時期 | 内容 | 備考 |
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1999年03月 | 有限会社ディー・エヌ・エーを設立 | |
1999年06月 | 株式会社ディー・エヌ・エーを設立 | 株式会社に組織変更 |
1999年10月 | 本社を渋谷区神山町5-3に移転 | 代々木公園近く |
1999年11月 | オークションサイト「ビッターズ」を開始 | |
2000年02月 | 売上高56万円, 当期純損失▲1.7億円 | 従業員数16名 |
2000年03月 | 第三者割当増資で13億円を調達 | 住友商事など |
2000年12月 | 本社を渋谷区幡ヶ谷2-19-7に移転 | 最寄りは京王線幡ヶ谷駅 |
2001年03月 | 売上高1.7億円, 当期純損失▲10.1億円 | 従業員数50名 |
2000年03月 | 第三者割当増資で5.7億円を調達 | ソネットなど |
2002年03月 | 売上高6.1億円, 当期純損失▲8.7億円 | 従業員数62名 |
2003年03月 | 売上高9.6億円, 当期純損失▲2.7億円 | 従業員数70名 |
1999年に南場智子氏(マッキンゼー出身)は起業家に転身し、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)を設立した。 当時はインターネットバブルの渦中にあったため、DeNAは2000年3月には13億円(評価額・推定152億円)、2001年には9.1億円(評価額・推定約130億円)の調達を実施した。ダウンラウンドになった理由は、インターネットバブルの崩壊による資金調達の環境悪化によると思われる。
事業面では、ショッピングサイトが流行の兆しを見せており、南場氏もEC分野に着目。PCブラウザを介してオークションを行うための「ビッターズ」のサービスリリースを目指し、1999年11月にサービスをリリースした。
しかし、オークションの領域ではヤフージャパンが「ヤフオク」でユーザーを獲得しつつあり、ECの領域では楽天の「楽天市場」が業績を拡大したため、後発参入だったDeNAはECの領域で苦戦した。
2003年ごろのDeNAの財務状況は極めて厳しく、2003年6月には欠損補填のために資本金準備金を14億円、同年8月には資本金を9億円、合計23億円を取り崩している。それでも、インターネットバブル前夜に十分な資金を調達していたことが功を奏し、5億円が現預金として手元に残った。DeNAは無借金経営であったこともあり、インターネットバブルの崩壊という危機に直面しつつも財務的な危機は回避された。
時期 | 内容 | 備考 |
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2004年03月 | モバオクを運営開始 | ガラケー向け。利用料0円。収益源は広告 |
2004年12月 | モバオクの会員数56万名。出品数48万点 | 中心顧客は10代後半〜30代前半の女性 |
2005年01月 | KDDIと提携 | auオークションを提供 |
2004年を通じてDeNAは事業領域の経営方針を大きく転換し、モバイル向けのサービス展開に注力する方針を決めた。
2005年にDeNAは東証マザーズに株式上場を果たし、同年3月までに約32億円の資金調達に成功した。また、2006年3月には三菱UFJ銀行を割当先とする第三者割当増資を実施し、44.9億円の資金調達を実施した。
資金調達によって手元現金を手厚くする一方で、これらの調達資金を使いきれないという問題も生じた。ソーシャルゲームの原価率は高く、販管費も開発・販促といった支出はあるものの、2006年度の1年間の支出は30億円未満であった・3月における資金調達という季節性要因があるものの、DeNAの自己資本比率は2006年3月期に81%という水準に達した。
これらの資金調達によって、DeNAはインターネット企業として、開発および販促に潤沢な投資が可能な企業に変貌した。これらの資金を従業員などの採用に投資することによって、DeNAはメガベンチャーとしての道を歩み始める。2005年3月期末時点の従業員数は129名だったが、2007年3月期末には326名、2011年3月期末には1080名となった。1000名規模の大企業へと発展し、DeNAはメガベンチャーと呼ばれる存在になった。
