重要な意思決定
2011

EUV検査装置の開発決断

背景

半導体微細化の限界とEUVリソグラフィの浮上

半導体の微細化はムーアの法則に沿って進展してきたが、2000年代後半には従来のArF(フッ化アルゴン)光源を用いたリソグラフィ技術が物理的な限界に近づいていた。回路線幅がArF光源の波長(193nm)を大きく下回るようになり、多重露光などの技術的な回避策は製造コストの上昇を招いていた。次世代のリソグラフィ技術として、波長13.5nmのEUV(極端紫外線)光源が有力視されていた。

EUVリソグラフィの実用化にあたっては、マスク(回路パターンの原版)の品質管理が決定的に重要であった。EUVはArFとは異なり、光を透過させるのではなく反射させる光学系を用いる。そのため従来の透過型マスク検査装置では原理的に対応できず、EUV光源そのものを使った新しい検査装置が必要であった。しかし波長13.5nmという極端に短い光を扱う検査装置は、世界のどの装置メーカーも開発に至っていなかった。

EUV技術の実用化には懐疑的な見方も根強かった。光源の出力不足、真空環境の維持、多層膜反射鏡の精度など技術的な課題が山積しており、業界内では「EUVの時代が本当に来るのか」と疑う声もあった(出所:日興フロッギー 2024年4月17日)。しかし半導体の微細化が今後も続くのであれば、いずれEUVリソグラフィは量産に適用され、それに伴って検査装置への需要は確実に生まれる。問題はそれを誰が、いつ開発するかであった。

決断

NEDO国家プロジェクトへの参加とEUV独自開発

2011年、レーザーテックは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の国家プロジェクトに参加し、EUV光源を用いた検査装置の独自開発に着手した。当時の同社は従業員100人程度、売上高118億円の中堅企業であり、数十億円規模の研究開発投資は経営に対する大きなリスクであった。FPD事業を縮小し半導体に集中する方針を打ち出した直後であり、その集中戦略の帰結として最も困難なテーマに踏み込んだ。

開発の起点には、半導体メーカーとの関係構築があった。岡林社長が推進したマーケットインの営業活動を通じて、顧客の半導体メーカーから次世代検査装置への要望を直接聞き取っていた。エンジニアが営業と一緒に顧客の製造現場を訪問する体制が定着しており、技術的な課題を現場レベルで共有できる関係が構築されていた。顧客との信頼関係の中で、半導体メーカー側から「レーザーテックならできるのではないか」という声が寄せられたことが開発を後押しした(出所:日興フロッギー 2024年4月24日)。

EUV光源は従来の光学系とは根本的に異なる技術体系を必要とし、真空環境下での光学設計、多層膜反射鏡の精密な制御、極めて微弱な光の検出など、未踏の技術課題が連続していた。EUV光は大気中の酸素や窒素に吸収されるため、装置内部を真空に保つ必要があり、光学系の設計自体が従来とは全く異なるアプローチを要求された。レーザーテックは1976年のフォトマスク検査装置以来培ってきた光応用技術と検査アルゴリズムの蓄積を基盤としつつ、6年にわたる開発を継続した。

結果

世界初のEUV検査装置完成、シェア100%

2017年3月、レーザーテックはEUVマスクブランクス欠陥検査/レビュー装置「ABICS E120」の開発に世界で初めて成功した。EUV光(波長13.5nm)を用いて、マスクブランクス(回路パターンを転写する前の原版基板)の微細な欠陥を検出する装置であり、最先端半導体の量産に不可欠な検査工程を担う。2018年には日刊工業新聞社の「十大新製品賞『日本力賞』」を受賞した。

2019年6月には、さらに発展させたアクティニックEUVパターンマスク欠陥検査装置「ACTIS A150」を開発した。回路パターンが形成された後のマスクを検査する装置であり、ABICS E120とともにEUVマスク検査の全工程をカバーする製品ラインナップが完成した。2020年には「グローバルニッチトップ企業100選」に選定され、2023年にはACTIS次世代機「A300」シリーズも発表された。

EUVマスク検査装置の市場において、レーザーテックの世界シェアは100%を維持している。他社は同等の装置の開発に至っておらず、TSMC・サムスン電子・インテルの3大半導体メーカーはすべてレーザーテックの装置を採用している。従業員100人規模の中堅企業が、半導体産業のサプライチェーン上で代替不可能な位置を占めるに至った。この事実は、「世の中にないものをつくる」という創業以来の理念が、最先端技術領域で実現された帰結であった。