1937年、長谷川武彦は兵庫県尼崎市で長谷川工務店を個人創業し、木造請負から事業を始めた。1950年に伊藤忠商事から受注した芦屋打出荘アパートで鉄筋コンクリート造の技術を蓄え、これが後のマンション事業の基盤となった。1968年に三井信託銀行と組んで自社マンション第1号を着工し、翌年の日商岩井との業務提携で、商社の用地情報をもとに特命で受注する営業モデルを固めた。1981年には首都圏のマンション施工シェアが約20%に達し、売上高はFY1970の110億円からFY1983の2,684億円へと約24倍に拡大する。だが市場の成熟を受けて1985年以降は1,000億円規模のホテル・リゾート投資で多角化に走り、1988年に商号を長谷工コーポレーションへ改めた。
バブル崩壊は多角化に傾いた長谷工を直撃した。有利子負債はピーク時に1兆3,000億円へ膨張し、株価は1999年に13円の史上最安値をつけた。再建を決めたのは合田耕平社長で、1996年3月期に不動産含み損を含む1,850億円の特別損失を一括計上し、翌期に黒字へ転じた。34の金融機関への債務免除と2002年の優先株発行による債務の株式化を経て、自己資本比率は2001年度のマイナス22.1%を底にプラスへ転じた。バブル期に広げたホテルや商業施設から撤退してマンション専業へ回帰し、土地を自ら仕入れてデベロッパーに持ち込み特命で受注する営業モデルを磨いた結果、特命受注比率は2003年3月期に85%へ高まった。
2014年に就任した辻範明社長のもとで、再建期に固めた特命受注モデルは、都心の用地が希少になるほど競争優位が強まる構造を見せた。用地を持ち込み設計から施工まで一貫で担えるゼネコンは事実上長谷工に限られ、2018年3月期に連結経常利益は1,005億円へ達した。マンション専業ゼネコンが経常利益1,000億円を超えたのは業界初である。辻社長は売上目標を掲げない方針を貫き、2023年3月期に連結売上高は初めて1兆円を超えた。2020年に就任した池上一夫社長はマンション専業であることが大きいと述べ、競合がマンション施工から退くほど発注が長谷工へ集まる非対称な構造を強みに、首都圏分譲マンション施工シェアは2017年に34.5%へ拡大した。
決断の理由 — クリティカルな歴史の転換点を読み解く
- Q なぜ1950年のRC造受注が長谷工の事業DNAになったのか
- A 木造請負の地方業者が全国市場へ出る手段を欠いていたからである。1950年に伊藤忠商事から鉄筋コンクリート造の芦屋打出荘アパートを請けたことで、当時扱える業者が乏しかった耐火構造の技術と設備を短期に整えた。用地と顧客を握る商社が仕事を運び、長谷工が施工で応える分業がここで成り立つ。自ら客を取りに歩かず外から持ち込まれる仕事を引き受け、競争入札の場に出ずに稼ぐという同社の原型が、この一件で定まった。後年のマンション特命受注も、この受け身の事業形が源流である。
- Q なぜ1996年3月期に1,850億円もの特別損失を一度に出したのか
- A 損失を毎年小出しにすれば信用回復が長引き、マンション販売と建築受注に響くと合田耕平社長が判断したからである。1985年以降の「脱マンション」多角化はバブル崩壊で不動産含み損1,600億円・有利子負債1兆3,000億円・株価13円を招いた。合田氏は「毎年赤字を出し続けるのは精神衛生上よくない。一回ドカンと出して翌年から黒字にした方がいい」として、1996年3月期に1,850億円の特別損失を一括計上した。先送りが常だった当時の日本企業のなかで、短期決着こそが受注産業の再建速度を決めると見た選択である。
- Q なぜ2010年代以降ストック事業と不動産へ収益源を広げたのか
- A マンション新築の特命受注一本では、バブル期の含み損で経営を危うくした記憶が消えないからである。1996年3月期の一括処理を経た長谷工は、累計施工戸数の積み上がりを管理・修繕の需要に変える構造に着目した。1978年設立の長谷工コミュニティを核に管理を広げ、2015年に総合地所などを子会社化して開発を内製化、2022年には私募REITで賃貸運用まで一気通貫を整えた。FY24には不動産・サービスの利益合計421億円が建設535億円に迫り、単一の主戦場に複数の収益柱を育てる成長モデルへ移した。
- 歴史詳細 3章・5,778字
メインコンテンツ。一次資料をベースに歴史を紐解く
- 沿革年表 66件
主要な出来事を重要度別に時系列で整理
- 長期業績 1959〜2025年(67カ年)
有価証券報告書などの公開データに基づく長期データ
- 直近の業績
業績推移と経営体制
- セグメント情報 2011〜2025年(15カ年)
各事業の売上・営業利益・利益率の推移
- 歴代社長 4名
代表取締役社長・CEO の在任期間・経歴・在任中の施策
- 取締役一覧 2010〜2025年(16カ年)
取締役の構成バランスと社外独立性
- 大株主・株主構成 1960〜2024年(65カ年)
上位10名の入れ替わりと所有者区分7区分の推移
- 組織と給料 2005〜2025年(21カ年)
連結/単体の年次変化と業界他社の平均給与比較