米ミレニアム社を買収
背景
自社創薬のみではグローバル展開の時間軸が不確実
2000年代半ば、武田薬品は多角化事業の整理を完了し医療用医薬品に経営資源を集中させる体制を整えていた。一方で日本市場は薬価改定と人口動態の影響により成長余地が限られ、自社創薬のみでグローバル市場における存在感を高めるには時間を要する状況にあった。
こうした中、創薬力の強化と海外展開を同時に進める手段として海外企業の買収が選択肢に浮上した。研究開発基盤を外部から獲得することで将来のパイプラインを早期に補強し、研究開発型国際企業としての位置づけを明確にする必要があった。
決断
長谷川社長がミレニアムを約89億ドルで買収
2008年、武田薬品は米国のバイオ医薬品企業ミレニアム・ファーマシューティカルズを約89億ドルで買収した。意思決定を主導したのは長谷川閑史社長であり、がん領域の創薬基盤と米国での事業拠点を一括取得することが狙いであった。武田にとって初の本格的な巨額海外買収であった。
段階的な提携やライセンスではなく経営権を取得する買収を選んだ点に、創薬基盤の「時間を買う」という発想が表れていた。多角化事業の売却で確保された経営資源を海外の創薬力獲得に投下する判断であった。
結果
がん領域の研究基盤を獲得したが巨額買収連鎖の起点にも
ミレニアム買収により武田薬品はがん領域における創薬基盤と米国拠点を獲得し、研究開発型国際企業への転換を具体的に進める足場を得た。一方で巨額の買収資金を投下する経営判断は、財務負担と統合リスクを同時に抱え込む結果ともなった。
この買収は短期的に企業価値を押し上げるものではなかったが、「買収によって時間を買う」という発想を組織に定着させた点で重要であった。ミレニアム買収は2011年のナイコメッド、2017年のARIAD、2019年のShireへと連なる巨額買収連鎖の起点となった。
ミレニアム買収は武田薬品にとって初の本格的巨額海外M&Aであり、以後の経営に「買収で時間を買う」という発想を定着させた。多角化事業売却で確保した資源を創薬基盤の外部獲得に投下する判断は合理的であったが、この一件が2011年ナイコメッド、2017年ARIAD、2019年Shireへと連なる買収連鎖の起点となった点に構造的な意味がある。