この結果、2000年代後半のガラケーをベースとするソシャゲ市場においては、潤沢な手元資金を手にしたDeNAと、競合のグリーという2社の独壇場となった。
時期 | 内容 | 備考 |
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5月末 | 大塚剛司氏よる企画開始 | 社内では企画が理解されず |
6月頃 | ゲーム構造の設計 | 2-3週間で設計 |
7月頃 | ゲームの実装・開発 | 1ヶ月で実装 |
8月上旬 | 社内向けリリース | 社内では「つまらない」意見が大勢 |
9月末 | 怪盗ロワイヤルβ版のリリース | |
9月末 | [全社] 3Qのゲーム課金売上4.3億円 | |
10月7日 | 怪盗ロワイヤルのリリース | |
12月末 | 3Qのゲーム課金売上35.7億円 | 2Q比で+約12倍(驚異的な伸び率) |
12月末 | 4Qのゲーム課金売上100億円 | ゲーム課金のみで3ヶ月間売上100億円という驚異的な決算 |
2008年までのDeNAの収入源は、ソーシャルゲームにおけるアバター(着せ替えアイテム)と広告収入であったが、課金収入が対前年度比で低迷していた。加えて、ソーシャルゲームの競合としてグリーが台頭するなど、モバイルゲームを取り巻く競争環境が激しくなりつつあった。
そこで、DeNAは、守安功氏が中心となったモバイルゲーム事業のテコ入れを決定。従来のアバターへの課金に加えて、ゲームアイテムへの課金を重視するようになった。
この方針の元に、守安功氏によるゲーム開発の直轄プロジェクトがスタートし、2009年10月にリリースした「怪盗ロワイヤル」が大ヒットを記録した。この作品は、2005年にDeNAに新卒入社した大塚剛司氏が中心となって企画されたゲームであり、約半年間の企画・開発を経てリリースされた。
ただし、怪盗ロワイヤルの企画段階において、DeNAの社内には「面白い」という意見が出る一方で、「分からない」「つまらない」という意見も多く噴出したという。2009年8月に社内向けにリリースしたものの「分かりづらい」という意見が大勢でだったらしい。
それでも、大塚氏はゲームのリリース後にパラメータを調整すれば良いと考え、企画案の大筋を変えることなく、2009年10月に怪盗ロワイヤルをリリースした。ソーシャルゲームの特性である「ユーザー数が増えるほど面白くなる」という効果が働き、リリース直後から大ヒットとなった。
「怪盗ロワイヤル」のヒットによって、DeNAが運営するゲームプラットフォーム「モバゲータウン」へのアクセス数も増加。リリース前は170億PV/月に対して、リリース後の12月には380億PV/月、リリース翌年には700億PV/月を突破し、DeNAはゲームプラットフォームの運営者としての地位を確立した。
また、ゲームアイテムに対する課金体系を充実させたことによって、DeNAの業績にも大きく貢献した。2009年度3Q時点でゲーム内アイテム課金の売上高が35.7億円(2Q時点で同4.3億円と爆発的にに増加し、アバターへの課金売上高14.4億円を上回った。この結果、DeNAは怪盗ロワイヤルのヒットと、ゲーム内のアイテム課金によって、収益性を大幅に向上させた。
2010年10月にDeNAは、スマホ向けのゲームをグローバルで展開するため、米国カリフォルニア州に拠点をおくngmoco社を251〜342億円で買収すると発表した。
DeNAの経営陣の「グローバル化」と「スマホ対応」への意気込みは凄まじく、2010年度3Qの決算説明会の質疑応答で、経営陣は以下のように語っている。
「国内においてはスマートフォンの普及が想定以上に早く、国内外において、スマートフォン対応をスピーディーに実現することが課題であると認識しております。 2011年は当社の将来を大きく左右する年になると思いますが、課題はチャンスでもあると 考えており、既存の携帯電話からスマートフォンに事業を拡大することでグローバルに展 開できるよう、グループ一丸で取り組んでまいります。 これまでの国内の成功に固執することなく、世界で戦っていくことが大事だと考えており、当社がやれなくて誰ができるんだという気持ちで取り組んでまいります。」
