欧州での現地生産から撤退(英国工場を閉鎖)
欧州市場におけるシェア1%未満の長期低迷と工場稼働率の低下
ホンダは1985年に英国スウィンドンに現地生産法人を設立し、1992年から完成車の生産を開始した。しかし欧州市場における四輪車のシェアは1%未満の水準に長期間とどまり、現地生産の前提であった販売規模の拡大は実現しなかった。スウィンドン工場の年間生産能力は25万台であったが、実稼働ベースでは16万台に低迷し、生産台数のうち約60%は北米や日本への輸出によって稼働率を維持している状態であった。
欧州市場ではフォルクスワーゲンやルノーなどの現地メーカーが強固な販売網とブランド力を持ち、日系メーカーの参入障壁は高かった。ホンダは欧州での販売拡大に向けた車種投入やマーケティング強化を試みたものの、市場シェアの改善にはつながらなかった。欧州向けの生産拠点としてのスウィンドン工場の存在意義は、進出から30年が経過するなかで根本的に問われていた。
英国スウィンドン工場の閉鎖と欧州現地生産からの撤退
2014年にホンダはスウィンドン工場の生産ラインを1本休止し、生産体制の縮小に着手した。その後も欧州での販売回復は見込めず、2019年2月にスウィンドン工場の閉鎖方針を正式に決定した。2016年以降に進行した英国のEU離脱も事業環境に影響を与えたが、ホンダは工場閉鎖の判断はEU離脱とは無関係であると説明した。
2021年7月30日にスウィンドン工場は閉鎖され、約3500名の従業員が解雇された。この閉鎖はホンダにとって欧州における唯一の完成車生産拠点の消滅であり、欧州での現地生産からの全面的な撤退を意味した。1985年の英国進出から36年にわたる欧州現地生産の歴史に終止符が打たれた。
欧州市場の位置づけの後退とグローバル生産体制の再編
スウィンドン工場の閉鎖により、ホンダのグローバル生産体制は日本、北米、アジアの三極構造に移行した。欧州市場向けの車両は日本からの輸出に切り替えられ、欧州はホンダにとって生産拠点を持たない販売市場となった。シェア1%未満の市場に年間25万台規模の工場を維持し続けることの経済合理性は乏しく、撤退判断自体は収益構造の改善に寄与するものであった。
しかしこの結果は1985年の進出判断に対する問いも含んでいる。欧州での現地生産は貿易摩擦への対応として開始されたが、販売基盤の構築が不十分なまま30年以上にわたり工場を維持し続けた。撤退時の解雇者3500名と36年間の投資は、進出時点で欧州市場における競争力を十分に検証しないまま生産拠点を設置したことの帰結でもあった。