アステラス製薬 の歴史

創業

2005年

創業者

※山之内製薬+藤沢薬品工業

創業地

東京都中央区

直近売上高(2026/3)

21,392億円

長期業績と転換点(2005/3〜2026/3)
売上高(億円純利益率(%)
Q なぜアステラスは2010年のOSI買収から連続して海外企業を買い続けたのか
A 自社研究だけでは新薬の切れ目を埋められなかったためである。2010年6月に米OSIファーマシューティカルズを約3700億円で買収して前立腺がん治療薬XTANDIを取り込み、2016年3月期に純利益1936億円の最高益を記録した。だが1剤で売上の3割を占める依存が明らかになると、オカタ・ガニメド・オジェダ・オーデンテス・IVERIC bioと買収を重ね、細胞医療・抗体医薬・遺伝子治療・眼科へ広げた安川健司社長は「自前主義では勝てない」(日経ビジネス 2021年)と語っている
Q なぜアステラスは2005年の合併直後に、開発本社を米国へ移したのか
A 薬価改定の圧力と欧米メガファーマとの研究開発競争が同時に強まり、国内にとどまっては巨額化する創薬投資を回収できなくなっていたためである。2005年4月、山之内製薬の泌尿器・循環器と藤沢薬品工業の移植・免疫という重ならない強みを持ち寄って合併し、研究開発費1450億円という国内首位の規模を得た。だが規模だけでは足りず、2008年4月に米国へアステラスファーマグローバルディベロップメントを設立し、臨床開発の司令塔を世界最大の市場の中に置いた
Q なぜ2024年にアステラスは買収中心の経営からコスト最適化へ転じたのか
A 主力の前立腺がん薬XTANDIの米国独占販売期間が2027年に満了することを視野に、買収で広げた事業の利益率を引き上げる必要があったためである岡村直樹社長は2024年に全社最適化プログラム「Sustainable Margin Transformation」を始め、2024〜2027年度に1200〜1500億円の削減を掲げた。臨床試験を社内で担う体制を整えて外注費を削り、2027年度のコア営業利益率30%を目標に置いた

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2005年〜 2005年の発足と海外がん事業への賭け ── 合併からXTANDI最高益まで

アステラス製薬の業績推移:連結

売上高(億円)純利益率(%)
  1. 2005年 山之内製薬と藤沢薬品工業の合併によるアステラス製薬の誕生(2005年成立) 国内3位と5位の合併はなぜ「社名一新の対等合併」として演出され、何をもたらしたのか?
  2. 2005年 竹中登一氏が初代社長に就任
  3. 2007年 アジェンシスInc.を買収
  4. 2008年 アステラスファーマグローバルディベロップメントInc.を設立
  5. 2010年 米OSIファーマシューティカルズへの同意なき買収(敵対的TOB) 主力薬の特許切れが迫るなか、アステラスはなぜ拒まれてもなお米がん企業を買いにいったのか
  6. 2016年 オカタセラピューティクスInc.を買収
  7. 2016年 ガニメドファーマシューティカルズAGを買収

対等合併の実務 ── 二社を一つの会社にする

2005年4月1日、山之内製薬と藤沢薬品工業が合併し、アステラス製薬が発足した。2年に一度の薬価引き下げで国内市場の拡大が見込めなくなる一方、欧米の大手は大型合併で研究開発の規模を引き上げており、国内3位と5位が単独で創薬投資を回収し続けることは難しくなっていた。合併基本合意の発表時点で、新会社の医薬品売上高は約8000億円となり、武田薬品工業に次ぐ国内2位・世界17位に上がる。MR数は約2400名で国内最大となる。研究開発費は1450億円と国内首位の規模になり、グローバルで生き残りに必要といわれた1000億円の水準を超えた。竹中登一氏は合併決定後の取材で「やはり現状の700億円では足りない、ラフに見積もっても最低1000億円はないと駄目ですね」(週刊東洋経済 2004/04/17)と語っている。規模を作ることが、この合併の主眼の一つだった。 [1][2][3][4]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [1]2005年4月1日に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併しアステラス製薬が発足した
  • 週刊東洋経済 2004年3月6日号「製薬業界の大型再編/山之内・藤沢合併の勝算/小が大に仕掛けた『対等合併』」
    • [2]合併により新会社の医薬品売上高は約8000億円となり武田薬品に次ぐ国内2位・世界17位、MR数は約2400名で国内最大となる見込みだった
    • [3]新会社の研究開発費は1450億円と国内首位規模となり、グローバルで生き残りに必要とされた1000億円を超えた
  • 週刊東洋経済 2004年4月17日号「[KeyPerson]竹中登一 山之内製薬社長 初の大型合併に踏み切る 研究開発費に最低1000億円」
    • [4]竹中登一は研究開発費について現状の700億円では足りず最低1000億円が要ると述べた

