重要な意思決定
20064月

焼酎事業をサッポロビールに譲渡

背景

焼酎ブームを前提とした120億円の設備投資判断

1990年代半ば、国内では焼酎需要が拡大し、酒類市場の中で成長カテゴリーとして注目されていた。キッコーマンは酒類事業の多角化を進める中でこの流れを取り込む判断を行い、1996年に焼酎、合成清酒、梅酒の生産設備への投資を決定した。投資額は約120億円に及び、群馬県尾島町に酒造プラントを新設して従来の流山プラントから生産機能を移管した。

この投資は需要の持続と量的拡大を前提としたものであり、規模拡大によるコスト低減と安定供給を狙った判断であった。しかしその後の市場環境は想定通りには推移せず、焼酎ブームは一過性に終息した。需要の伸びが鈍化する中、設備投資に伴う固定費負担が事業収益を圧迫し、焼酎事業はポートフォリオの中で低収益な位置づけとなっていった。

決断

焼酎事業のサッポロビールへの売却と経営資源の再配分

業績の低迷を受けて、キッコーマンは焼酎事業の継続可否を検討し、2006年4月にサッポロビールへの事業譲渡を決定した。譲渡対象には焼酎・合成清酒・リキュール類・スピリッツの製造事業が含まれ、尾島製造部の敷地・建物・製造設備も売却対象となった。従業員約40名はサッポロビールへ転籍した。

この決断に先立ち、2004年3月期には群馬県の事業用資産について約15億円の特別損失が計上されており、1996年の投下資本に対する未回収の損失が確定していた。キッコーマンは焼酎事業を切り離す一方、酒類分野ではみりんやワインに注力し、全社としては海外醤油事業と国内調味料事業への経営資源集中を明確にした。

結果

一過性の需要拡大を前提とした投資判断が残した教訓

焼酎事業への参入と撤退の経緯は、成長市場への参入判断が需要予測に強く依存するリスクを示している。120億円の設備投資と15億円の特別損失は、市場の一過性と構造的な成長を見分けることの困難さを反映していた。焼酎市場では九州系メーカーが産地性やブランドの蓄積で優位に立っており、大手資本による後発参入では短期間で覆しにくい競争構造が存在していた。

一方、焼酎事業からの撤退は、不採算事業を抱え続けずに売却へ踏み切る判断として、キッコーマンのポートフォリオ管理における一つの転機となった。海外醤油事業という明確な成長の柱を持つ企業にとって、国内の低収益事業に経営資源を分散させることの非合理性が認識され、以降の事業戦略において選択と集中の方針が強化されていった。