DeNAにとっての狙いは、普及しつつあったスマホゲームの拡大にあった。当時、ngmoco社は2500万ユーザーを抱えるコミュニティー「plus+Network」を運営しつつ、自社でスマホ(iPhone向け)のゲームを開発しており、スマホ時代のソーシャルゲームのプラットフォーマになると見られていた。そこで、DeNAは「plus+Network」のユーザーを自社の「Mobage Global」に移管することによって、グローバルでのソーシャルゲーム市場を確保する狙いがあった。
買収に呼応して、2010年12月にDeNAは国内のモバゲーのスマホ対応を行うなど、全社的にスマホへのシフトに注力した。2010年の時点でDeNAの経営陣は、4年後の2014年にはMobageにおいて、携帯電話(ガラケー)での売上高が全体の10%程度になり、スマートフォンが大半を占めることを予想した。
ngmocoの買収によって、DeNAは2014年度における業績目標を発表。売上高約4000億円(うち国内と海外が半分ずつ)および営業利益2000億円をそれぞれ目標に据えた。
【財務戦略】
買収資金は(1)第三者割当増資による普通株式の発行で124億円(希薄化3.4%)、(2)新株予約権23億円、(3)現金109億円を組み合わせることによって、合計257億円での買収を実施。買収後の業績に連動するアーンアウト条項を設け、規定値に達した場合は追加で85億円(普通株式26億円、新株予約権10億円、現金48億円)を支払う契約を締結した。
なお、契約期限である2012年度までに、アーンアウト条項による追加取得の形跡はないことから、業績目標は未達に終わった可能性が高い。
また、買収の実行により、DeNAは2011年3月期末にはBSにおいて無形固定資産(のれん)を280億円計上したため、買収後は減損リスクを抱えることになった。なお、のれんの計上金額280億円が、発表時の買収価格257億円と比べて上振れした理由は為替変動が原因と思われる。
なお、2010年の買収時点では12年にわたる償却を予定していたが、2011年からDeNAは会計基準をIFRSに移行しており、のれん償却を回避することができるようになった(代わりに減損テストを実施)ため、買収に伴う毎期ごとのPLにおける償却コストの計上を避けることができた。
2011年にDeNAの社長に創業期からの社員であった守安功が就任し、創業者の南場智子氏は取締役会長となった。以後、守安社長と南場会長の2頭体制で、DeNAが経営された。
2011年にDeNAは球団ビジネスに参入するために、横浜ベイスターズの株式を議決権ベースで66.92%を65億円で取得した。アドバイザリー費用は約600万円で、DeNAは買収に伴って59億円の「のれん」を計上した。
買収の狙いは、DeNAという会社の知名度を全国的に向上させることにあったと思われる。買収から5年を経た2015年に南場智子会長は「日本全国に社名が知られるようになった。新入社員の両親が『その新興企業は何だ』とならず応援する機運が出てきた。人材が命の当社にとって本業に資するところがある」(2015/2/14週刊東洋経済)と述べている。
2012年に携帯ゲーム業界では、18歳未満の青少年が重課金する問題が顕在化し、ゲームのガチャを有料課金によって行うことから「コンプガチャ問題」と呼ばれた。そこで、GREE、DeNA、mixi、サイバーエージェント、ドワンゴ、NHNの6社は、コンプガチャの全廃を取り決めた。
そこで、DeNAはコンプガチャ問題への対応として、18歳未満のユーザーに関しては月額10,000円、15歳未満のユーザーに関しては月額5,000円までと、有料課金の幅を制限した。
2016年10月にDeNAは、ゲームの海外子会社ngmoco(2010年買収)の会社解散を発表した。解散の理由としては、ゲームのヒット作が出なかったことであった。
同時に、DeNAはngmocoの買収によって計上した「のれん」の減損計上について、減損損失の不認識という見解を公表した。減損チェックの対象が「ngmocoという個別企業」ではなく「ソーシャルゲームというセグメント全般」を範囲としており、ソーシャルゲーム事業は国内を中心に好調だったため、減損の計上が見送られたという。
すなわち、のれんに関して、減損テストを買収企業に対してではなく、セグメント事業に設定していたことが事の発端と言える。ただし、仮に買収企業に設定した場合、当該企業は買収当時から赤字であったことから、常に減損テストに引っ掛かるという問題もあったと推察される。
時期 | 内容 | 備考 |
