重要な意思決定
20224月

インドEscortsを買収

背景

インドに自力進出するも現地ニーズとの乖離でシェア2%に低迷

2008年にクボタはインドに現地法人を設立し、インド市場における販売を本格化させた。インドは北部の畑作と南部の稲作に市場が二分されており、クボタは得意とする稲作が中心の南部から販売を拡大する計画を立てた。軽量かつコンパクトなトラクターを市場投入し、南部での販売拡大を狙った。

ところが2010年代を通じてクボタはインド市場での販売に苦戦した。主因はクボタが現地のニーズを汲み取れなかったことにあった。インドではトラクターを農作業だけでなく荷物の牽引機としても利用しており、クボタのトラクターは牽引力のニーズを満たすことができなかった。加えて、販売量が少ないため現地生産に踏み切れず、タイからトラクターを輸入しており、コスト面でも現地メーカーに劣後した。

この結果、インドの農家は現地メーカー「マヒンドラ&マヒンドラ(M&M)」のトラクターを選択し、2021年頃のクボタのインドにおけるシェアは2%に低迷した。M&Mはインド国内シェア約40%(2023年時点)を確保する1位企業であり、2015年には三菱農機と提携して日本市場にも進出するなど、グローバル展開を志向していた。

決断

自力進出を断念しEscorts社を1,950億円で買収

2022年4月にクボタはインドの農機メーカーEscorts社(エスコーツ社)の株式44.8%を取得した。取得対価は1,950億円であり、クボタとしては大型買収となった。買収に伴い「のれん」1,390億円を計上している。出資比率は50%未満であったが、役員を派遣することでEscortsを連結子会社化した。

Escortsの買収は、クボタが自力でのインド市場攻略を断念した判断を意味する。自社製品ではインドの農家が求める牽引力と価格帯に対応できず、現地生産に不可欠な部品サプライチェーンも自前で構築できなかった。Escortsは機能と価格を抑えた新興国向けの「ベーシックトラクター」の製造開発に強みを持ち、クボタが自力で埋められなかった製品ギャップを補完する存在であった。

買収後のEscortsについては、最高経営責任者にEscorts創業家出身のNikhil Nanda氏を続投させる体制をとった。クボタは経営権を取得しつつも、現地の経営ノウハウと顧客基盤を維持する方針を選択した。

結果

シェア2%から12%に拡大し2030年にシェア24%を目標設定

Escortsの買収によって、クボタのインドにおけるシェアは約2%から約12%に拡大した。Escortsはインドのトラクター市場でシェア4位の企業であり、買収によって一挙にシェアを6倍に引き上げた。

クボタはEscortsの買収後も積極投資を実施し、「2030年までにインドにおけるシェア24%」を確保する経営目標を発表した。2024年8月にはインド現地法人3社を統合し、クボタグループとしてのインド事業の一体運営を進めた。さらにインドを生産拠点として、欧州やアフリカなど新市場向けにベーシックトラクターを輸出する戦略を打ち出した。

インド市場でのクボタの経緯は、先進国向け製品をそのまま新興国に持ち込む参入手法の限界を示している。軽量コンパクトというクボタの強みは、トラクターに牽引力を求めるインドの用途と合致せず、タイからの輸入によるコスト高も加わって、約14年にわたって市場浸透が進まなかった。最終的に現地メーカーの買収によってシェアを確保した展開は、製品開発を自社で完結する自前主義からの転換を意味するものであった。