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2019年 経営統合・合併 難航成立

出光興産と昭和シェル石油の経営統合(2019年成立)

なぜ創業家の約2年にわたる反対を経て、石油元売りの統合は成立に至ったのか?

経営統合 株式交換
交渉期間 2015年7月〜2019年4月
帰結 難航成立
統合比率 1:0.41

エグゼクティブサマリー

  • 2015年に基本合意した出光興産と昭和シェル石油の経営統合が、出光創業家の約2年にわたる反対を経て、2019年4月1日に株式交換で成立した案件。
  • 国内石油需要の減少を受けた元売り再編のなかで、出光は2015年にロイヤル・ダッチ・シェルから昭和シェル株の約3割を取得し筆頭株主となり、統合交渉を本格化させた。
  • 創業家は「対等の精神」や創業の理念喪失を理由に反対し続けたが、2017年の公募増資による持ち分の希薄化と、取締役2名の指名・株主還元などの条件提示を経て同意に転じ、出光を完全親会社とする株式交換で統合した。
  • 大株主の創業家との合意形成が統合の成否を左右した一方、成立により出光興産はJXTGホールディングスと並ぶ国内元売り2強体制を形づくった。
関連する動き
  1. 出光がロイヤル・ダッチ・シェルから昭和シェル株の約3割取得を発表、統合交渉を本格化
  2. 出光と昭和シェルが「対等の精神」に基づく経営統合の基本合意書を締結
  3. 出光の株主総会で創業家が統合反対を表明、膠着状態に
  4. 出光が公募増資を実施、創業家の持ち分が希薄化(差し止め仮処分は却下)
  5. 創業家が同意に転じ、両社が経営統合の合意書を締結(2019年4月統合を表明)
  6. 株式交換契約を締結、交換比率を出光1:昭和シェル0.41と決定

統合の背景

マクロ環境——縮む国内需要と元売り再編

2010年代の国内石油業界は、構造的な需要の縮小に直面していた。少子高齢化や燃費の改善、エネルギー転換を背景に、ガソリンをはじめとする石油製品の国内需要は長期的に減り続けるとみられていた。製油所という巨大な装置を抱える石油元売りは、稼働率の維持と固定費の負担が重くのしかかる装置産業であり、需要の先細りのなかで単独での生き残りに限界が意識されていく[1]。こうした環境は業界全体の再編を促し、最大手のJXホールディングスと東燃ゼネラル石油が2017年にJXTGホールディングスとして統合するなど、元売り各社は規模の確保と効率化に向けて動き出していた。出光興産と昭和シェル石油の組み合わせもまた、その再編の連鎖のなかに位置づけられる。

統合が実現すれば、両社の国内ガソリン販売シェアは合計で約3割となり、JXTGホールディングスと並ぶ国内2強体制が形づくられる関係にあった[2]。出光は国内2位、昭和シェルは下位の元売りで、両社の規模は単独では最大手に大きく水をあけられていた。需要が縮むなかで成長余地の大きいアジア市場への進出を加速し、収益を安定させるためにも、規模の拡大は両社共通の課題であったとされる。国内に多数の製油所と給油所を抱える両社にとって、統合は重複の整理と効率化を進める枠組みでもあった。

統合の発端

公表経緯——シェルからの株式取得と基本合意

統合の起点は、出光による昭和シェル株の取得であった。2015年7月30日、出光興産は英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルから昭和シェルの株式の約3割を取得し、筆頭株主になると発表する[3]。この取得によって両社は資本関係で結ばれ、経営統合に向けた交渉を本格化させた。取得比率は当初の33.3%から、出光創業家の株式取得に伴う公開買付け規制への抵触を避けるため、最終的には31.3%へと調整されたとされる。続く2015年11月、両社は「対等の精神」に基づく経営統合の基本合意書を締結し[4]、統合は正式に走り出した。

出光興産

出光創業家の視点——「理念の喪失」への懸念

基本合意は、しかし速やかには統合へ結びつかなかった。出光の大株主である創業家が、統合に強く反対したためである。創業家は約3割の出光株を保有し、合併などの重要案件を株主総会で否決できる立場にあった[5]。2016年6月の株主総会では、大株主である創業家が経営統合への反対を表明し[6]、交渉は膠着状態に陥る。創業家側が懸念したのは、出自の異なる会社との統合によって創業以来の理念が損なわれること、また「対等の精神」とされた統合の実態であったとされる。所有と経営をめぐる対立が、経済合理性とは別の次元で統合の前に立ちはだかった。

統合の経過

膠着の打開——公募増資と差し止め仮処分

膠着を動かす契機となったのが、2017年7月に出光が実施した公募増資であった。発行済み株式の約3割にあたる規模の新株発行により、出光は資金を調達する一方、結果として統合に反対する創業家の持ち分は希薄化し、3分の1を割り込んだとされる[7]。これによって創業家は単独で重要案件を否決する力を失う。創業家は新株発行の差し止めを求めて東京地方裁判所に仮処分を申請したが、地裁は申し立てを却下し、東京高裁も即時抗告を棄却した。法廷の場では創業家の主張は通らず、統合をめぐる力関係は経営側に傾いていった。

