を結び、年商114億円の取扱いが加わる。12月にはパソコン関連書籍を出す株式会社秀和システムを、翌2006年1月にはコールセンターの株式会社ウェルコムを傘下へ入れた。買い集めた先は出版もあれば電話対応もあり、業種として揃ってはいない。受注生産の会社にとって、部材をその都度買う立場では仕入れ単価が量で決まることが弱みだった。
買い集めの狙いは、グループの外側にも広げられた。2005年11月、MCJは共同購買・共同生産・共同物流・共同開発を担う有限責任事業組合として「PC・JAPAN共同機構」を主幹事として構築し、シネックスの在庫管理システムを介して部材の入札と購買を集約した。同月末には、年商550億円のアロシステム株式会社へ19.9%を出資し、この機構へ参画させている。会社が示した購買力と販売力の規模は1,230億円であった。もっとも、卸を抱え込めば採算の姿は変わる。2005年9月中間期の連結売上高は前年同期比261.4%の135億7,500万円へ伸びた一方、売上総利益率は16.9%から12.2%へ低下した。円安による原材料価格の上昇、原油高に伴う仕入運賃の上昇、そして卸売業の粗利率の低さが重なった。
2006年1月、MCJは株式会社イーヤマ販売の株式を取得した。翌2月にイーヤマ販売が株式会社イーヤマから営業を譲り受け、iiyama Benelux B.V.の株式を取得したうえで株式会社iiyamaへ商号を変える。ドイツ・フランス・イギリス・ポーランドの販売会社が同時に傘下へ入り、液晶ディスプレイの製造と欧州の販路が加わった。同年10月1日、MCJは会社分割によってパソコン事業を新設の株式会社マウスコンピューターへ承継させ、自らは純粋持株会社となる。経営管理とリスクマネジメントに特化し、事業会社を業務執行へ専念させることが分割の目的とされた。2007年5月には共同機構へ参画させていたアロシステムを子会社とし、パソコン工房・Faith・TWOTOPの店舗網を手中に収めた。
買収の積み上げは売上に直ちに表れた。連結決算を作る前の2005年3月期の売上高は単体で107億円、連結初年度の2006年3月期は356億円、2007年3月期は611億円、そして2008年3月期は1,050億円に達した。2008年3月期のパソコン関連事業だけで売上高は1,031億2,300万円、前期比85.4%増、営業利益は26億500万円で同134.3%増となった。Windows Vista搭載機への買い替えとWindows XP搭載機の駆け込み需要を両取りし、ゲーム用途に特化したモデルを含む高価格帯の出荷が増えて製品平均単価が上がったことが押し上げた。グループ連結売上1,000億円超という目標は2005年11月の決算説明会で既に掲げられており、達成までに二年半を要していない。
翌期、会社は減収へ転じた。2009年3月期の連結売上高は944億2,700万円と前期から10.1%減り、営業利益は11億3,700万円で59.7%減となる。インターネットとメールに用途を絞ったネットブックが人気を集めて平均販売価格が大きく下がり、取引先の九十九電機株式会社が民事再生手続開始を申し立てたことで貸倒引当金の繰入も生じた。さらに、過去に買収した一部の子会社で当初見込んだ収益が得られなくなったため、事業計画を見直したうえでのれんの減損損失と償却額をおよそ38億円計上した。当期純損失は36億9,400万円、上場後初の最終赤字であった。規模を買った代金は、四年を経て帳簿の上で払い直された。
赤字の年度に、会社は買い集めた事業の整理に着手した。2008年5月にシネックスがフリークを吸収し、同年7月には株式会社iiyamaの国内産業用モニタ事業を東京特殊電線株式会社へ譲渡する。同年10月には株式会社マウスコンピューターが株式会社iiyamaを吸収合併し、パソコン製造の大半を外注から内製へ移した。2009年3月には投資部門の株式会社MCJパートナーズを合併して投資事業を縮め、FXトレード株式会社とカフェスタ株式会社を手放してソーシャルネットワーキングサービスと外国為替証拠金取引から退いた。方針は規模ではなく収益性に置き直された。2011年3月期の営業利益は27億8,800万円と前期の二倍に戻り、2012年3月期は売上高802億3,800万円・営業利益23億7,300万円で足踏みとなる。
2013年以降のMCJは、売る台数ではなく一台あたりの値段を動かす会社になった。パソコン市場そのものはスマートフォンとタブレット端末にシェアを侵食されて縮小し、2018年3月期の国内出荷台数は前年同期比3%減である。そこで投じられたのがテレビCMと交通広告だった。無名の安いパソコンは値段でしか選ばれないが、名の通ったブランドなら用途で選ばれる。クリエイター向けのDAIV、ゲーム向けのG-Tuneという括りは、その用途を先に名指しする仕掛けであり、広告費は単価を上げるための原価として扱われた。2017年3月期の営業利益74億6,300万円は、全国規模の広告を打ち始めた最初の年の数字である。
