重要な意思決定
19902月

米MCAを買収

背景

VHS勝利後のハード・ソフト統合構想

1970年代後半から1980年代にかけて、家庭用ビデオ市場ではソニーのベータマックスと松下・日本ビクター陣営のVHSが規格競争を繰り広げた。最終的にVHSが世界標準を獲得したが、この過程でハードウェアの優位だけでは長期的な収益確保が困難であるという教訓が残った。映像産業においてはコンテンツを握る側が強い影響力を持つ構造が鮮明になりつつあった。

1989年にはソニーが米コロンビア・ピクチャーズを買収し、ハードとソフトの統合戦略を打ち出した。AV機器で世界的シェアを持つ松下電器にとっても、映画・音楽といったコンテンツを自社グループに取り込むことが戦略課題として浮上していた。規格競争の次は、ソフトを誰が押さえるかという局面に移行していた。

決断

61億ドルで米MCAを買収

1990年11月、松下電器は米エンターテインメント大手MCAを約61億ドルで買収した。映画会社ユニバーサル・ピクチャーズや音楽事業を擁するMCAを傘下に収め、映像機器とコンテンツの両輪をグループ内に統合する構想であった。当時の日本企業による海外買収としては最大級の規模であり、国際的な注目を集めた。

買収の狙いはハードで築いた販売基盤の上にコンテンツを重ねることで、映像時代の主導権を確保する点にあった。ソニーのコロンビア買収に対抗する意味合いも含まれていた。しかしヒットへの依存度が高い創作ビジネスは、量産・コスト管理を得意とする製造業とは本質的に異なるリスク構造を抱えていた。

結果

5年で株式売却、バブル期M&Aの象徴に

買収後、日米の企業文化の差異や経営手法の違いが顕在化し、期待したシナジーは発揮されなかった。映像ソフトの収益は作品ごとの興行成績に左右され、ビデオ規格競争の勝敗とは直接的に連動しなかった。ハードの世界シェアが高くとも、コンテンツ事業の安定化は容易ではなかった。

1995年、松下電器はMCA株式の大半を売却し事実上撤退した。売却に伴い損失を計上し、巨額海外買収の難しさを示す結果となった。この経緯は1980年代後半の過熱したM&Aとバブル崩壊を象徴する事例として語られることになり、松下電器の経営史においても大きな転換点の一つとなった。