歴史概要 — 現在に至るあゆみ 主要な意思決定と帰結のまとめ
創業1891年10月、近代日本でようやく家庭用洗浄品の市場が立ち上がる中、初代小林富次郎が東京・神田柳原河岸で小林富次郎商店を開き、石鹸と燐寸の原料を扱う個人商店として出発した。1896年7月に売り出した粉ハミガキ「獅子印ライオン歯磨」が評判を取り、強い動物の名がそのまま商品名から社名・ブランドへ広がった。家庭の日用品は変わりが遅く、客は同じ品を世代をまたいで買う。だから製品への信用を長い時間をかけて積み、それを次の商品へ移していく商いを、創業期に確立した。
決断創業家の小林家は、口腔ケアと家庭用洗剤を別の法人に分けて育てた。1918年に株式会社小林商店、翌1919年にライオン石鹼を設け、後のライオン歯磨とライオン油脂が60年余り別会社として並び立った。変化の緩い市場では、研究や販売網がいくらか重なっても各社が独立して回せた。だが花王やP&Gとの国内競争が激しくなると、その重複が採算上の負担に変わった。1980年1月、両社は対等合併してライオン株式会社となり、口腔ケア・身体洗浄・洗剤を一社で束ねる現在の収益構造へ移った。
歴史詳細 - 3つの時代区分で読み解く
1891年〜1979年 小林富次郎商店からライオン歯磨・ライオン油脂の二社並立体制
創業者・小林富次郎による石鹸製造業の開始
1891年10月、初代小林富次郎が東京・神田柳原河岸の店舗(小林富次郎商店)にて、石鹸・燐寸(マッチ)の原料と石鹸の製造販売を開始した[1][2][3]。明治期の日本で勃興期にあった近代的家庭用洗浄用品市場に、創業者・小林富次郎が個人商店として参入したのが、現ライオン株式会社の創業である。1896年7月、初めて良質粉ハミガキの製造を開始し、これを「獅子印ライオン歯磨」と名づけた[4]。「ライオン」のブランドはこの粉ハミガキから始まり、強くて頼もしいライオンのイメージを商品名・社名に冠する戦略は、創業以来130年余にわたって維持された[6]。1910年12月、合資会社ライオン石鹼工場を設立し、石鹸事業の法人化を行った[5]。
1918年9月、小林富次郎商店を改組して株式会社小林商店を設立した。これが後のライオン歯磨株式会社の母体となる[7]。1919年8月、合資会社ライオン石鹼工場を改組してライオン石鹼株式会社を設立。これが後のライオン油脂株式会社の母体である[8]。創業者・小林富次郎の事業のうち、歯磨(口腔ケア)事業と石鹸(家庭用洗剤)事業の2系列が、別法人として並立する体制が大正初期に確立された[9]。1936年4月、ライオン石鹼の平井工場(旧東京工場)が竣工[10]。1940年9月、ライオン石鹼株式会社をライオン油脂株式会社と商号変更し、戦時下の油脂統制経済への対応として社名を改めた[11]。
戦後復興期の上場と工場網拡張
1949年2月、株式会社小林商店をライオン歯磨株式会社と商号変更[12]。同年5月、東京証券取引所に上場した[13]。戦後復興期の証券取引所再開直後の上場で、戦前から続く老舗ブランドが公開市場への参加を果たした。1961年6月、ライオン不動産株式会社(現ライオンエキスパートビジネス)設立。1963年11月、ライオンサービス株式会社(のちのライオン流通サービス)設立、同月、アーマー社等と共同出資でライオン・アーマー株式会社(現ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ)を設立。1960年11月、リード石鹼株式会社(1967年7月ライオン販送に改称、のちのライオン流通サービス)設立。1963年11月、東京証券取引所市場に上場(ライオン油脂側)[14]。1966年5月、大阪証券取引所市場第一部に上場(2007年12月上場廃止)[15]。
1964年9月の小田原工場竣工、1964年11月の川崎工場竣工、1967年12月のサハ社と共同出資による泰国獅王油脂有限公司(現Lion Corporation (Thailand) Ltd.)設立[16]、1968年10月の大阪工場竣工、1969年4月の明石工場竣工と、高度成長期に日本国内の生産拠点網拡張と東南アジア進出を行った。タイ・サハグループとの合弁による現地生産・販売法人の設立は、ライオンが海外市場で先行して現地生産・販売体制を敷いた最初の事例であり、半世紀後の現在に至るタイ市場での首位ブランドの基礎を作った。1970年代を通じて、ライオン歯磨とライオン油脂の二社は、いずれも東京証券取引所上場企業として独立した経営を維持しつつ、創業家・小林家による株主構造と「ライオン」ブランドの共有を通じて緊密に連携する姿となった[17]。