発足初年度から重複拠点の整理が始まった。2005年4月に製剤生産機能を統合・分社化してアステラス東海を設立し、翌2006年4月には原薬製造機能を分社化してアステラスファーマケミカルズを設立した(両社は2011年4月にアステラス富山とともに統合され、アステラスファーマテックとなる)。組織は社長直属の本部をマネジメントの中心単位とする9本部制を敷き、本部長や主要ポストに旧山之内・旧藤沢の出身者を配した。初代社長の竹中登一氏は両社出身者の融合を進め、研究では山之内も藤沢もなく機能を再編する方針を掲げていた。数字の上での変化は明瞭で、山之内単独の最終期にあたる2005年3月期に売上高4471億円・従業員7196人だった規模は、合併第1期の2006年3月期に売上高8793億円・従業員14965人へと倍増し、2007年3月期には売上高9206億円・純利益1312億円となった。 [5][6][7][8]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [5]2005年4月にアステラス東海(製剤)、2006年4月にアステラスファーマケミカルズ(原薬)を設立し、2011年4月にアステラスファーマテックへ統合した
    • [6]発足時の組織は社長直属の本部を中心単位とする9本部制で、旧2社出身者を主要ポストに配した
  • 週刊東洋経済 2004年4月17日号「[KeyPerson]竹中登一 山之内製薬社長 初の大型合併に踏み切る 研究開発費に最低1000億円」
    • [7]アステラスの初代社長は竹中登一で、研究について山之内も藤沢もなく融合させ機能再編する方針を示していた
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [8]売上高は2005年3月期4471億円から2006年3月期8793億円へ、従業員数は7196人から14965人へ増え、2007年3月期は売上高9206億円・純利益1312億円だった

2008年4月には米国にアステラスファーマグローバルディベロップメントInc.を設立し、開発本社機能を米国に置いた。竹中氏は合併決定時、海外大手から出資を伴う提携を持ちかけられても「本当にずっと日本で研究をさせてくれるか不安でした」(週刊東洋経済 2004/04/17)として応じず、日本を中心に研究を行い営業をグローバルに広げる構えを語っていた。その3年後に選ばれたのは、研究は国内に残しつつ、臨床開発の司令塔だけを世界最大の市場である米国へ移す分担である。合併を国内の重複整理で終わらせず、臨床開発の指揮を世界最大の市場の中に置いた判断は、当時の日本の大手製薬としては踏み込んだものだったとみられる。 [9][10]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [9]2008年4月に米国へアステラスファーマグローバルディベロップメントInc.を設立し開発本社機能を置いた
  • 週刊東洋経済 2004年4月17日号「[KeyPerson]竹中登一 山之内製薬社長 初の大型合併に踏み切る 研究開発費に最低1000億円」
    • [10]竹中登一は海外大手からの出資提案について日本で研究を続けられるか不安があったとして応じなかった
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [1]2005年4月1日に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併しアステラス製薬が発足した
    • [5]2005年4月にアステラス東海(製剤)、2006年4月にアステラスファーマケミカルズ(原薬)を設立し、2011年4月にアステラスファーマテックへ統合した
    • [9]2008年4月に米国へアステラスファーマグローバルディベロップメントInc.を設立し開発本社機能を置いた
  • 週刊東洋経済 2004年3月6日号「製薬業界の大型再編/山之内・藤沢合併の勝算/小が大に仕掛けた『対等合併』」
    • [2]合併により新会社の医薬品売上高は約8000億円となり武田薬品に次ぐ国内2位・世界17位、MR数は約2400名で国内最大となる見込みだった
    • [3]新会社の研究開発費は1450億円と国内首位規模となり、グローバルで生き残りに必要とされた1000億円を超えた
  • 週刊東洋経済 2004年4月17日号「[KeyPerson]竹中登一 山之内製薬社長 初の大型合併に踏み切る 研究開発費に最低1000億円」
    • [4]竹中登一は研究開発費について現状の700億円では足りず最低1000億円が要ると述べた
    • [7]アステラスの初代社長は竹中登一で、研究について山之内も藤沢もなく融合させ機能再編する方針を示していた
    • [10]竹中登一は海外大手からの出資提案について日本で研究を続けられるか不安があったとして応じなかった
    • [6]発足時の組織は社長直属の本部を中心単位とする9本部制で、旧2社出身者を主要ポストに配した
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [8]売上高は2005年3月期4471億円から2006年3月期8793億円へ、従業員数は7196人から14965人へ増え、2007年3月期は売上高9206億円・純利益1312億円だった

