草加第1工場を新設・即納体制を拡充
技術的差別化が難しい空気圧機器で即納を付加価値に据える
空気圧制御機器は顧客の生産ラインに直結する重要部品でありながら、技術的な差別化が難しい製品領域であった。各メーカーの製品性能に大きな差がつきにくい一方、工場の自動化が進むにつれて必要な品目数は数万から数十万単位に膨らみ、顧客は多品種の部品を迅速に調達する必要に迫られた。技術で差がつかないのであれば、多品種をいかに早く届けるかが競争の軸になるという構図が生まれつつあった。
しかし多品種の即納は一筋縄では実現しない。品目ごとに需要の波があり、すべてを完成品として在庫に持てば過剰在庫のリスクが膨らむ。かといって受注後に一から製造すれば納期が長期化する。この二律背反を解くには、製造と販売を一体化させ在庫のリスクを自ら引き受ける仕組みの構築が不可欠であった。SMCはこの課題に対して、BSにおける在庫リスクの負担と引き換えにPLの収益を確保するという方針を明確にした。
5000種類の基本形を在庫保持し48時間以内の即納体制を構築
1968年に草加工場を新設したのを皮切りに、1980年代までに関東圏に複数の工場を増設した。SMCは最終製品に加工される5000種類の基本形を工場内で在庫として保持し、営業所からFAXで受注が届き次第、基本形を加工して数十万種類の最終製品を生産する方式を採用した。完成品ではなく基本形の段階で在庫を持つことで、在庫品目数を絞りつつ最終製品のバリエーションに対応する仕組みであった。
需要予測には数学専攻の社員を専任で配置し、統計学に基づいて5000種類の基本形の在庫水準を算定した。1983年にはオンライン受発注システムを稼働させ、生産・販売・物流をコンピュータで一元管理する体制を整えた。営業所の発注データが工場にリアルタイムで連携され、在庫状況を踏まえて生産の優先順位が決まる仕組みである。この一連の体制により、受注から顧客への納入まで平均48時間以内という即納が実現した。
在庫リスクを引き受けることで即納メーカーとしての地位を確立
48時間以内の納入という実績は、SMCを「即納を保証するメーカー」として位置づけた。顧客にとって空気圧機器の調達先を選ぶ基準は、製品の性能差が小さい以上、納期と品揃えに集約される。SMCがこの両面で他社を上回ったことで、一度取引を開始した顧客が競合に乗り換える理由が乏しくなり、顧客基盤が安定的に積み上がる構造が形成された。
この即納体制はBSにおける棚卸資産の増大を伴うものであった。しかしSMCは在庫リスクを許容する代わりに高い利益率を確保するという方針を貫き、在庫保持型のビジネスモデルを構造的な競争優位に転換した。数学的手法に基づく需要予測と生産管理の精度がこの判断を支えており、単に在庫を積み増すのではなく科学的な裏付けの下に在庫水準をコントロールする運営体制が両立の鍵となった。