【筆者所感】 しずおかフィナンシャルグループは2022年10月に静岡銀行を完全子会社化して発足した持株会社で、母体の静岡銀行は1943年3月に戦時金融統制下で静岡三十五銀行と遠州銀行が合併して誕生した。戦後は1961年10月に東京証券取引所市場第一部へ上場し、1974年に葵リースを設立してリース事業へ進出、以降も証券・キャピタル・カードなどグループ会社を順に束ねた。戦時の一県一行主義が残した地銀が、80年を経て証券・リース・不動産投資顧問を抱える連邦型グループへ組み替わった構図で、現在は貸出金約10兆円・預金約12兆円規模を抱える地銀上位行として、規模と収益力を両立している。
統合と提携を目的でなく手段に位置付ける柴田久社長の選択は、2020年4月の山梨中央銀行との「静岡・山梨アライアンス」、2022年10月の持株会社移行、2025年6月に八十二銀行を加えた「富士山・アルプスアライアンス」と形を変えて反復された。経営統合ではなく資本関係を持たない広域連携で収益効果を取るのがしずおかFGの選択で、静岡・山梨アライアンスは5年後の2025年に実績137億円を積み、目標100億円を上回った。2005年の中西勝則頭取就任から続くBPR・マーケットイン改革の延長線上にある戦略で、2025年3月期には連結純利益746億円・ROE目標8.5%を掲げる改革の到達点に立ち、金利上昇とM&Aを含む非金融成長戦略の組み合わせで次の成長曲線を描いている。
歴史概略
1943年〜2004年戦時統制で生まれた地銀の優等生ポジション
一県一行主義が残した地銀のスタートライン
1943年3月、戦時金融統制下の銀行集約政策に沿って、静岡三十五銀行と遠州銀行が合併して株式会社静岡銀行が発足した。当時の銀行行政は「一県一行主義」のもとで県内地銀を1つに集約して戦時金融を効率化する方針を取り、全国で同種の統合が進んだ。静岡銀行もその枠組みで生まれ、静岡県の地銀市場の主要プレーヤーとして戦後を迎えた。1950年代に東京店頭売買銘柄への登録を経て、1961年10月には東京証券取引所市場第一部へ上場し、地銀としての資本調達力と知名度を全国金融市場で確かなものとした。1974年には葵リース(後の静銀リース)を設立し、銀行本体の周辺業務を担うグループ会社の地ならしに着手した。
戦後の静岡銀行は県内経済の主要な資金供給者として、東海道ベルト地帯の製造業集積、県西部の自動車・楽器産業、県東部の観光・食品産業という多様な産業基盤へ根を下ろした。全国地銀のなかでも預金量・貸出金とも上位に位置し、自己資本比率の高さと高格付けに支えられた保守的な経営で知られる「優等生地銀」の地位を長く維持した。製造業集積地帯を抱える静岡県の経済構造そのものが、地銀としての資金需要と取引先ポートフォリオの幅を支え、健全性と収益性が両立しやすい土台となった。首都圏と中京圏を結ぶ東海道の大動脈上にある地理的優位も同時に効いた。
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公的資金を受けなかった財務体質の源流
戦後から2000年代初頭までの静岡銀行は、厚い自己資本と高格付けを土台に、県内中小企業融資と個人住宅ローンを主軸とする伝統的な地銀ビジネスを続けた。バブル崩壊後の不良債権処理期にも、他地銀のような経営危機に直面せず、相対的に健全な財務を維持した。他地銀のように公的資金の注入を受けず、自力で不良債権処理を完遂した数少ない地銀上位行の1つで、県内外の金融市場で高い信用力を保った。BIS規制に基づく自己資本比率も国内地銀のなかで上位を保ち、ムーディーズ・S&Pの格付けでも国内地銀屈指の評価を受け続けた。それが後のアライアンス交渉における交渉力の源泉となり、持株会社化後のガバナンス設計にも反映される原体験となった。
預貸金中心の収益モデルは低金利環境下で成長余地が限られ、リース・証券・カード等のグループ会社を抱えつつも、本体銀行へ収益が偏る構図が続いた。2000年代初頭まで静岡銀行は「地盤の良さと堅い財務」と「成長性の乏しさ」という両面の評価を抱える地銀で、次の経営改革に向けた土台が水面下で積み上がった。地銀再編の議論が全国で高まった2000年代前半、静岡銀行は財務体力の面で急な経営統合を迫られる立場になかった半面、将来の収益成長をどう描くかという課題は同業他行以上に重く、次世代の経営トップへ宿題として引き継がれた。2005年の中西勝則頭取就任と同時に、業務プロセス改革という形で解答が求められた。
