「量を追わない経営」への転換——ブランドの選択と集中

非注力ブランドの整理から始まった路線転換を、竹森征之社長はどう体系化したか

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時期 2024年2月
意思決定者 竹森征之・掬川正純前社長(2018年のバルサン譲渡など非注力ブランド整理に着手) ライオン 代表取締役社長執行役員
論点 ブランドポートフォリオの選択と集中
概要
2018年、掬川正純氏の社長在任中に手がけた殺虫剤ブランド「バルサン」の譲渡に始まる非注力ブランドの整理を、2023年就任の竹森征之社長が「量を追う発想と決別する」経営として体系化した路線転換。2024年にドリンク剤「グロンサン」「グロモント」・外用消炎鎮痛剤「ハリックス」を譲渡し、一般用消費財のSKUを2027年度までに3割削減する方針を掲げた。
背景
洗剤・柔軟剤などのホームケア事業は装置産業としての性格が強く、大量生産・大量消費で「量」を追う戦略が長年の基本線であった。だが人口減少と原材料高でこの戦略は行き詰まり、連結営業利益は2020年12月期の441億円から2023年12月期の205億円へ落ち込んでいた。
内容
2024年2月14日、グロンサン・グロモントをレックへ、ハリックスを帝国製薬へ譲渡すると発表し、約900あったSKUを2027年度までに3割削減する方針を示した。柔軟剤「ソフラン エアリス」も発売から2年で撤退させ、クリニカ・システマなど高価格帯ブランドへ経営資源を集中させた。
含意
1SKU当たりの売上・利益が改善し、2025年12月期の営業利益はコロナ前の2018年12月期水準を上回った。一方で、少子高齢化が進む国内市場で高価格帯ブランドへの集中だけで成長を続けられるかは、なお開かれた課題として残る。
筆者の見解

二代の社長にまたがる一貫性と、次の課題

この判断の背骨にあるのは、掬川正純氏の代に個別の事業整理として始まった動きを、竹森征之氏が「量を追わない」という一つの言葉に集約し、経営全体の物差しへ変えていった過程とみることができる。バルサンの譲渡は殺虫剤という周辺分野からの撤退にとどまっていたが、グロンサンやハリックスの譲渡とSKU3割削減は、洗剤・柔軟剤・オーラルケアという主力に近い分野そのものの組み替えに踏み込んでおり、対象の広がりは当初の整理とは明らかに異なっている。

もっとも、量を追わない経営が最終的にどこへ向かうかは、なお開かれた問いである。1SKU当たりの収益性が上がり、業績がコロナ前の水準を取り戻したことは、選択と集中の成果として素直に評価できる。ただし少子高齢化で市場全体が縮む国内で、高価格帯ブランドへの集中だけで成長を続けられるかは、Vision2030 2nd STAGEが掲げる「収益力の強靭化」の先で問われるとみられる。

Yutaka Sugiura, 2026年7月

背景

装置産業としてのホームケア事業と「量」の限界

ライオンの洗剤・柔軟剤などホームケア事業は、大規模な工場設備を抱えて大量に生産・販売するほど利益が上がる装置産業としての性格が強く、同社は長年、競合とシェアを奪い合う「量」の追求を経営の基本線に据えてきた。だが人口減少が進む国内市場では、大量生産・大量消費を前提とした戦略の持続力に陰りが生じつつあった[1]

実際、2020年12月期に441億円あった連結営業利益は、2022年12月期に288億円、2023年12月期には205億円へと連続して落ち込み、量を追う経営がそのまま収益に結びつかなくなっている実態を映し出していた。原材料高や新製品の不振も重なり、事業の立て直しは待ったなしの課題になっていた[2]

掬川正純社長の代に始まった非注力ブランドの整理

掬川正純氏が社長に就任する直前の2018年、ライオンは新しい経営ビジョン「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」を掲げ、中期経営計画のもとで事業の再構築を進めていた。その流れのなかで同年8月3日、殺虫剤ブランド「バルサン」と子会社ライオンパッケージングの全株式をレックへ譲渡することを取締役会で決議し、殺虫剤事業から撤退した[3]

掬川氏自身は、就任直後のインタビューでは意思決定の速さと権限委譲の必要性を語るにとどまっていたが、2022年12月期に原材料高で事業利益が悪化すると、「ポートフォリオの変化を一段と加速させる」と踏み込んだ発言に転じていた。非注力ブランドの整理は、この時点で既に次の社長へ引き継がれる路線として輪郭を持ち始めていた[4][5]

決断

竹森征之社長への交代と路線の引き継ぎ

2023年3月、掬川正純氏に代わって社長に就いたのは、取締役を経ずに代表へ抜擢された竹森征之氏であった。洗剤や柔軟剤を扱うファブリックケア部門でのキャリアが長く、ブランドマネジャーとして商品開発からマーケティングまでを担い複数のブランドを育ててきた経験が、その後の路線に色濃く表れることになる[6]

就任から1年足らずの2024年2月14日、ライオンはドリンク剤「グロンサン」「グロモント」をレックへ、外用消炎鎮痛剤「ハリックス」を帝国製薬へそれぞれ譲渡すると発表した。同社は経営基盤の変革に向けた事業構成の見直しの一環としてこの譲渡を進め、掬川氏の代から続いていた非注力ブランドの整理を、竹森氏が明確な方針として引き継いだ[7]

SKU3割削減と高価格帯ブランドへの集中

同時に竹森氏は、約900あった一般用消費財のSKU(商品アイテム数)を2027年度までに3割削減する方針を打ち出した。2023年4月に発売した柔軟剤「ソフラン エアリス」も、量を取るマーケティングを施したにもかかわらずブランドとして育たなかったとして、わずか2年で販売を終えている。目先の売上規模より、ブランドとして育つかどうかを選別の基準に据えた変化であった[8][9]

竹森氏は「量を追う発想と決別し、『差別化された価値』の提供で戦う」と明言し、すべての消費者に向けた商品ではなく、一部の顧客に強く支持される商品を目指す方針を鮮明にした。海外でも同じ発想を貫き、価格競争が強まる中国市場では汎用価格帯を追わず、2桁成長を続ける高価格帯の「クリニカ」「システマ」の拡大に注力するとした[10]

結果

SKU削減の効果と業績の回復

SKU削減とブランドの選択と集中は、着手から1年半ほどで数字にも表れ始めた。竹森氏によれば、1SKU当たりの通期売上高は前年比で約1割、利益は約3割向上する見通しとなり、物流費や倉庫費用などの管理コストも圧縮できた。2025年12月期上期には、前年同期比で6億円の改善効果が確認されている[11]

業績も回復軌道に乗った。2025年12月期は連結売上高4,221億円・営業利益364億円・純利益276億円となり、ホームケア需要が押し上げられていたコロナ前の2018年12月期営業利益342億円を上回る水準まで戻した。2025年2月には新たな中期経営計画「Vision2030 2nd STAGE」を策定し、「収益力の強靭化」を掲げて国内事業の収益構造改革と海外事業の成長加速を続ける方針を示している[12][13]

出典・参考