同じ期間に、利益の使い道も数字で縛られた。2016年5月の中期経営計画は営業利益率5%程度・ROIC10%以上を最重要の指標に据え、単なる規模追求をせず、本業とのシナジーが見込める分野へM&Aを絞ると明記する。2009年に減損で払った代金が、買収の可否を判定する式へ置き換えられたとみてよい。2020年3月期の営業利益率8.9%・ROIC23.3%はいずれも目標を大きく超え、その年にWindows 7のサポート終了と感染症下の巣ごもり需要が重なった。台数を追わず利益の取れる区画へ営業を寄せるという選択が、最も需要の厚い年に最大の差を生んだ。市場が伸びる年に台数を捨てられたのは、捨ててよい根拠が指標として先に置かれていたからである。
2013年3月期の営業利益は15億2,400万円で、前期の23億7,300万円をさらに下回った。スマートフォンとタブレット端末が普及し、パソコンの需要そのものが相対的に低下していたためである。続く2014年3月期、会社はマイクロソフトのWindows XPのサポート終了に伴う買い替えと、消費税率引き上げ前の駆け込みという二つの需要を取りに行く。国内のパソコン出荷台数は前期比8.6%増、出荷金額は同16.5%増となり、MCJの売上高は1,040億300万円、営業利益は40億6,100万円へ跳ね上がった。営業利益・経常利益・当期純利益はいずれも過去最高となった。前期に販売費及び一般管理費を抑え、利益率の高い高価格帯製品の販売を増やしていたことも効いた。
同じ年度に、会社はパソコンの外へも足を掛けた。2013年8月、複合カフェ「アプレシオ」を全国展開する株式会社アイエスコーポレーションの株式を取得し、第3四半期から連結へ組み入れる。翌2014年1月に商号を株式会社aprecioへ改めた。パソコン市場の成熟化は避けられないため、持続的な利益成長を目指すうえでM&Aによる新規事業分野の獲得を有効な選択肢の一つと考えた、というのが会社の説明であった。同時に、グループ横断で事業と機能の最適配置を図る構造改革も進められた。aprecioはのちに総合エンターテインメント事業として括られ、パソコン関連事業と並ぶもう一方の報告セグメントになる。買収で領域を広げる手つきは、2005年からの数年と変わっていない。
2015年8月、MCJは東京証券取引所市場第二部へ市場を変えた。マザーズへ上場してから11年が過ぎていた。同年12月にはパソコン関連書籍の株式会社秀和システムの株式を売却して連結から外し、翌2016年4月には子会社のティアクラッセ株式会社も手放す。2017年3月期の報告セグメントは、パソコン関連事業と総合エンターテインメント事業の二つに絞られた。連結子会社は当社を含めて13社となり、買い集めた時代に広げた領域のうち、パソコンと直接つながらないものが順に外れた。ティアクラッセを傘下へ入れたのは2015年2月であり、ICT関連事業として立てたこの区分は一年余りで整理されている。手放す判断は、買う判断と同じ速さで下された。
2017年3月期から、会社は「mouse」ブランドの認知度向上とマーケットシェアの拡大を狙い、テレビCMと交通広告を中心とするマスメディア向けの広告宣伝を継続的に打ち始めた。売る機種も入れ替えている。クリエイター向けの「DAIV」、ゲーム向けの「G-Tune」といった用途を絞った高価格帯の製品が伸び、パソコン関連事業の売上高は1,052億9,000万円、営業利益は73億9,100万円となった。連結の売上高1,087億2,700万円、営業利益74億6,300万円はいずれも過去最高であった。翌2018年3月期も全国テレビCMを含む広告宣伝を続け、計画以上に投じた広告宣伝費とM&Aに係る一時的費用を吸収して売上高1,245億4,400万円、営業利益85億400万円と2期連続で最高を更新した。
利益のもう一本は欧州にあった。「iiyama」ブランドによるモニタ販売では、タッチパネルモニタと大型ディスプレイが安定して伸び、2017年3月期には汎用モニタも加わって売上高・営業利益ともに大幅に増えた。2018年3月期には汎用に加えてタッチパネル、デジタルサイネージを揃えた品目構成となり、欧州での販売は引き続き好調であった。国内のパソコン出荷台数が2018年3月期に前年同期比3%減と縮小するなかで、欧州の販売は利益率を保った。2006年にイーヤマ販売を取得したときに付いてきた四つの海外販売会社は、10年を経て収益源の一本になっていた。国内で単価の下落に耐えながら、欧州では品目を替えて利幅を保つ。二つの市場で別の戦い方を採れたことが、この時期の利益の厚みを作った。
2018年に入ると、会社は再び買い手に回った。1月にシンガポールのR-Logic International Pte Ltdの株式を取得し、中国・インドネシア・インド・マレーシアに置かれた海外子会社六社を傘下へ入れる。6月には株式会社MIDを設立し、7月には子会社の株式会社ユニットコムが株式会社アークの株式を取得した。MIDが担ったのはホテルの運営と「MIRA fitness」ブランドによる24時間フィットネスクラブであり、総合エンターテインメント事業の側に置かれた。連結従業員数は2017年3月期の1,148名から2018年3月期には2,020名へ増えている。パソコンを組む会社としては、抱える人の数がこの一年で倍近くになった。
