重要な意思決定
198710月

大阪証券取引所第2部に株式上場

背景

売上高73億円・経常利益26億円の高収益企業の上場

1987年10月、キーエンスは大阪証券取引所第2部に株式を上場した。上場時点のキーエンスはFY1986で売上高73億円、経常利益26億円という高い収益性を示しており、日本屈指の高収益企業の上場として注目を集めた。公募増資により約209億円の資金調達を実施し、上場前の自己資本比率62.6%は上場後に90.3%へと急上昇した。

上場に際しての資本政策は、創業者の滝崎武光氏の持分維持を重視したものであった。1989年3月時点で滝崎氏が個人で25.69%、資産管理会社の(株)ティ・ティが18.84%を保有しており、滝崎家として合計約45%の株式を保持していた。上場前の増資にあたって希薄化を最小限に抑える設計がなされており、創業者が上場後も高い保有比率を維持する資本構造が意図的に構築された。

決断

上場後の公募増資による財務基盤の強化

キーエンスは上場後も追加の資金調達を実施した。1989年に176億円、1991年に216億円の公募増資を行い、上場時と合わせて計601億円の資金を株式市場から調達した。これらの調達により自己資本比率は90%超という極めて高い水準に達し、無借金に近い財務体質が確立された。

キーエンスのビジネスモデルはファブレスかつ直販体制であり、大規模な設備投資を必要としない。このため、調達した資金は研究開発と営業体制の強化に充当されたと推察される。大規模な借入や社債発行を必要としない収益構造と、公募増資による自己資本の積み上げが、キーエンス独自の財務基盤を形成した。

結果

株価上昇と創業者の資産拡大

高収益体質と高い創業者持分という二つの要素が組み合わさったことで、キーエンスの株価上昇は創業者の資産を直接的に押し上げる構造が生まれた。滝崎家が約45%を保有する中で株価が上昇し続けたため、滝崎氏の個人資産は株価に連動して拡大した。2021年には滝崎氏の資産が4.2兆円に達し、ファーストリテイリングの柳井正氏やソフトバンクグループの孫正義氏を抑えて日本一の資産家となった。

この結果は、上場時の資本政策における希薄化抑制の設計が長期的に大きな意味を持ったことを示している。上場によって調達した601億円の資金は財務基盤を盤石にし、創業者の高い持分比率は株価上昇の恩恵を最大化した。高収益企業の上場における資本政策の設計が、創業者の資産形成と企業の財務体質の双方を規定した事例である。