重要な意思決定
売上高1兆円計画
背景
トヨタ依存からの脱却と新市場開拓を掲げた売上高1兆円計画
デンソーは1982年に売上高1兆円計画を策定し、「トヨタ以外の顧客開拓」「海外進出」「エレクトロニクス分野」の3つの方針を掲げた。販売面ではトヨタ自動車に偏重していた取引体系の見直しに着手し、電装品では日立製作所との結びつきが強かった日産自動車など、トヨタ以外の自動車メーカーとの取引拡大を模索した。海外進出ではトヨタのアメリカ・ケンタッキー工場の稼働に合わせて北米での部品の現地生産を開始し、グローバル展開の足がかりを築いた。
エレクトロニクス分野では大規模な投資を決定し、自動車の電子制御化という潮流を捉える体制を整えた。しかし、急成長するデンソーに対してトヨタ自動車は警戒感を抱いた。トヨタは1989年に自社の広瀬工場(ICの製造拠点)を新設することで、電子部品領域におけるデンソーへの過度な依存を回避しようとした。
決断
トヨタとの緊張関係の中でエレクトロニクスと海外事業を拡大
トヨタによる広瀬工場の新設は、デンソーのエレクトロニクス分野への進出を牽制する動きであった。親会社と部品メーカーの間で事業領域をめぐる緊張関係が生じたが、デンソーは1兆円計画の方針を堅持してエレクトロニクス分野への投資を継続した。結果として2020年にトヨタは広瀬工場をデンソーに譲渡しており、電子部品事業の集約という判断は、トヨタ自身が当初の方針を修正したことを意味する。
1兆円計画で掲げた3つの方針は、その後のデンソーの成長の方向性を規定した。トヨタ以外の顧客開拓は部品メーカーとしての汎用性を高め、海外進出は北米・アジアでの生産体制の構築につながった。ただし、2020年代においてもデンソーの売上の約50%をトヨタ自動車向けが占める構造は変化しておらず、トヨタ依存からの脱却という課題は40年を経ても未達のままである。