価格改定による増益
原材料・物流費の同時上昇がROIC維持の制約要因に浮上
2019年以降、味の素は投下資本利益率(ROIC)を中核指標とする経営へと移行し、事業別に資本コストとの比較を行う管理体制を整備していた。固定資産や在庫の水準がROICに直接影響するため、事業の継続可否を含めた見直しが常態化しており、利益率と売上成長の両立が資本効率維持の条件として整理されていた。
2022年後半から2023年にかけて、原材料価格、エネルギー費、物流費が同時に上昇した。とうもろこしや油脂などの主要原料に加え包材費や輸送費も増加し、事業全体のコスト構造に影響が及んでいた。従来の効率化や調達条件の調整では吸収が難しく、利益率の低下がROICを押し下げる要因となっていた。
ROIC維持を前提に複数回の価格改定を実施
味の素は企業努力の範囲を超えるコスト上昇であると表明し、2023年に家庭用・業務用の双方で複数回の価格改定を実施した。家庭用ではうま味調味料や加工食品、業務用では調味料や加工食材を対象に製品群ごとに改定幅が設定された。価格改定は短期的な損益改善手段にとどまらず、投下資本に対するリターンを回復させる手段として位置づけられていた。
消費者向け企業にとって価格引き上げは販売数量減少のリスクを伴うが、ROIC経営下では利益率の低下による資本効率悪化がより大きな経営課題として認識されていた。
価格転嫁がコスト増を上回り増収増益とROIC改善を同時に達成
2023年度、味の素は価格改定の効果を売上高に反映させ、家庭用・業務用の双方で単価が上昇したことで増収を達成した。利益面では価格転嫁がコスト増を上回り、営業利益は前年を上回った。結果として投下資本に対する利益水準が改善しROICの回復につながった。
2023年の価格改定は原材料高騰への対応にとどまらず、ROIC経営を前提とした資本効率の改善策として機能した事例と整理できる。消費者反応よりも資本リターンの維持を優先した判断は、希望退職や事業売却と同様にROICを基準とする意思決定の一環であった。