1980年〜2010年 対等合併「ライオン株式会社」の発足とアジア展開
ライオン歯磨とライオン油脂の対等合併
1980年1月1日、「ライオン歯磨株式会社」と「ライオン油脂株式会社」が対等合併し、「ライオン株式会社」として発足した[18]。創業者・小林富次郎の事業が大正初期に2系列に分かれてから60年余、戦後上場企業として並立した両社が、口腔ケア・家庭用洗剤・薬品(一般用医薬品)の3軸を統合する総合家庭用品メーカーへの転換を目指して合併した[19]。合併後のライオン株式会社は、東京証券取引所市場第一部・大阪証券取引所市場第一部に上場する国内有数の家庭用品メーカーとして、花王・P&Gジャパン等と国内市場でのシェアを争う構造に移行した[20]。
1980年代から1990年代にかけて、海外展開と研究開発投資を行った。1980年代後半から1990年代の海外進出は主にアジア地域に集中し、タイ・マレーシア・韓国・中国等での合弁・現地法人設立を通じて、各国の家庭用品市場への参入を実施した。一方、医薬品事業ではブリストル・マイヤーズ社との合弁ブリストル・マイヤーズ・ライオン株式会社を運営し、解熱鎮痛薬「バファリン」を国内市場で大ヒットさせた[21]。1991年の創業100周年は、創業者の遺産である「ライオン」ブランドの100年の蓄積を確認する節目となった[22]。
2000年代の事業再編と海外M&A
2003年7月の川崎工場閉鎖、同年12月のライオンオレオケミカルからライオン化学への営業譲渡によるライオンケミカル株式会社発足と、2000年代前半は国内生産拠点の整理を実施した。2004年12月、中外製薬株式会社より一般用医薬品事業を、韓国CJ Corp.より生活化学品事業を取得(現Lion Corporation (Korea))[23]。中外製薬からの一般用医薬品事業取得は、医薬品事業の選択と集中を進める同時期の業界再編のなかで、ライオンがバファリンを含む一般用医薬品事業の主要プレイヤーとして再編する転機となった。同時期、韓国CJ Corp.の生活化学品事業取得により、韓国市場での事業基盤を本格化させた。
2006年10月の東京工場閉鎖、2007年6月のライオンエコケミカルズ有限公司マレーシア設立[24]、同年7月の米国ブリストル・マイヤーズ スクイブ社からの解熱鎮痛薬商標権取得とブリストル・マイヤーズとの合弁解消[25]、2007年12月の大阪証券取引所上場廃止と、2007年は経営構造の転換期となった[26]。「バファリン」を含む解熱鎮痛薬の商標権を完全取得したことで、医薬品事業の自立経営体制を確立。同年12月の大証上場廃止により、上場市場を東証一本に集約した。
2011年〜2025年 アジア戦略と東証プライム移行・本社移転期
中国・東南アジアの研究開発・生産網拡張
2011年6月、獅王(中国)日用科技有限公司設立(2015年8月吸収合併で消滅)[27]。2012年6月、ピアレス社と共同出資でピアレスライオン株式会社をフィリピンに設立[28]。2014年3月、アクゾノーベル社より株式を譲り受け、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社を子会社化[29]。2015年7月、ライオン株式会社化学品事業、一方社油脂工業株式会社およびライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社を統合し、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社として発足[30]。化学品事業の業界再編に主体的に参画する形で、化学品セグメントの規模拡大と業界トップ層への定着を果たした。2015年8月の獅王日用化工(青島)が獅王(中国)日用科技を吸収合併、2015年9月のSouthern Lion Sdn. Bhd.子会社化、2016年7月のピアレスライオン株式取得関連の合弁解消と、東南アジア・中国市場での合弁・子会社の整理と再編を行った[31]。
