グローバルビジョン2030を策定
長年の海外浸透活動がコロナ禍で可視化された需要基盤
キッコーマンは北米・欧州を中心に、長年にわたり現地の食文化に寄り添う形で醤油の普及に取り組んできた。単なる日本食向け調味料ではなく、肉料理や家庭料理への活用を想定したレシピ提案を地道に積み重ね、醤油を「使いこなせる調味料」として現地の食卓に浸透させていった。この活動は短期的な売上拡大を目的とするものではなく、消費習慣への定着を重視した取り組みであった。
こうした蓄積はコロナ禍において一気に可視化された。外食機会が制限され家庭内調理が増加する中で、海外の消費者がレシピサイトやオンライン情報を通じて醤油を取り入れ、現地料理との融合が進んだ。長年の普及活動によって形成された需要基盤が、外部環境の変化を契機に顔在化した形であった。
醤油をグローバル調味料として定着させる長期ビジョンの策定
こうした成果と環境変化を踏まえ、キッコーマンは2018年に「グローバルビジョン2030」を策定した。中心理念は「新しい価値創造への挑戦」であり、醤油をグローバル・スタンダードの調味料として定着させること、食を通じて世界中に価値を提供する企業であり続けることが明確に打ち出された。
このビジョンは経営陣だけでなく現場の社員と共有することが重視された。海外市場での成長は、個々の現場での提案力や粘り強い活動の積み重ねによって支えられてきたとの認識からであった。人材・技術・キャッシュフローを長期視点で活用し、地域ごとに価値を創出する体制を整えることで、2030年に向けた持続的成長の方向性が定められた。
北米新工場建設を含む増産投資と海外事業の拡大加速
グローバルビジョン2030の策定以降、キッコーマンは海外醤油事業の供給体制強化を加速させた。北米では需要拡大に対応するための新工場建設が計画され、中期経営計画では海外向けに1200億円規模の設備投資が掲げられた。醤油の消費がアジアや欧州でも広がる中、現地生産体制の拡充が成長戦略の中核に位置づけられた。
一方で、国内事業については付加価値の高い製品へのシフトと生産性向上が課題として残された。海外事業が収益の柱として確立される中、国内事業の相対的な低収益性は構造的な課題であり続けた。グローバルビジョン2030は、海外市場の成長を前提とした長期方針を明文化した点に意義があるが、国内事業の拜本的な再設計は引き続きの経営課題として残されている。