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2005年〜2017年中西勝則によるBPR・マーケットイン改革と地銀経営の転換期
「マーケットに耳を傾ける」へのプロセス改革
2005年6月、中西勝則が静岡銀行第10代頭取に就任した。以後12年の在任期間で、中西は「利他の心」「マーケットイン」「BPR(業務プロセス改革)」を前面に押し出し、プロダクトアウト型の地銀経営を外向きに組み替えた。中西は「マーケットに耳を傾けることです」(タナベコンサルティング TCG REVIEW)と述べ、さらに「業務プロセスが多いほどリスクは高まるし、手間もかかります」(タナベコンサルティング TCG REVIEW)と業務簡素化を繰り返し強調した。背景には地方銀行の使命を「銀行経営と地域発展を成り立たせること」(タナベコンサルティング TCG REVIEW)に置く考えがあり、預貸金中心の成熟モデルのままでは成長が望めないという危機感を支店網と本部組織で共有した。中西頭取の12年で、組織文化そのものを外向きに組み替える作業が続いた。
中西時代の静岡銀行は、グループ会社の自立化にも力を注いだ。中西は「自立し、独自性を出すのです。同じグループだからと言って、いつまでも銀行に頼っていてはいけないのです」(銀行員ドットコム)と述べ、証券・リース・キャピタルが銀行本体に依存せず独立した収益源となる方向を示した。判断基準としては「お客様のことを理解するために必要なことは、売上ではなく、まず資金繰りです」(銀行員ドットコム)と本業の現場感覚を重ねて求めた。後のしずおかFGが掲げる「グループ会社間連携」の思想は、中西時代の自立化路線を土台に置き、2022年の持株会社移行後の連邦型運営の原型となった。静銀リースや静銀経営コンサルティングなど、県内産業とつながりの深い各社が銀行本体の顧客基盤を共有しつつ独自のサービス領域を磨く姿が、中西在任のなかで具体化した。
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- タナベコンサルティング TCG REVIEW
- 日経MM 2021/12/14
- Japan Innovation Review 2024/6/12
マイナス金利下の「控えめな計画」
2016年のマイナス金利政策導入は、静岡銀行のような預貸金中心の地銀に直接の逆風となった。2017年6月に中西から柴田久へバトンが渡る頃、地銀業界全体が収益モデルの限界に直面していた。柴田は後に当時の中計を振り返り「控えめな計画にならざるを得ませんでした」(Japan Innovation Review 2024/06/12)と本体銀行の成長余地が構造的に圧迫されていた事情を認めた。金利収入の縮小に対し、グループ会社の役務収益や投信・保険販売による収益源の多様化、非銀行領域の収益確保の重要性が高まった。経営陣は銀行単独での打開策には限界があるとの認識を共有し、アライアンスや持株会社化が現実的な解として浮上した。
2020年4月、静岡銀行は山梨中央銀行との「静岡・山梨アライアンス」を開始し、経営統合を伴わない広域連携の枠組みに踏み出した。柴田は「統合や提携は将来のビジネスモデルをどう創っていくか、そのための手段であって、目的ではありません」(日経MM 2021/12/14)と前置きし、「経営統合よりもアライアンスの方が効果の顕在化が速いです。この静岡・山梨アライアンスを日本一のアライアンスに育てたいと思っています」(日経MM 2021/12/14)と資本統合を経ずに収益効果を出す手法を選択肢に掲げた。県境を越えた地銀同士の人的交流と業務共有を通じ、独自性を保ちながら広域経済圏の資金需要と取引先基盤を共同で取り込む地銀連携モデルとして業界の注目を集め、後の富士山・アルプスアライアンスの布石となった。