2018年6月、Wilmar International Limitedグループと共同出資でGlobal Eco Chemicals Singapore Pte. Ltd.を設立[32]。2018年12月、ライオンパッケージング株式会社の全株式をレック株式会社に譲渡。2020年1月、ライオン流通サービス株式会社を吸収合併[33]。2021年1月のGlobal Eco Chemicals合弁解消、同年4月の出光ライオンコンポジット株式譲渡と、国内外の合弁・子会社の整理が継続した。連結業績はFY12(2012年12月期)連結売上3,352億円・経常利益86億円・純利益42億円から[34]、FY17(2017年12月期)売上4,105億円・営業利益272億円・純利益198億円、FY18(2018年12月期)売上4,189億円・営業利益342億円・純利益248億円へと拡大した[35]。IFRS適用期に入ったFY14(2014年12月期)以降は連結営業利益の指標で業界比較が可能となり、家庭用品メーカーとしての高採算化が進んだ。
コロナ特需と本社蔵前移転、業績の周期的変動
2020年のコロナ禍は、家庭用衛生用品(ハンドソープ・ハンドサニタイザー)需要を急拡大させた。FY20(2020年12月期)連結売上3,553億円・営業利益440億円・純利益298億円と、過去最高の営業利益を記録。営業利益率は12.4%へと跳ね上がった[36]。だがコロナ収束局面のFY21(2021年12月期)営業利益311億円・FY22(2022年12月期)288億円・FY23(2023年12月期)205億円と、コロナ特需消失と原材料価格上昇(為替円安・原油高)の二重圧力により、営業利益は3期連続で減益となった[37]。営業利益率はFY20の12.4%からFY23の5.1%まで急落し、コロナ特需が一過性であったことが顕在化した。
2022年4月、東京証券取引所の市場区分見直しにより市場第一部からプライム市場へ移行[38]。2022年1月の株式会社休日ハック子会社化、2022年6月のKallol Limitedとの合弁会社Lion Kallol Limited設立(バングラデシュ)[39]、2023年1月の東京都台東区蔵前への本社移転[40]、2023年3月のMerap Lion Holding Corporation株式取得・持分法適用関連会社化(ベトナム市場進出)[41]、2023年5月の研究開発子会社・獅王(上海)創新科技有限公司設立[42]、2024年2月のWilmar Internationalグループ子会社との合弁による益海嘉里獅王(上海)清潔科技有限公司設立[43]と、新本社(蔵前)への移転と並行してアジア市場への研究開発・販売拠点拡張を継続している。
2025年7月のMerap Lion Holding完全子会社化(ベトナム)[47]、同年12月の株式会社ジャパンリテールイノベーション全株式の資生堂への譲渡[48]、2026年1月のPNB Consolidated Pty Ltd全株式取得・完全子会社化(オーストラリア)[49]、同年2月のLION CORPORATION INDIA PRIVATE LIMITED設立[50]と、ベトナム・オーストラリア・インドの3市場への本格進出を相次いで実施した。FY25(2025年12月期)連結売上4,221億円・営業利益364億円・経常利益365億円・純利益276億円と、コロナ後の業績回復軌道に乗っている[46]。竹森征之社長(2023年3月就任、ライオン入社の生え抜き)体制のもと[44][45]、口腔ケア・身体洗浄・家庭用洗剤の3コア事業の収益力強化と、ベトナム・インドの新興国市場への展開、化学品事業のグローバル統合の3軸で経営を進めている。創業から135年の歴史を持つ同社の次代の経営課題は[51]、家庭用品市場の国内成熟化を受けた海外売上比率の継続的引き上げ、創業家・小林家の影響力低下後の機関投資家対応、そして気候変動・脱プラスチック時代の素材開発戦略の3点に集約される。