ライフケアへの優先投資の方針を表明
半導体向け事業への傾斜投資がリーマンショックで景気変動リスクを露呈
2000年代のHOYAは、情報・通信セグメント(半導体用マスクブランクスなど)が売上・利益の両面で成長を牽引しており、設備投資もこの領域に傾斜していた。半導体業界では2000年代を通じてシリコンウエハーの300mm化が進み、アジアの半導体メーカーからの需要拡大がHOYAの部材供給事業の高収益を支えていた。
一方、アイケア事業(メガネレンズ・コンタクトレンズ)は安定した収益を生んでいたが、設備投資の優先順位は情報・通信に劣後していた。情報・通信の成長率がアイケアを上回っていたため、投資配分が半導体寄りに傾斜すること自体は合理的な判断であった。しかしこの傾斜は、半導体市場の景気変動がHOYAの連結業績を大きく左右する構造を生んだ。
2008年のリーマンショックにより、半導体メーカー各社が設備投資を凍結したことで、HOYAの情報・通信セグメントは大幅な減収減益に陥った。これに対してアイケア事業は生活必需品という性質から影響が軽微にとどまり、連結業績を下支えする役割を果たした。この経験から、半導体向け事業に偏重した投資配分のリスクが明確に認識された。
ライフケアへの投資方針に転換しメガネレンズを軸に連続的な買収を実施
2012年頃にHOYAは投資方針を転換し、ライフケア(ヘルスケア・メディカル)に対して設備投資と企業買収を優先的に実施する方針を決定した。2000年代までの情報・通信への傾斜投資からの転換であり、景気変動の影響を受けにくい生活財領域を強化する狙いがあった。情報・通信の収益をライフケアの買収資金に充当する形で、資金配分の転換が実行された。
2012年以降、HOYAはメガネレンズを軸に企業買収を相次いで実施した。2012年にOptical社を80億円で取得し、2013年にはセイコーエプソンのメガネレンズ事業を48億円で買収した。2017年には米国のPerformance Optics社を301億円で取得し、ポリカーボネートや調光・偏光レンズの製造能力を取り込んだ。内視鏡関連では2013年にWASSENBURG社を37億円で買収し、洗浄装置の領域にも展開した。
一連の買収の総額は500億円を超え、HOYAにとって最大規模の投資集中であった。とりわけ2017年のPerformance Optics社の買収は取得対価301億円のうちのれん計上額が238億円に達し、米州のメガネレンズ事業に集中した大型案件であった。各買収は既存のメガネレンズ事業を地域的・技術的に補完する位置づけであった。
ライフケアが売上の主力に成長するもののれん累積が新たな論点に
2010年代を通じてライフケアの売上高は拡大を続け、情報・通信を上回る水準に達した。利益面では情報・通信の貢献が依然として大きいものの、ライフケアは景気変動の影響を受けにくい安定収益源として連結業績における役割を増していった。投資方針の転換が事業構成の転換として実を結んだ形であった。
一方、連続的な企業買収により「のれん」の計上額が増大した。IFRSの会計基準のもとで減損テストの対象となるこれらの無形資産は、事業環境の変化によって減損リスクが顕在化しうる。とりわけ米州のメガネレンズ事業に集中したのれんは、買収先の収益性が悪化した場合に大規模な減損損失につながる可能性を内包している。
ライフケアへの投資転換は、半導体偏重の景気変動リスクを分散する合理的な判断であったが、買収によるのれん累積という新たな財務リスクを生んだ。景気変動リスクから減損リスクへとリスクの性質が変わった形であり、事業ポートフォリオの管理がリスクの消去ではなくリスクの転換として機能する構造を示している。