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2014年10月 | MERYを約50億円で買収 | iemoの運営を引き継ぎ |
2015年04月 | DeNAパレットを発表 | 10メディアの運用を発表 |
2015年10月 | WELQの運営を開始 | 10メディア構想の1つ。医療系 |
2016年10月 | WELQに盗作・誤用の疑い | SNS経由で炎上へ |
2016年12月 | 全10サイトの公開休止 | (12月1日) |
2016年12月 | 外部の第三者委員会を設置 | (12月5日) |
2016年12月 | 経営陣による謝罪会見を実施 | (12月7日) |
2017年12月 | 3Q決算で38億円の減損 | キュレーション事業の使用価値0円へ |
2017年4月 | 第三者委員会の報告書を公表 |
2014年にDeNAはゲームに代わる新規事業として、キュレーションメディアへの参入を決定。インテリアメディアのiemoを運営するMERY(村田マリ社長)をX億円で、旅行系のメディアを運営するペロリをY億円でそれぞれ買収した。この買収により、DeNAはキュレーション事業においてZ億円の「のれん」を計上した。
キュレーションメディアの業績目標は、DeNAの守安功社長の主導によってKPIが決定された。キュレーションメディアで時価総額2000億円という目標を掲げて、KPIとしてGoogleの検索流入によるPVを据えた。
また、買収によって、村田マリ氏はDeNAの執行役員に就任し、新事業としてのキュレーションメディアの展開を担当。2015年4月に守安氏が提唱した「DeNAにより10メディアを自社展開する」ことでプラットフォームを目指すという「DeNAパレット」という構想に基づき、キュレーション事業部では、医療系の記事を扱うWELQなど、9つのキュレーションメディアをリリースした。
早期にキュレーション事業の時価総額を2000億円を達成するために、記事数を増やすために「クラウドソージング」のサービスを活用してライターを集め、記事のチェックを簡易的なサンプル調査にとどめるなど、DeNAの経営陣はリスクを許容した。DeNAの法務部は、買収時の法務DDにおいて著作権(画像の無断使用・文章の盗用)のリスクが高いことを指摘したものの、DeNAの取締役会では著作権などのリスクについては議題に上がらなかった。
DeNAの取締役を含めた経営陣による「KPIの重視」という方針によって、DeNAのキュレーションメディアでは盗作疑惑が相次いで浮上した。そして、2016年10月に医療系メディアのWELQに事実誤認の記事があることがSNSにおいて「炎上」すると、DeNAに対する批判が集まった。
2016年12月にDeNAは第三者委員会の設置を公表し、全てのキュレーションメディアの運営を休止した。12月3日には、南場智子氏(DeNA取締役会長)・守安功氏(DeNA代表取締役社長)・小林賢治氏(DeNA取締役)の三名による謝罪会見を実施した。2016年12月期(FY2006/3Q)の決算において、DeNAは買収したキュレーション事業の利用価値を「0円」と判定し、のれんにおいて減損損失58億円を計上した。
DeNAのキュレーション問題を論じた300ページ以上におよぶ「第三者委員会報告書」は、業界関係者にとって全ページ必読である。
この報告書では、守安功氏ら経営陣による目標設定の前提「キュレーション事業だけで時価総額2000億円」が何ら根拠なく設定されたことにより、キュレーションメディア事業部や、DeNA社内の法務部が翻弄された姿が生々しく描写されている。
良識的な社員の意見が、次々と封殺されていく様子は、涙無くして読めない。仮に、筆者がその場の当事者だったとしたら、良心が荒み、精神を壊しているだろうという確信がある。
報告書を読む限りにおいて、DeNAの過ちは、経営陣が「時価総額」という資本市場の概念を、事業戦略のKPIを設定する前提として使用したことに尽きるだろう。
DeNAの場合、株式市場の評価を優先して、顧客との信頼関係やビジネスの信頼貯金を軽視し、そのことを許容した組織(=取締役会)の価値観が、根本的な問題の源泉だったと、筆者は見ている。
事業運営のリスクが買収前のDDや、法務部を通じて指摘されつつも、これらのリスクが取締役会で一切議論されなかったことが、その証左ではないだろうか?
