SABMillerの欧州および中東事業を買収
国内市場の成熟とグローバル再編の機会
2000年代以降、日本のビール市場は人口減少と嗜好の多様化を背景に数量成長が見込みにくい局面に入っていた。アサヒグループHDは「スーパードライ」を軸に高い収益性を維持していたが、収益構造の国内依存度は高く、中長期の成長余地に制約があった。
世界のビール業界では大型M&Aによる再編が急速に進展していた。2016年にAnheuser-Busch InBevがSABMillerを買収したことで世界市場の寡占化は一段と進み、量で最大手に対抗することは現実的ではなくなった。中堅メーカーにはプレミアムを軸とした明確なポジショニングが求められていた。
アサヒにとって、数量競争ではなくプレミアムブランドを軸としたグローバル展開が、唯一の現実的な成長戦略として浮上していた。
旧SABMiller欧州事業を総額約1.2兆円で取得
2016年、アサヒグループHDはABインベブによるSABMiller買収に伴い売却対象となった欧州ビール事業の取得を決断した。同年10月にイタリアのPeroni、オランダのGrolschなど西欧事業を取得し、2017年3月にはチェコ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアの中東欧事業の買収を完了した。総投資額は約1.2兆円に達し、日本企業として前例のない規模の海外ビールM&Aであった。
この買収は単なる規模拡大ではなく、プレミアムブランドを軸にした事業基盤の一括取得を目的としていた。Peroni Nastro AzzurroやPilsner Urquellは、それぞれの国で強固なブランド力と高い市場シェアを持ち、価格競争に陥りにくい構造を有していた。
ブランド、人材、販売網を一体で取得することで、自社単独では構築が困難な欧州での事業基盤を一挙に確保する選択が採られた。
欧州における安定収益基盤の確立
買収によりアサヒは、欧州において数量成長に依存しない安定的な収益源を確保した。特に中東欧事業は各国で高い市場シェアを持つローカルブランドを中心に構成され、EBITDAマージンも高水準であった。アサヒの海外売上比率は大幅に上昇し、国内依存からの構造的な脱却が進んだ。
また欧州事業は、単なる収益源にとどまらず、グローバル展開の実験場としての意味合いも持っていた。SABMiller時代に培われたブランドマネジメントのノウハウは、スーパードライの欧州展開や他地域への水平展開を検討する上で重要な蓄積となった。
2016年の欧州買収は、国内成熟市場への依存を転換し、プレミアムビールのグローバル展開に向けた前提条件を整えた一手として位置づけられる。