重要な意思決定
1986

冷凍食品の家庭向けマーケティングを本格化

背景

家庭向け冷凍食品は成長市場だが価格競争と差別化の課題を内包

1980年代半ば、共働き世帯や単身世帯の増加により家庭内調理の簡便化が進み、冷凍食品は家庭向け市場の拡大余地が意識されていた。保存性と調理時間短縮の点で冷凍食品は適合度が高かったが、業務用の延長という印象が強く、家庭用では用途や利用シーンが十分に整理されていなかった。

ニチレイにおいても冷凍食品は成長分野として期待されていたが、利益率や差別化の面では課題を抱えていた。冷凍という特性上、保存が利くため回転率が上がりにくく、小売現場では特売の対象になりやすい。単価が下がり、競合参入が進むほど価格競争が激化する構造を内包していた。

量的拡大と収益性の両立が難しい市場であることは認識されていたが、1985年の商号変更によって食品会社としての認知を再構築した以上、家庭向け冷凍食品での存在感確立が経営上の必然として求められていた。

決断

生活シーンに即した商品設計とテレビCMによる認知拡大への本格投資

1985年の商号変更を契機に、ニチレイは家庭向け冷凍食品のマーケティングを本格化させた。冷凍食品を「いつでも使える日常食」と再定義し、生活者の時間軸に合わせた商品設計を進めた。1985年には「24hr.」シリーズを投入し、時間帯や利用シーンを明示する形で冷凍食品の用途を提示した。

1986年にはお弁当向け家庭用冷凍食品を展開し、1989年には業務用で実績のあった「原宿ドッグ」を家庭向けに転用してテレビCMも活用した。商品開発と広告を組み合わせ、冷凍食品を家庭の食卓に定着させる戦略であった。1994年には電子レンジ専用コロッケを投入し、調理行動そのものに踏み込んだ商品設計も行われた。

これらの施策は、冷凍食品を「業務用の延長」から「家庭の日常食」へ位置づけ直す投資であり、商品開発・広告・チャネル戦略を一体で展開した点に特徴があった。

結果

冷凍食品売上は1000億円規模に達したが差別化不足が課題として残存

一連の施策によりニチレイは冷凍食品で複数のヒット商品を生み出し、生産体制も拡充された。1970年代以降に進めてきた工場集約と設備投資の成果が表れ、1990年代初頭には冷凍食品売上が1,000億円規模に到達した。家庭向け市場での存在感は明確に高まった。

しかし同時に、競合各社も冷凍食品に注力し価格競争は一段と激化した。保存性の高さゆえに在庫調整が容易で、特売による値下げが常態化した。シェアは伸びても収益は伸びにくい状況が続き、差別化の難しさが浮き彫りになった。

後年、当時の手島社長は「知名度向上に比べ、自社が何を提供する会社かを伝える努力が不足していた」と振り返っている。家庭向け冷凍食品への集中投資は売上成長をもたらしたが、「ニチレイだから選ぶ」という購買理由の構築は十分には達成されなかった。