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- 日経MM 2021/12/14
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2018年〜2025年持株会社移行と山梨中央・八十二銀行との広域アライアンス展開
「1+1=2ではなく3にも4にも」の連邦型グループ
2022年10月、静岡銀行は持株会社体制へ移行し、しずおかフィナンシャルグループが発足した。柴田久が初代社長、中西勝則が会長に就いた。移行目的は、銀行業以外の業務範囲を拡大しやすい持株会社の器を作り、証券・リース・不動産投資顧問・新事業分野を本体と並ぶ収益源へ育てることにあった。柴田は「グループでシナジーを発揮し、1+1=2ではなく、3にも4にもなるようにしていくのが、私の仕事」(財界オンライン 2023/02/07)とシナジー創出を自らの役割に据え、「より自立や連携を意識した動きが見られるようになりました」(Japan Innovation Review 2024/06/12)と移行後のグループ内の変化を述べた。持株会社化で静岡銀行株はしずおかFG株へ株式移転され、同年10月3日付で東京証券取引所プライム市場に新規上場し、グループとしての資本市場対話と投資家向けガバナンスも新体制のもとで組み直された。
発足初年度の2023年3月期は連結経常収益2,873億円・経常利益739億円・純利益523億円で立ち上がり、続く2024年3月期は経常利益1,022億円と1,000億円台へ乗せた。セグメント別では銀行業が経常収益2,977億円・営業利益896億円と主力だが、リース業334億円・その他706億円と非銀行領域の存在感も増している。中計目標として連結経常利益1,000億円のうち、銀行で650〜700億円、グループ会社・新事業分野で300〜350億円という内訳を掲げ、非銀行領域の収益比率を引き上げる方向を打ち出した。銀行単体の金利収益に過度に依存しない収益構造への移行を、中計という数値目標として投資家へコミットした点が、しずおかFG発足直後の重要な方針転換となった。
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- 決算説明会 FY2024
- 決算説明会 FY2025
- 財界オンライン 2023/2/7
- Japan Innovation Review 2024/6/12
- Japan Innovation Review 2024/6/19
富士山・アルプスアライアンスと非金融事業
2020年に始まった山梨中央銀行との静岡・山梨アライアンスは、5年後の2025年に実績137億円(2行合算・目標100億円)を積み上げ目標を上回った。この成果を土台に、2025年6月には八十二銀行を加えた「富士山・アルプスアライアンス」が締結され、5年間で3行合算200億円の収益効果という新目標が掲げられた。経営統合を伴わない広域連携の規模拡張で、地銀再編の新しいモデルケースとして業界内の注目を集めた。県境を越えた法人取引の紹介や市場運用の共同化、デジタル基盤の共同利用など、資本関係を持たずに業務共有を重ねる形で地銀連携の具体的な成果を示し、全国の地銀再編論議へ新しい選択肢を提示する事例となった。
同時に、SFG不動産投資顧問を中心とする非金融事業の立ち上げも進んだ。柴田は「今年度から営業を本格スタートしたのですが、反響も非常に大きく、開発案件のご相談が既にいくつも寄せられている状況で、ビジネスのボリュームは想定以上に大きくなりそう」(Japan Innovation Review 2024/06/19)と不動産投資顧問事業の立ち上がりを実感段階と報告した。さらに「地域イノベーションのエコシステムの土壌を静岡の地に作っていきたい」(Japan Innovation Review 2024/06/19)とベンチャー支援を含む非金融領域の青写真を示した。地域開発コンサルティングも含め、しずおかFGは非金融事業を預貸金モデルの成長制約を補う柱として据え直し、持株会社化で得た業務範囲の広がりを使い切る姿勢を鮮明にした。
