重要な意思決定
20206月

AB InBev社の豪州事業を買収

背景

豪州市場への段階的参入とABインベブの資産売却

アサヒグループHDは2009年以降、買収を通じて豪州酒類市場に段階的に参入してきた。プレミアムビールやRTDを中心とした展開で一定の収益基盤を築いたものの、事業規模は限定的であり、欧州事業と比較するとEBITDA水準には差があった。

一方、世界最大手のABインベブは2016年のSABMiller買収後に巨額の負債を抱え、資産売却による財務改善を迫られていた。欧州事業をアサヒに売却した流れに続き、豪州事業も売却対象となった。豪州ビール市場は成熟市場ながら業務用を中心に高い収益性を持ち、アサヒにとっては規模拡大の好機が浮上していた。

ABインベブが財務上の制約から売却を急ぐ状況は、買い手であるアサヒに交渉上の優位性を与えた。売り手の事情を背景に、高収益事業を一括取得できる条件が整っていた。

決断

CUB事業を約1.17兆円で取得し三極体制を確立

2020年6月、アサヒグループHDはABインベブが保有する豪州事業Carlton & United Breweries(CUB)の買収を完了した。取得額は約1.17兆円に達し、同社にとって欧州買収に並ぶ規模の海外M&Aとなった。CUBは豪州ビール市場で約5割のシェアを持ち、業務用に強固な販売網を有していた。

買収の狙いは、日本・欧州・豪州の三極体制を明確化し、豪州事業を欧州事業と同水準の収益基盤へ引き上げる点にあった。既存のAsahi Premium BeveragesとCUB事業を統合し、新たなCarlton & United Breweriesとして一体運営を開始した。

スーパープレミアムからメインストリームまでを網羅するブランドポートフォリオが構築され、Carlton Draught、Victoria Bitter、Great NorthernにAsahi Super DryやPeroniを加えた価格帯横断の展開が可能となった。

結果

グローバル三極体制の完成と収益基盤の拡充

2020年内に豪州酒類事業の統合が完了し、生産・物流拠点の最適化、調達の共同化、間接業務の統合を通じて、5年間で100億円以上のコストシナジーを創出する計画が打ち出された。

豪州事業は欧州と並ぶグローバル収益基盤の一角として位置づけられ、アサヒの海外事業比率を一段と押し上げた。日本・欧州・豪州の三極体制が確立したことで、地域分散による収益の安定性と、プレミアム戦略の相互展開が可能となった。

2016年の欧州買収に続く本件により、アサヒグループHDは国内依存型の収益構造からグローバルプレミアムビールメーカーへの転換を実質的に完了させた。ABインベブの財務的制約を活かし、高収益事業を連続的に取得した戦略は、成熟国内市場を持つ日本の食品メーカーにとっての成長モデルを提示した。