アジェンシス、OSI ── がん領域への3700億円クロスボーダー

合併直後からアステラスはがん領域への投資を加速した。2007年12月に米バイオベンチャーのアジェンシスを約4億ドルで買収して抗体医薬の開発拠点を獲得し、2010年6月にはOSIファーマシューティカルズを約3700億円で買収した。OSIは肺がん治療薬タルセバを擁し、合併後のアステラスにとって最大級のクロスボーダー買収となった。OSI買収で前立腺がん治療薬XTANDI(エンザルタミド)を中核資産として取り込み、それまで泌尿器・移植が中心だった事業構成をがん領域へ傾けた。大阪発の製薬会社が、米国市場を主戦場とするがん企業へ形を変える時期の判断である。がん領域へのパイプライン集中と、自社研究に閉じないクロスボーダーM&Aの組み合わせは、合併以降の経営の基調となった。 [11][12]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [11]2007年12月に米バイオベンチャーのアジェンシスを買収した
    • [12]2010年6月にOSIファーマシューティカルズを約3700億円で買収した

OSI買収の翌年にあたる2011年6月、野木森雅郁社長から畑中好彦氏へ社長が交代した。合併初代の竹中・野木森ラインから3代目への移行は、グローバル化の遂行を担う世代交代で、買収後の統合実務を研究開発出身の畑中社長が引き受けた。畑中体制では、2008年以降に設立したインド・ブラジル・オーストラリア・シンガポール・マレーシア各国の販売子会社網を本格稼働させ、卸や代理店経由が中心だった海外販売を自社直販体制として新興国まで広げた。海外売上比率は高まり、米国と欧州を中核とする収益構造への移行がこの数年間で進んだ。米国での直販組織は、XTANDIの立ち上げを加速させる役割も担った。 [13][14]

  • アステラス製薬 有価証券報告書(役員の状況)
    • [13]2011年6月に野木森雅郁社長から畑中好彦へ社長交代した
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [14]2008年以降にインド・ブラジル・オーストラリア・シンガポール・マレーシア各国の販売子会社を設立した
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [11]2007年12月に米バイオベンチャーのアジェンシスを買収した
    • [12]2010年6月にOSIファーマシューティカルズを約3700億円で買収した
    • [14]2008年以降にインド・ブラジル・オーストラリア・シンガポール・マレーシア各国の販売子会社を設立した
  • アステラス製薬 有価証券報告書(役員の状況)
    • [13]2011年6月に野木森雅郁社長から畑中好彦へ社長交代した

