マルチ社を子会社化・増産投資
インド市場の急拡大と子会社化による経営主導権の確保
1982年の合弁設立以降、スズキはマルチ社への出資比率を26%から段階的に引き上げ、1990年代末には50%に達していた。しかしインド政府が残りの株式を保有する共同経営の構造のもとでは、増産計画や新車種の投入においてインド側との協議が不可欠であり、スズキの経営判断を迅速に反映することが困難であった。インドの乗用車市場が年率10%を超える成長を続ける中、投資判断の迅速化が競争力維持の条件となりつつあった。
2002年5月にスズキはインド政府との交渉を経てマルチ社への出資比率を54.2%に引き上げ、同社を連結子会社化した。外資企業が元国営の自動車メーカーの経営権を取得するという決定はインド政府からの正式な認可を要するものであり、同国の産業政策においても象徴的な転換点となった。子会社化によりスズキは、工場の新増設や新車種の投入、設備投資の規模と時期を含む重要な経営判断を、自社の意思決定で迅速に実行できる体制を確立した。
年産200万台に向けた段階的な設備投資の実行
子会社化を起点にスズキはインドでの四輪車の増産投資を加速した。2006年にはグルガオン近郊のマネサールに新工場を稼働させ、2010年1月時点でインド国内の年産能力は100万台に到達した。さらに西部のグジャラート州にも大規模生産拠点を新設し、2024年12月にはインドにおける四輪車の年産能力を200万台にまで引き上げた。合弁設立時の年産10万台から約40年で20倍の生産規模へと拡大する、長期にわたる段階的な投資の結果であった。
インドで生産された四輪車は国内販売にとどまらず、中東や東南アジアなどの近隣地域への輸出にも振り向けられている。これによりインドは販売市場としてだけでなく、グローバルなサプライチェーンにおける生産・輸出拠点としての役割をも担うようになった。子会社化時点では年産数十万台の規模であったインド事業は、2020年代にはスズキの連結売上高の過半を占める収益の柱へと成長し、同社の経営を根幹から支える事業基盤となっている。