2018年度にDeNAは新規事業に対する投資額を80億円に拡大し、ゲーム事業に匹敵する新事業を育てる方針を発表した。
DeNAが注力した新事業は3つの領域であった。1つ目がライブ配信で、PocochaとSHOWROOMの各サービスへの投資を本格化した。
2つ目がオートモーティブ事業で、2015年から参入していたが、2018年ごろから事業化投資を本格化。神奈川県タクシー協会と共同で次世代タクシーの研究や、日産自動車との共同実験による自動運転車の実験などを行い、2018年にタクシー配車アプリ「MOV」をリリースした。
3つ目がヘルスケア事業で保険事業に着目。大手保険会社のSOMPO HD と提携するなど、保険商品の販売拡大を目論んだ。
2020年にDeNAは国内を含めたソーシャルゲーム事業の業績が悪化した。このため、ソーシャルゲーム事業に対して設定されたのれんに関して、511億円の減損損失の計上を決定し、DeNAは上場以来初となる最終赤字に転落した。
2020年3月期3Q時点で計上した減損損失は494億円で、このうち402億円がのれん(ngcomo社の買収によるもの)であり、81億円が資産計上していたソフトウェアであった。
なお、ngmoco社の買収時点で「のれん」の計上金額は280億円であり、2020年までに402億円まで膨れ上がっている。この背景は、買収時の契約が「米国ドルベース」で行われたため、為替の変動リスクを受けたことが影響している。2010年代を通じて円高ドル安が侵攻したことを受けて、為替レートに応じてDeNAは「のれん」に関して為替換算差額を計上した。
2013年3月期:為替換算差による増減+42億円
2014年3月期:為替換算差による増減+32億円
2015年3月期:為替換算差による増減+52億円
2016年3月期:為替換算差による増減▲27億円
したがって、一見すると401億円の減損は「途方もない数値」に見えるものの、DeNAのキャッシュアウトを伴ったのは「買収対価としての現金100億円」と、株主にとっては3%の希薄化が、それぞれ買収のコストである。409億円という「のれん」の減損損失における額面が、そのままキャッシュアウト(現金の減少)を意味していない点には留意が必要だろう。
海外企業の買収によって「のれん」を計上した場合、外国通貨をベースとした場合は、その後に「のれん」の金額が為替変動によって変化する点に留意が必要である。DeNAの場合、IFRSの会計上は「為替換算差(包括利益の減少) / のれん(資産の減少)」もしくは「のれん(資産の増加) / 為替換算差(包括利益の増加)」の仕訳によって認識していると思われ、これらの金額変動は為替に影響されるため、営業外の業績変動要因と言える。
すなわち、海外企業の買収に失敗した企業があったとして、巨額の減損損失を計上したとしても、円高ドル安が進行した場合は「実態よりも損失が大きく」なるし、円安の場合はその逆になる。
この意味で、海外企業の買収による「のれん」を見る場合は、為替の考慮を忘れてはならない。
2021年に守安功氏はDeNAの代表取締役社長を退任した。なお、DeNAの退任理由はコンプライアンス違反ではないと思われる。
守安氏の後任として、総務省出身の岡村氏がDeNAの代表取締役に就任し、創業者の南場智子氏は執行への関与を薄めつつ代表取締役会長として続投する議案を株主総会に提出した。
この人事に対して、2021年のDeNAの株主総会では、南場会長の選任に対する賛成率が89.40%、岡村社長の選任に対する賛成率が90.66%であり、同社の取締役の中では最も低い賛成率の2名が(他の取締役の選任の賛成比率は94〜99%)代表取締役として選任される形となった。
なお、守安氏はDeNAの創業期から社員として働いて業績拡大に貢献したものの、2011年の社長就任から2021年の社長退任までにおける売上収益の年平均成長率▲0.8%であった。10年という長期にわたって社長を歴任したものの、同業のサイバーエージェントの躍進と対照的な結果に終わった。