2019年10月、台風19号により外部委託先の施設が浸水し、生産能力の一部に影響が出た。会社は代替生産施設を速やかに立ち上げ、生産への影響を最低限に抑えた。受注生産は注文を受けてから組み立てる順序であるから、組み立てる場所が止まれば受注そのものが行き場を失う。台風19号による影響は、2019年10月15日と11月26日の二度にわたって開示された。同じ期の後半には、新型コロナウイルス感染症の発生に伴う調達への影響も一部で生じている。この期にはパソコン用CPUの供給に関する懸念も継続していた。パソコンの組み立てを外へ出したことの裏側が、15年を経てここで顕在化した。
2020年1月のWindows 7のサポート終了で市場全体が動き、2020年3月期のパソコン出荷台数は前年同期比28.1%増、出荷金額は同26.9%増となった。この局面で会社が選んだのは、市場の需給を見て台数ではなく利益の取れるセグメントに注力する営業であった。第4四半期に入って買い替え需要が一段落し、感染症の拡大が事業環境を悪化させると、今度は法人のリモートワーク需要と個人の巣ごもり消費需要へ対応製品を投入し、広告宣伝を迅速に強めている。市場全体が前年割れで推移するなかでMCJは出荷台数を大きく伸ばし、売上高1,537億3,400万円、営業利益137億600万円で4期連続の過去最高を記録した。
伸びた利益をどう配るかについて、会社は数字で枠を定めていた。2016年5月に公表した2017年度からの中期経営計画では、営業利益率5%程度・ROIC10%以上・ROE10%以上・配当性向20%以上を最重要の経営管理指標に据え、単なる規模追求をせず、利益を伴う成長と本業とのシナジーが見込める分野へM&Aを絞ると定めている。2020年3月期にはDOEを加えた五指標へ広げ、目標も営業利益率6〜7%程度、ROICとROEは12%以上、配当性向30%以上へ引き上げられた。同期の実績は営業利益率8.9%、ROIC23.3%、ROE18.4%、配当性向30.6%、DOE5.6%で、すべてが目標を上回った。自己資本比率は56.1%、借入金は109億2,600万円まで減っている。
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|---|---|---|---|---|
| 1998〜2012年買収による垂直統合 | エムシージェイを設立 | ★★ | ||
| エムシージェイに組織変更 | ★ | |||
| マウスコンピュータージャパンと1:1で合併 | ★★ | |||
| MCJに商号変更 | ★ | |||
| 東京証券取引所マザーズ上場 | ★ | |||
| シネックスの株式取得 | ★ | |||
| ウェルコムとイーヤマ販売の株式取得 | ★★ | |||
| iiyama Benelux B.V.の株式取得 | ★ | |||
| 浅貝武司 | 会社分割による純粋持株会社へ移行 | ★★ | ||
| 浅貝武司 | アロシステムの株式取得 | ★ | ||
| 髙島勇二 | マウスコンピューターがiiyamaと合併 | ★ | ||
| 髙島勇二 | ユニットコムがグッドウィルの株式を取得 | ★ | ||
| 2013〜2020年ゲーミング・クリエイターPC事業の拡張とコロナ禍の需要急増 | 髙島勇二 | エムヴィケーとユニティが合併しアユートに商号変更 | ★ | |
| 髙島勇二 | アイエスコーポレーションの株式取得 | ★ | ||
| 髙島勇二 | ユニットコムがコムコーポレーションの株式を取得 | ★ | ||
| 髙島勇二 | 東京証券取引所市場第二部に指定替え | ★ | ||
| 髙島勇二 | 秀和システムの株式売却 | ★ | ||
| 安井元康 | R-Logic International Pte Ltdの株式取得 | ★ | ||
| 安井元康 | MIDを設立 | ★ | ||
| 安井元康 | ユニットコムがアークの株式を取得 | ★ | ||
| 安井元康 | コムコーポレーションの株式売却 | ★ | ||
| 2021〜2026年Bain Capital MBOによる東証スタンダード市場からの撤退 | 安井元康 | スタンダード市場へ移行 | ★ | |
| 安井元康 | 創業会長が主導した非公開化と、上場企業としての立場の返上 2026年2月、パソコンの"マウスコンピューター"などを擁するMCJが、創業会長で筆頭株主の髙島勇二氏と米ベインキャピタルが組むMBOによって株式を非公開化すると発表した経営判断。1株2,200円のTOBは応募が買付予定数の下限を上回って成立し、株式併合を経て、MCJは2026年6月16日に東証スタンダード市場を上場廃止した。 詳細を読む | ★★★ |
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事実根拠:出所(MCJ)