XTANDIが運んだ純利益1936億円と次の種まき

OSI由来のXTANDIは去勢抵抗性前立腺がんの標準治療として世界各国で承認を獲得し、合併後のアステラスの収益を押し上げた。2012年3月期に売上収益9694億円だった連結業績は、2014年3月期に1兆1645億円、2016年3月期には1兆3727億円・親会社の所有者に帰属する当期利益1936億円へ拡大し、合併以来の最高益を記録した。泌尿器領域で長年培った販売体制が、同じ前立腺領域のXTANDIと噛み合い、米国市場での立ち上げの速さを支えた。XTANDIが米国・欧州で伸びたことで、合併直後から積み上げた海外開発投資は回収段階に入り、合併の成果が定量的に現れた時期である。ピーク時の世界売上は同社全体の3割超を占め、単一製品への依存の大きさも同時に浮き彫りになった。 [15]

  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [15]売上収益は2012年3月期9694億円・2014年3月期1兆1645億円・2016年3月期1兆3727億円へ拡大し、2016年3月期に純利益1936億円の合併以来最高益を記録した

ピーク収益に達するのと前後して、次の種も播かれた。2013年10月に米Amgenとの合弁アステラス・アムジェン・バイオファーマが業務を開始し、抗体医薬を中心とするバイオ医薬分野への本格参入を狙った。2016年2月には米オカタセラピューティクスを買収して眼科の細胞医療研究に参入し、同年12月には独ガニメドファーマシューティカルズを買収してClaudin18.2標的のゾルベツキシマブを取り込んだ。合併前の両社が得意とした低分子創薬の延長ではなく、バイオ医薬・細胞医療・抗体医薬という異なる技術の組み合わせを短期間で揃えた点に、XTANDI依存からの脱却への危機感がにじむ。のちに重点領域となる眼科とがん抗体医薬の種は、この時期に揃った。 [16][17][18]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [16]2013年10月に米Amgenとの合弁アステラス・アムジェン・バイオファーマが業務を開始した
    • [17]2016年2月に米オカタセラピューティクスを買収し眼科の細胞医療研究に参入した
    • [18]2016年12月に独ガニメドファーマシューティカルズを買収しClaudin18.2標的のゾルベツキシマブを取り込んだ
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [15]売上収益は2012年3月期9694億円・2014年3月期1兆1645億円・2016年3月期1兆3727億円へ拡大し、2016年3月期に純利益1936億円の合併以来最高益を記録した
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [16]2013年10月に米Amgenとの合弁アステラス・アムジェン・バイオファーマが業務を開始した
    • [17]2016年2月に米オカタセラピューティクスを買収し眼科の細胞医療研究に参入した
    • [18]2016年12月に独ガニメドファーマシューティカルズを買収しClaudin18.2標的のゾルベツキシマブを取り込んだ

2017年〜 「自前主義では勝てない」 ── 安川体制の外部導入

アステラス製薬の業績推移:連結

売上高(億円)純利益率(%)
  1. 2017年 オジェダSA(ベルギー)を買収
  2. 2018年 マイトブリッジInc.を買収
  3. 2018年 安川健司氏が社長に就任
  4. 2018年 ポテンザセラピューティクスInc.を買収
  5. 2020年 オーデンテスセラピューティクスInc.を買収
  6. 2022年 アステラスファーマテックを吸収合併

オジェダ買収と安川体制の発足 ── 外部導入という宣言

2017年5月、ベルギーのオジェダSAを買収し、女性ヘルス領域(子宮内膜症治療薬)の基盤を獲得した。翌2018年4月、畑中好彦社長から安川健司氏へ社長が交代した。研究開発出身で、合併後の統合と海外展開を最前線で担った世代が経営の中心に立った。安川社長は就任後の取材で、自前主義では競争に勝てないとして外部のイノベーションを取り込む仕組みの構築を経営の柱に据える方針を明示し、旧2社の時代から続いた社内研究偏重を改め、外部導入と提携を軸に置く方針への転換を示した。合併以来続いた連続買収を、臨時の打ち手から常道へと制度化する宣言でもあった。 [19][20]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [19]2017年5月にベルギーのオジェダSAを買収し女性ヘルス(子宮内膜症治療薬)領域の基盤を獲得した
  • アステラス製薬 有価証券報告書(役員の状況)
    • [20]2018年4月に畑中好彦社長から安川健司へ社長交代した

