パナソニックHDに商号変更・事業会社制に移行
カンパニー制の限界と事業別損益の不透明さ
2021年6月、楠見雄規氏が代表取締役社長に就任した。従来のカンパニー制のもとでは本社が数値目標や重要判断を主導する体制がとられていたが、事業特性に必ずしも精通しない本社部門からの目標設定が現場の機動性を損ない、責任の所在を曖昧にしているとの問題意識が示された。
2022年3月期の連結売上高は7兆3,887億円、当期純利益は2,553億円と黒字を維持していたが、事業ごとの収益力や資本効率は外部から見えにくい構造が続いていた。どの事業が稼ぎ、どの事業が資本コストを下回っているかを可視化し、選択と集中の判断を可能にする体制への転換が求められていた。
持株会社制に移行し8社の事業会社を設立
2022年4月、パナソニックは商号を「パナソニックホールディングス」に変更し、純粋持株会社体制へ移行した。傘下に8社の事業会社を設立し、エナジー、オートモーティブ、空調、ホームアプライアンスなどの事業をそれぞれの会社に承継させた。制度上は持株会社制だが、事業を中心に据える思想から「事業会社制」と呼称している。
事業会社制の目的は、事業責任者への権限移譲と自主責任経営の徹底にあった。数値目標の設定や投資判断を各事業会社に委ねることで、外部環境の変化に応じた迅速な意思決定を可能にする。同時に事業別の損益を丸裸にすることで、不採算事業の売却判断を組織的に実行できる仕組みを整えた。
移行翌年にオートモーティブ売却を決定
事業会社制への移行後、2021年から2年間は収益改善を優先し大規模な事業売却は抑制されたが、2023年にはオートモーティブシステムの売却を決定した。移行からわずか1年半での大型売却は、事業別損益の可視化が選択と集中の判断を加速させた証左といえる。
1933年の事業部制導入から89年を経て、パナソニックは再び分権経営に回帰した。事業部制→カンパニー制→事業会社制という変遷は、集権と分権の振り子運動の一局面であるが、持株会社化により事業の切り出しや統合が制度的に容易になった点が過去の分権とは異なる。その成果は各事業会社の成長力と資本効率の改善にどこまで結びつくかで評価される。