重要な意思決定
201911月

希望退職者を募集

背景

ROIC経営への転換局面で固定費構造の見直しが課題に浮上

2019年11月、味の素は50歳以上の管理職を対象とした「特別転進支援施策」を発表した。募集人数は約100名、退職金への特別加算に加え再就職支援を含む内容であった。当時の味の素は経営危機にあったわけではなく、2020年3月期の売上高は1兆円規模で事業利益も高水準を維持していた。黒字下での希望退職実施は市場に驚きをもって受け止められた。

しかしこの施策は単なる人員削減ではなく、2019年に導入されたROICを軸とする経営管理への転換と並行して実施されていた。投下資本と収益の関係を事業単位で可視化する取り組みが進む中で、人件費を含む固定費構造もその見直し対象に含まれていた。

決断

管理職層の固定費比率を引き下げ資本効率改善の基盤を整備

対象が「50歳以上の管理職」に限定された点は、人員の総量削減よりも組織構成とコスト配分の調整を主眼とした判断であった。管理職層は固定費比率が高くROICを押し下げやすい要素となる。黒字である段階で人員構成を見直すことは、将来の収益性と資本効率を優先した選択であった。

募集期間を経て144名が応募し、味の素は2020年3月期に約65億円の費用を計上した。短期的な損益悪化を許容してでも固定費構造を見直し、ROIC改善につなげる姿勢が明確に示された施策であった。

結果

ROIC経営下における固定費管理の先行事例として位置づけ

希望退職の実施により管理職層の人件費は縮減され、固定費構造の見直しが進んだ。約65億円の費用は一時的に利益を圧迫したが業績予想には織り込み済みとされ、中長期的な資本効率改善のための先行投資として位置づけられた。

この施策は後年の価格改定や資産圧縮と同様に、利益の絶対額ではなく投下資本に対する収益性を基準とした経営判断の初期段階に位置づけられる。黒字下で人員構成を見直すという判断は、ROIC経営が損益管理だけでなくコスト構造の再設計まで含む枠組みであることを示す事例となった。