油脂事業をJ-オイルミルズに移管
国内油脂市場の供給過剰と原料リスクが事業継続の合理性を問う
1990年代後半、国内の油脂需要は家庭用を中心に伸び悩み、業務用が下支えする形で横ばいに近い状況が続いていた。一方で供給側はメーカー数が多く設備能力も高水準にあったため、需給は緩みやすく収益性は構造的に圧迫されていた。原料の多くを海外に依存する油脂事業は為替や国際市況の変動に左右されやすく、安定的な利益確保が難しい事業環境に置かれていた。
味の素は油脂事業を単独で維持することによる投下資本効率の低下と、将来的な成長余地の限定性を認識するようになった。市場シェアの分散、設備過剰、原料リスクという複数の課題が重なり、事業ポートフォリオ全体の中で油脂事業の位置づけを見直す局面に入っていた。
段階的な分社化と水平統合によりJ-オイルミルズを発足
味の素は油脂事業の分社化と業界再編を段階的に進める判断を下した。1999年に油脂生産部門を統合して味の素製油を設立し、2001年には油脂事業機能を同社に集約した。その後2002年にホーネンコーポレーションとの経営統合を行い、2003年には吉原製油が加わってJ-オイルミルズが発足した。
競合関係にあった企業同士を水平統合することで、重複設備の整理、原料調達の効率化、販売網の統合が進められた。味の素にとっては油脂事業を切り離すことで事業撤退に近い意思決定を行いつつ、J-オイルミルズの株主として関与を継続する形をとった。
事業切り離しが投下資本の再配分とポートフォリオ見直しの先例に
J-オイルミルズの発足により国内油脂市場のシェアは集約され、価格競争に陥りやすい構造からの転換が図られた。統合によるスケールメリットは原料調達と物流面で効果を発揮し、業界全体の収益構造改善に寄与した。
味の素にとってこの判断は、収益性の低い事業から投下資本を引き揚げ、成長余地のある分野へ再配分するための転機となった。油脂事業の分離は後年のROIC経営導入に先立つ事業ポートフォリオ見直しの初期事例であり、事業を「持ち続けるか手放すか」という判断を実行した点に意味があった。