重要な意思決定
201611月

構造改革を公表・1000名を削減計画

背景

映像事業と半導体製造装置の主力2事業が同時に不振に陥り、業績が低迷

2010年代に入り、ニコンの主力2事業が同時に苦境に直面した。映像事業ではスマートフォンのカメラの高性能化によりデジタルカメラの需要が構造的に減少し、FY2012からFY2016にかけて売上高が急激に縮小した。ニコンはイメージセンサーを自社開発せずソニーからの供給に依存していたため、スマホ普及に伴うイメージセンサー需要の成長を自社の収益に取り込むことができなかった。

半導体製造装置(精機事業)についてもASML社の1強体制は揺るがず、ニコンはシェアの回復に至らなかった。カメラとステッパーの二本柱がいずれも縮小する中で、ニコンの業績と株価は低迷した。推進中の中期経営計画は機関投資家からの信認を得られておらず、経営の立て直しが急務となっていた。

2016年にニコンは副社長(CFO)として三菱東京UFJ銀行出身の岡昌志氏を外部から登用した。岡副社長は機関投資家との対話を重視し、ニコンの経営課題の把握に努めた。その過程で中期経営計画が市場の信頼を得ていないことを認識し、推進中の中計を撤回して構造改革の実施に踏み切る判断を下した。

決断

不採算事業の縮小・撤退を柱とする構造改革を発表し、国内1000名の削減を決定

2016年11月にニコンは「構造改革の実施」を公表した。全社方針として事業ポートフォリオの見直しを掲げ、「選択と集中」により不採算事業の縮小・撤退を推進する方針を明示した。半導体製造装置については研究開発費の削減と採算性重視への転換、映像事業については生産販売体制の最適化と中国現地法人での生産撤退を決定した。産業機器事業では接触式三次元測定機(CMM事業)からの撤退を決定した。

事業縮小に伴い、ニコンは日本国内で1000名の希望退職者を募集し、年間200億円の固定費削減を計画した。退職金に加えて特別加算金が支給されたことから、募集に応じた社員は予定を超過する1143名に達した。岡副社長は「慢性的な赤字を余儀なくされていた半導体装置事業では、販売方針の抜本的見直しとお客様とのリレーション強化を進めた」と述べ、採算性重視への転換を明確にした。

構造改革の実行は、ニコンにとって「成長投資」ではなく「縮小均衡」を選択する判断であった。カメラも半導体製造装置も市場環境の変化により拡大が見込めない中で、固定費の削減と事業の選別によって収益性を回復させるという方針であった。

結果

特別損失613億円を計上して最終赤字に転落、半導体装置事業は黒字化を実現

FY2016にニコンは連結ベースで特別損失613億円を計上した。単体ベースでは構造改革関連費用497億円を計上し、その大半は希望退職者への退職金の支払いと推定される。国内基準の連結ベースでは71億円の最終赤字に転落したが、連結IFRSベースでは当期利益71億円の黒字を確保した。

構造改革の効果として、半導体製造装置事業はFY2017に黒字化を実現した。採算性重視への方針転換と固定費の削減が奏功し、慢性的な赤字体質からの脱却を果たした。映像事業についても高付加価値製品への集中が進み、コンパクトデジタルカメラからの撤退と一眼レフ・ミラーレスへの選択と集中が実行された。

外部から登用された岡副社長が主導した構造改革は、ニコンの事業ポートフォリオを抜本的に見直す契機となった。ただし構造改革は既存事業の縮小均衡であり、次の成長事業の確立という課題は残された。2022年のSLM Solutions買収(3Dプリンター)など、新規事業への模索が続いている。