重要な意思決定
家庭用ビデオカセットレコーダー・ベータマックス「SL-6300」発売
背景
次世代の家電製品としてビデオ規格の主導権を争う
ラジオ、カラーテレビに続く家庭用電機製品として、1970年代にはビデオカセットレコーダーの市場が立ち上がろうとしていた。ソニーは1975年にベータマックス規格を採用した家庭用VTR「SL-6300」を発売し、業界標準の確立を目指した。競合他社にもベータマックス規格の採用を呼びかけたが、松下電器とその子会社である日本ビクターは「VHS」方式を提唱し、規格は二つの陣営に分裂した。
1980年代を通じて「ビデオ戦争」と呼ばれる規格競争が続いたが、日本ビクターがOEM供給と長時間録画対応によって他社の採用を広げたのに対し、ソニーは仲間づくりで後れを取った。1988年頃にソニーはVHS方式の併売を開始し、規格競争での劣勢を事実上認める形となった。
決断
ハードウェアからコンテンツへと競争軸を転換
ベータマックスの規格競争における劣勢は、ソニーの経営戦略に構造的な転換をもたらした。ハードウェアの性能だけでは規格の主導権を握れないという教訓から、映像コンテンツの確保を競争の軸に加える方針が生まれた。規格の優劣は技術的な性能ではなく、コンテンツの供給量とファミリー企業の数で決まるという認識が経営層に浸透していった。
この戦略転換が、1989年のコロンビア・ピクチャーズ買収の布石となる。ソニーは映画スタジオを傘下に収めることで、ハードウェアとソフトウェアを一体的に提供する事業モデルへの移行を模索し始めた。ベータマックスでの規格競争の経験は、ソニーが純粋なエレクトロニクスメーカーからエンタテインメント企業へと変貌する出発点であった。