業績面では2017年3月期に売上収益1兆3117億円・純利益2187億円となり、円高の進行や国内薬価改定の影響を受けつつ、合併直後の倍に近い純利益水準を維持した。XTANDIへの過度な依存と米国での特許切れリスクは2010年代後半から市場の関心となり、外部導入をさらに加速して次世代パイプラインを厚くすることが、安川体制の出発点の最大の課題だった。合併から安川体制の発足までの十年余りは、がん領域への選択と集中で最高益を実現すると同時に、その収益の先細りに備える時期でもあった。合併から十年余りを経て、アステラスは再び、次の成長の核を社外に求めて探す段階に戻った。外部導入を基本とする方針が、この後の連続買収を方向づけた。 [21]

  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [21]2017年3月期の売上収益は1兆3117億円・純利益2187億円だった
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [19]2017年5月にベルギーのオジェダSAを買収し女性ヘルス(子宮内膜症治療薬)領域の基盤を獲得した
  • アステラス製薬 有価証券報告書(役員の状況)
    • [20]2018年4月に畑中好彦社長から安川健司へ社長交代した
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [21]2017年3月期の売上収益は1兆3117億円・純利益2187億円だった

オーデンテス買収とAT132の挫折 ── 遺伝子治療への賭け

2018年以降、安川体制は外部導入を矢継ぎ早に行った。2018年1月に米マイトブリッジ、同年12月に米ポテンザセラピューティクスを買収して、ミトコンドリア疾患・がん免疫の研究シードを獲得した。2020年1月には米オーデンテスセラピューティクスを買収し、遺伝子治療領域への本格参入を果たした。オーデンテスは神経筋疾患を対象とするアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療のAT132を擁し、この買収はアステラスにとって、これまでの低分子・抗体・細胞医療に続く新しい軸として遺伝子治療という未成熟な市場に踏み込む、新規モダリティへの賭けとなった。製造工程そのものが確立しきらない領域に、買収対価を先行投入した判断である。 [22][23][24]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [22]2018年1月に米マイトブリッジ、同年12月に米ポテンザセラピューティクスを買収した
    • [23]2020年1月に米オーデンテスセラピューティクスを買収し遺伝子治療領域へ本格参入した
    • [24]オーデンテスは神経筋疾患を対象とするアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療のAT132を擁していた

しかしAT132は、臨床試験での有害事象と製造プロセスをめぐる課題が重なり、開発計画が遅延した。子会社名はアステラスジーンセラピーズへ改められ、社内ガバナンスの再構築が進んだ。2021年3月期の連結売上収益は1兆2495億円・純利益1206億円に低下し、為替やXTANDI米国売上の頭打ちに加え、新規モダリティ買収の収益貢献が見えにくい状況が続いた。安川社長は外部導入路線を続ける一方で、買収後の統合と開発リスクの管理という、従来のアステラスには経験の薄い課題を抱え込んだ。遺伝子治療という新しい領域は、同社の従来の開発体制にも見直しを迫る規模の試行錯誤を必要とした。 [25][26]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [25]オーデンテスの子会社名はアステラスジーンセラピーズへ改められた
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [26]2021年3月期の連結売上収益は1兆2495億円・純利益1206億円だった
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [22]2018年1月に米マイトブリッジ、同年12月に米ポテンザセラピューティクスを買収した
    • [23]2020年1月に米オーデンテスセラピューティクスを買収し遺伝子治療領域へ本格参入した
    • [24]オーデンテスは神経筋疾患を対象とするアデノ随伴ウイルス(AAV)遺伝子治療のAT132を擁していた
    • [25]オーデンテスの子会社名はアステラスジーンセラピーズへ改められた
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [26]2021年3月期の連結売上収益は1兆2495億円・純利益1206億円だった