経営側でも、統合を完遂するための体制が整えられていく。2018年2月、出光は木藤俊一副社長の社長昇格を発表し、月岡隆社長は代表権を持ったまま会長に就いた[8]。月岡氏は引き続き昭和シェルとの統合を指揮し、反対を続ける創業家に対しては話し合いで理解を求めていく方針を示した。法廷闘争と並行して、経営陣は創業家との対話による軟着陸の道も探っていたことになる。

和解——創業家の同意と統合条件

約2年に及んだ対立は、2018年に入って和解へ向かう。同年6月から7月にかけて、約28%の出光株を持つ創業家が統合に賛成する意向に転じたことが明らかになる[9]。出光側は和解にあたって複数の条件を提示したとされ、出光が指名する取締役5名のうち2名を創業家側の推薦とすること、1,200万株・550億円を上限とする自己株式の取得を行うこと[10]、2019年4月以降の3年間で累計5,000億円程度とされる純利益の半分以上を株主に還元することなどが含まれたと報じられている。創業家の理念や利益への配慮を一定程度織り込む形で、統合反対の構えは解かれていった。

契約締結——株式交換比率の合意

和解を受け、統合は実務段階へ進む。2018年7月10日に両社は経営統合に関する合意書を締結し、続く10月16日、それぞれの取締役会の決議を経て株式交換契約を締結した。統合の方式は、当初想定された合併ではなく、出光興産を完全親会社、昭和シェルを完全子会社とする株式交換とされた[11]。株式交換比率は出光興産1に対して昭和シェル0.41で[12]、昭和シェルの普通株式1株に対して出光の普通株式0.41株が割り当てられる。出光は割当交付のために約1億500万株の普通株式を交付する予定とされた。両社の株式交換比率は、ラザードフレールやみずほ証券、JPモルガン証券、ゴールドマン・サックス証券、大和証券といった第三者算定機関の算定を参考に、デュー・ディリジェンスの結果や株主の利益を踏まえて協議されたものであった。

統合の帰結

成立——上場廃止と効力発生

統合は予定どおり進んだ。2018年12月18日に両社が臨時株主総会で株式交換契約を承認し、昭和シェルは2019年3月26日を最終売買日として翌27日に上場廃止となった[13]。そして2019年4月1日、株式交換が効力を発生し、出光興産は昭和シェルの発行済み株式の全部を取得して経営統合が成立する。新会社の商号は「出光興産」とされ[14]、対外的には「出光昭和シェル」の名も用いられた。約3年半に及んだ統合協議は、ここに一つの区切りを迎えた。

統合後——「対等」の内実と経営体制

統合新会社の経営体制には、出光主導の色が濃く出た。会長には出光出身の月岡隆氏、社長には同じく出光出身の木藤俊一氏が就き、昭和シェルの亀岡剛社長は副会長に回った[15]。和解の条件に沿って、創業家側からは出光正和氏が取締役に、創業家の顧問弁護士を務めた人物が社外取締役に加わった。もっとも、執行役員や部長級ポストの配分では出光出身者が多数を占めたと報じられ、当初掲げられた「対等の精神」と実態の隔たりを指摘する見方もあった[16]。資本の論理では完全子会社化という非対等の形をとった統合が、人事の面でも主導側の優位を映していたことになる。

筆者の見解

大株主との合意形成という関門

この統合が示すのは、経済合理性が整っていても、大株主との合意形成という関門を越えなければ案件が進まないという現実であったとみられる。出光と昭和シェルの組み合わせは、需要が縮む装置産業で規模を確保する手段として一定の合理性を備えていた。それでも統合が約3年半を要したのは、創業家という拒否権を持ちうる大株主の同意が不可欠だったためである。公募増資による持ち分の希薄化、法廷での攻防、そして取締役の指名や株主還元といった条件提示——複数の手段が併走して、ようやく対立は和解へと収れんした。

他方で、完全子会社化という非対等の形をとりながら「対等の精神」を掲げた構図には、統合後に人事や企業文化の面で緊張を残す余地があったとも読める。所有と経営、創業の理念と事業の合理性が交錯する局面で、どこまで踏み込み、どこで折り合うか。難航の末に成立したこの案件は、株主構成が再編の速度と着地点を左右することを示す一例とみることもできるだろう。

yutaka sugiura

出典・参考
  • 昭和シェル石油株式会社・出光興産株式会社 適時開示「株式交換契約の締結及び経営統合に関するお知らせ」(2018年10月16日)
  • 日本経済新聞 2015年7月30日「出光、昭和シェルの筆頭株主に 経営統合へ本格交渉」
  • 日本経済新聞 2018年2月14日「出光興産社長に木藤氏が昇格」
  • 日本経済新聞 2018年6月27日「出光・昭シェル統合、創業家が一転同意(日経特報)」
  • 日本経済新聞 2018年7月10日「出光・昭シェル、19年4月統合 新社名『出光興産』」
  • 東洋経済オンライン 2018年7月17日「出光・昭和シェル統合、国内『2強』体制の意味」
  • ダイヤモンド・オンライン 2019年2月6日「出光・昭和シェル『対等統合』の内実、重要ポストを出光が独占」