重要な意思決定
自転車用ランプの製造販売を開始
背景
電池式ランプの寿命問題に着眼
松下幸之助は起業以前に自転車店で丁稚奉公を経験しており、夜間走行時の照明が実用に耐えない現状を把握していた。当時の主流はガスランプで、電池式ランプも存在したが寿命は2〜3時間程度にとどまり、長時間の使用には適さなかった。配線器具で事業基盤を築いた松下は、次なる製品として自転車用ランプに着目する。既存製品の不便さを解消すれば市場を切り拓けるという発想であった。
改良開発に着手した松下は、約半年間で100個前後の試作品を制作した。構造や電池の消耗特性を検証しながら改良を重ね、30〜50時間持続する砲弾型ランプの試作に到達した。従来製品の10倍以上の寿命であり、実用性において決定的な差を生む水準であった。
決断
無償提供で販路を切り拓く
1923年3月、松下電器は自転車用ランプの製造販売を開始した。しかし当時の松下は小規模事業者であり、問屋や自転車店は無名メーカーの新製品の取り扱いに慎重であった。そこで松下は小売店に2〜3個のランプを無償で配り、実際に点灯させて性能を確かめてもらう販促策を実行した。製品を語らせるのではなく、製品に語らせる手法であった。
2〜3か月の無償提供を通じて性能への信頼が広がり、受注は徐々に拡大した。以後、1920年代を通じて大阪市内に量産工場を相次いで新設し、コスト低減と供給能力の拡大を両立させた。自転車用ランプは松下電器の業容拡大に最も寄与した基幹製品となり、後の事業多角化を支える資金基盤を形成した。