「社内要因の根絶」と重点戦略製品の仕込み

2022年3月期、アステラスはXTANDIに続く成長製品として、尿路上皮がん治療薬パドセブ、急性骨髄性白血病治療薬ゾスパタ、腎性貧血治療薬エベレンゾを「重点戦略製品」に位置づけた。2022年3月期1Q時点でのコア営業利益は前年同期比12%減の553億円となり、米国インフレ抑制法への対応やXTANDIの患者支援プログラム拡大が米国売上の下押し要因となるなか、後継製品群の積み上げが急務となった。安川社長は社内文化改革を一段強め、社内に残るイノベーション阻害要因の根絶を自らの使命として明示した。外部導入という構造改革を支えるために、社内の側にも同時に手を入れた時期にあたる。

2016年に買収したガニメド由来のゾルベツキシマブ(Claudin18.2標的抗体)は、安川社長の在任中に胃がん臨床試験で有望データを示し、のちのVYLOYとして開花する素地ができた。オジェダ由来のフェゾリネタント(のちのVEOZAH)が更年期障害治療薬として米国申請段階に進み、女性ヘルスでの新領域開拓も動いた。安川期の外部導入は、買収から数年を経てパイプラインの形を取り始めたが、本格的な収益貢献はなお先送りされた。連続買収の成果が見え始めるまでには、モダリティごとの開発・製造・上市の長い準備期間が必要となる構造的な事情があった。買収の成果が決算に現れるまでの空白期間をどう埋めるかが、安川時代を通じた経営課題として残った。 [27]

  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [27]2016年に買収したガニメド由来のゾルベツキシマブ(Claudin18.2標的抗体)はのちのVYLOYとなった
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [27]2016年に買収したガニメド由来のゾルベツキシマブ(Claudin18.2標的抗体)はのちのVYLOYとなった

2023年〜 岡村期のIVERIC bio 約8000億円と連続買収の検証

アステラス製薬の業績推移:連結

売上高(億円)純利益率(%)
  1. 2023年 岡村直樹氏が社長に就任
  2. 2023年 IVERIC bio, Inc.を買収
  3. 2023年 FY23純利益が前年比83%減

IVERIC bio約8000億円買収と純利益170億円

2023年4月、安川健司社長から岡村直樹氏へ社長が交代した。岡村CEOは安川路線を引き継ぎつつ、外部導入をさらに高額化した。就任から3か月後の2023年7月、米IVERIC bioを約8000億円で買収し、加齢黄斑変性に伴う地図状萎縮治療薬IZERVAYを獲得した。眼科をがん・移植・泌尿器に並ぶ重点領域に押し上げる買収で、岡村期では最大の案件である。買収完了に伴い無形資産63億ドル・のれん2億5100万ドルを計上し、IZERVAY関連で52億ドル規模の無形資産償却が始まった。合併以降続けてきた海外がん中心の投資を、眼科という新たな柱へ広げる買収だった。8000億円という規模は、2010年のOSI買収(約3700億円)の2倍超に当たり、外部導入の規模がさらに一段上がった。 [28][29][30]

  • アステラス製薬 有価証券報告書(役員の状況)
    • [28]2023年4月に安川健司社長から岡村直樹へ社長交代した
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [29]2023年7月に米IVERIC bioを約8000億円で買収した
    • [30]IVERIC bio買収額8000億円は2010年のOSI買収(約3700億円)の2倍超に当たる

買収直後の2024年3月期、売上収益は1兆6037億円と前期比5.6%増となった。IVERIC bio買収関連費用と、AT808・エベレンゾの減損損失563億円が重なり、当期純利益は170億円・前期比82.7%減まで落ち込んだ。岡村CEOは決算説明会で、複数の新薬の開発中止により当初計画から遅れているとしたうえで、低リスクの外部開発品の獲得を軸にパイプラインを再構築する方針を説明した。8000億円規模の外部導入と開発中止が同時進行する形となり、合併以来続いた連続買収戦略そのものの検証が迫られた。規模を追ってモダリティを広げた戦略が、期待収益と減損の両側から揺さぶられる時期に差しかかった。合併から19年を経たアステラスは、買収競争の規模拡大と、パイプラインの選別という二つの課題を同時に抱える段階にあった。 [31][32]

