重要な意思決定
1991

営業利益を賞与で還元

背景

高い営業利益率を人件費に還元する創業者の思想

キーエンスの給与体系は創業者・滝崎武光氏の経営思想に基づいている。滝崎氏は「事業家の第一の条件は、総資産をうまく使って高い利益を上げることであり、社員に対して付加価値の低い仕事しか与えられないのは事業家として最悪だ」と述べている。仕事のやりがいと同等以上に、給与として数字で還元することにこだわった経営姿勢であった。

この思想を制度として具現化したのが、創業3年目から運用を開始した営業利益ベースの給与体系である。具体的には「営業利益の一部から半分を毎月の給与に加算し、残り半分を積み立てて賞与に加算するルール」を策定した。社員の基本給は相対的に低く設定される一方で、業績連動の賞与が報酬の大きな部分を占める構造であり、営業利益率の高さが直接的に社員の報酬水準に反映される仕組みであった。

決断

営業利益連動による高報酬と人材獲得の循環構造

1991年時点でキーエンスの社員の平均年齢は28歳であり、30歳を超えた社員には年収約1000万円の水準を提示していた。滝崎氏は「将来は株価だけではなく、給与も日本一にしたい」と語っており、高い報酬水準を人材獲得の競争力として位置づけていた。メーカーとしてはトップクラスの給与を支払うことで、優秀な人材の採用と定着を図る構造であった。

この給与体系は、キーエンスの高収益構造と表裏一体の関係にある。営業利益率が高いからこそ高い報酬を支払えるが、高い報酬で獲得した人材が高い付加価値を生み出すことで営業利益率が維持される。利益と報酬の循環構造が、キーエンスの競争力の源泉の一つとなった。

結果

平均年収2000万円の到達と社会的注目

キーエンスの年間平均給与は営業利益に連動してボラティリティが高いが、営業利益率が好調だったFY2018に平均給与2000万円を突破した。コロナ禍で一時1800万円台に下がったものの、業績回復に伴いFY2021には過去最高の2279万円を記録した。平均年齢が若い企業としてこの給与水準は際立っており、メーカーとしては突出した水準であった。

2022年頃にはキーエンスの経営手法を分析する一般書籍が複数出版されるなど、社会的な注目が高まった。営業利益率50%超と平均年収2000万円超という二つの数字が、キーエンスの経営モデルを象徴するものとして広く認知されるに至った。創業3年目に設計された営業利益連動の給与体系が、50年後に「給与日本一のメーカー」という評価を生んだ形である。