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- 財界オンライン 2023/2/7
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- Japan Innovation Review 2024/6/19
直近の動向と展望
「金利のある世界」を前提にしたALMの組み替え
2025年3月期の連結経常収益は3,412億円、経常利益1,020億円、親会社株主帰属純利益746億円で、しずおかFG発足後3期の間に純利益は523億円から746億円へ約42%伸びた。金利上昇のもとで円貨資金利益の増加と政策投資株式の縮減に伴う売却益(年間150〜200億円規模の計画)が収益を押し上げ、銀行本体の利鞘回復と資本政策の見直しが並行して進む。2024年9月には新たなコア預金内部モデル(平均満期6.4年)を導入し、2025年5月には全国地銀が参加する「バランスシート・マネジメント・コンソーシアム」を設立してコア預金分析を精緻にする体制を整えた。金利のある世界を前提としたALM運営の高度化を、業界全体を巻き込んで進める動きは、地銀上位行としてのしずおかFGの新しい役割を示している。
2025年6月の中計見直しではROE目標を8.5%に置き、インオーガニック成長に向けたM&Aロングリストの検討着手を公表した。柴田久は「事業領域を広げるためのインオーガニックな投資に加えて、システムや人的資本への投資にもバランスよく振り向けていきたい」(決算説明会 FY2025)と、金融に偏らないM&Aを検討対象へ置く姿勢を示した。CET1比率13%を安定経営の目線とし、保有する政策投資株式の含み益を経営のバッファに位置付けつつ、その縮減も並行して進め、売却益を配当原資と成長投資原資の双方に充てる構図が固まった。資本コストを意識した資本政策の高度化と、連結経常利益1,000億円の中計目標を早期に達成した実績を踏まえた次の収益目標の設定が、しずおかFGの次の経営課題として浮上している。
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- 決算説明会 FY2025
- 決算説明会 FY2025-2Q
- 決算説明会 FY2025-3Q
- 決算説明会 FY2026-3Q
金利ボーナス剥落後の3軸成長への賭け
2026年2月、執行役員CFO梅原弘充は決算説明会で「足元の銀行セクターの株価上昇は、政策金利上昇に伴う金利ボーナスによる部分が大きく、円金利上昇の一服に伴い、その成長率は鈍化していくと考えている」(決算説明会 FY2026-3Q)と述べ、金利ボーナス剥落後の成長戦略が次の課題だと明言した。続けて「ROE10%台に到達していくためには、金利以外のインオーガニックな成長を既存の事業領域の外から取り込んでいくことが必要」(決算説明会 FY2026-3Q)と指摘し、金融以外の領域も含めたM&Aや新事業の比重を高める方針を示した。広域アライアンスや非金融事業の積み上げに加え、事業領域外からの収益源取り込みという新しい軸が、次期中計に向けた議論の中心へ据えられた。
貸出金約10兆円・預金約12兆円を抱える地銀上位行として、しずおかFGは資金利益の拡大と同時に、預金金利追随率(政策金利引上げに対して普通預金は40%程度、円貨調達コスト全体は50%程度)のコントロールを経営の重要指標に据える。配当性向50%以上への累進的引き上げ(2027年度目標)と、広域アライアンス・非金融事業・M&Aの3軸による成長という構図のもとで、戦時統制から生まれた地銀は、地銀連邦型グループとしての姿を固めつつある。1943年の一県一行主義から始まった80年余の歴史は、2022年の持株会社化で得た器を実質的な成長装置へと育て直している最中で、金利上昇と広域連携の拡張が同時に進む現在は、改革の成否が数字で検証される段階へ入った。
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- 決算説明会 FY2025-3Q
- 決算説明会 FY2026-3Q