  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [31]2024年3月期の売上収益は1兆6037億円で前期比5.6%増だった
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)/ アステラス製薬 2024年3月期 決算説明会
    • [32]2024年3月期は減損損失563億円が重なり当期純利益170億円・前期比82.7%減まで落ち込んだ
  • アステラス製薬 有価証券報告書(役員の状況)
    • [28]2023年4月に安川健司社長から岡村直樹へ社長交代した
  • アステラス製薬 有価証券報告書【沿革】
    • [29]2023年7月に米IVERIC bioを約8000億円で買収した
    • [30]IVERIC bio買収額8000億円は2010年のOSI買収(約3700億円)の2倍超に当たる
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)
    • [31]2024年3月期の売上収益は1兆6037億円で前期比5.6%増だった
  • アステラス製薬 有価証券報告書(連結財務諸表)/ アステラス製薬 2024年3月期 決算説明会
    • [32]2024年3月期は減損損失563億円が重なり当期純利益170億円・前期比82.7%減まで落ち込んだ

利益率30%への転回 ── 買ったものを利益に変える

減損と開発中止が重なった翌期から、岡村CEOは買収で広げた事業の採算を作り直す作業に入った。2024年に全社最適化プログラム「Sustainable Margin Transformation」を立ち上げ、2024〜2027年度の4年間で全社レベル1200〜1500億円のコスト最適化を追求すると掲げた。背景にあるのは、収益の柱であるXTANDIの米国独占販売期間が2027年に満了する見込みだという時間の制約である。グローバルの臨床試験を社内で実施できる体制を整えて外注費を削り、2027年度のコア営業利益率30%を目標に置いた。合併以来20年近く外部からパイプラインを買い集めてきたアステラスは、ここで買ったものを利益に変える作業に取りかかった。 [33][34][35]

業績は買収の負担を抜けた。2025年3月期の売上収益は1兆9123億円・当期純利益507億円、2026年3月期は売上収益2兆1392億円・営業利益3826億円・当期純利益2915億円となり、IVERIC bio買収の直後に170億円まで落ちた純利益は2期で17倍に戻った。売上収益も2024年3月期からの2年間で5000億円以上増えている。2005年の発足時に掲げた医薬品売上高1兆円という中期目標は、20年をかけてその倍の水準に達した。ただしXTANDIの米国独占販売期間の満了は2027年に控えており、連続買収で積み上げた資産が主力品の交代を支えられるかどうかは、2027年以降の売上で確かめられる。 [36][37]

アステラス製薬の沿革2005〜2023年における主な出来事を抜粋

年月社長・CEO出来事重要度
竹中登一山之内製薬と藤沢薬品工業の合併によるアステラス製薬の誕生(2005年成立)国内3位と5位の合併はなぜ「社名一新の対等合併」として演出され、何をもたらしたのか? 詳細を読む★★★
竹中登一竹中登一氏が初代社長に就任
野木森雅郁アジェンシスInc.を買収
野木森雅郁アステラスファーマグローバルディベロップメントInc.を設立
野木森雅郁アステラスファーマインディアPVT.Ltd.を設立
野木森雅郁アステラスファーマブラジルを設立
野木森雅郁米OSIファーマシューティカルズへの同意なき買収(敵対的TOB)主力薬の特許切れが迫るなか、アステラスはなぜ拒まれてもなお米がん企業を買いにいったのか 詳細を読む★★★
畑中好彦アステラスファーマテックが発足
畑中好彦畑中好彦氏が社長に就任
畑中好彦アステラス・アムジェン・バイオファーマが業務開始
畑中好彦オカタセラピューティクスInc.を買収★★
畑中好彦ガニメドファーマシューティカルズAGを買収★★
畑中好彦オジェダSA(ベルギー)を買収
安川健司マイトブリッジInc.を買収
安川健司安川健司氏が社長に就任
安川健司ポテンザセラピューティクスInc.を買収
安川健司オーデンテスセラピューティクスInc.を買収★★
安川健司アステラスファーマテックを吸収合併
岡村直樹岡村直樹氏が社長に就任
岡村直樹IVERIC bio, Inc.を買収★★
岡村直樹FY23純利益が前年比83%減★★
出典・参考

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