守安氏はDeNAの社長を退任した後、ベンチャー企業のタイミーに社内取締役として就任した。ベンチャー企業が業界の大物を迎え入れたとして話題になったが、2022年4月に守安氏はコンプライアンス違反を理由にタイミーの取締役を解任された。
詳細は「プライバシー」を理由に公表されていないため、察するしかない。
セグメント名称 | 2019年3月期 | 2020年3月期 | 増減 | 備考 |
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ゲーム事業 | 1184名 | 1120名 | ▲64名 | |
スポーツ事業 | 211名 | 212名 | +1名 | |
オートモーティブ事業 | 266名 | 0名 | ▲266名 | 事業統合によりセグメント消滅 |
ライブストリーミング事業 | 0名 | 60名 | +60名 | Pocochaを運営 |
新規事業 | 286名 | 65名 | ▲221名 | |
全社共通 | 505名 | 498名 | ▲7名 | |
臨時雇用者 | 892名 | 732名 | ▲160名 | 派遣社員・業務委託など |
業績不振に陥ったDeNAは固定費の削減を開始し、賃料削減のために渋谷ヒカリエからのオフィス撤収を決め、weworkが運営する渋谷シクランブルスクエアへの移転を決定した。本社移転に備えて、2021年3月期にDeNAは「移転損失引当金」を特別損失として17億円計上した。
また、2020年度の正規雇用者が2558名に対して、2021年度の正規雇用者は2100名となり、わずか1年間に▲458名の減少(うち単体ベース=本社雇用扱い▲371名)となった。加えて、単体ベースにおいて、2021年3月期の平均勤続年数は5年0ヶ月(平均給与790万円)となり、2020年3月期の3年11ヶ月(平均給与821万円)から逆に伸びている。
このことから、人員減の内訳は、DeNAにおける古参社員ではなく、DeNAに中途入社した勤務歴5年未満の社員(もしくは新卒入社してまもない社員)が、DeNAから別の会社に転職したと推察される。
また、有価証券報告書に記載された事業別の従業員数の推移を見ると、オートモティブや新事業における減少幅が大きいことがわかる。2020年にDeNAはオートモーティブ事業を日本交通と合弁会社を設立するかたちで譲渡しており、DeNAのセグメントから「オートモーティブ事業」が消滅した。
一方で、ライブストリーミング事業のセグメントが2020年度に新設されており、DeNAとしては新事業における投資の選別を行なったと思われる。
なお、DeNAは対外的なリストラの公表や、退職金の計上を行なっていない。このため、社員減少の理由は、自己都合退職と推察される。
一つの時代の区切りが来たのだろう。
オフィスの移転について、表向きは「リモートワークの推進」だが、財務的には「収益が生まれないことを理由とする固定費削減」を意図している。一般論だが、完全リモートワークへの移行を標榜するインターネット企業は、業績不振という問題を抱えていることが珍しくない。
加えて、リストラを対外的に宣言していないにも関わらず数百名の人員が減少しており、それによって正社員の勤続年が増加している点も見逃せない。ビジネス環境を客観視する優秀な社員も、相当数転職したと思われる。
なお、DeNAが退去した渋谷ヒカリエのテナントには、2022年からTiktokを運営するバイトダンスが入居予定だという。時代の移り変わりを感じる。
南場智子氏はDeNAの黒字化を受けて、役員報酬(年収)を750万円に設定した。この金額の妥当性については、南場氏自身がインテリジェンスの年収査定サービスを活用し、自らの経歴を送付して、その結果が750万円だったためであったという。
なお、当初、南場氏が自身の年収は800万円が妥当と判断していたが、転職会社の査定結果により50万円の減額になった。
この経緯は、南場氏のブログにて、コミカルに描かれている。
https://ameblo.jp/nambadena/entry-10033435409.html