3D InvestmentがサッポロHDに株主提案
16年前と変わらない不動産依存と低資本効率
2020年代に入って以降、サッポロHDの収益構造は2007年のスティール・パートナーズによる買収提案時と本質的に同じ様相を呈していた。連結利益は一定水準を維持しているものの、不動産事業が安定的にキャッシュフローを生み出す一方、酒類・飲料事業の収益性は相対的に低迷する構図であった。 恵比寿ガーデンプレイスを中核とする不動産事業は賃貸収入を通じてグループを下支えし、連結ベースでの赤字回避を可能にしていた。しかしこの安定が、本業の低収益や事業ポートフォリオの歪みを表面化しにくくする効果をもたらしていた。 投資家の視点からは、事業別の資本効率が問題となる。不動産事業が高いROICで利益を生む一方、酒類・飲料事業は設備投資とマーケティングコストに対して相応のリターンを示せていなかった。グループ全体の資産効率の低さが、スティール撤退後も改善されないまま16年が経過していた。
3D Investmentによる資本配分とガバナンスの問題提起
2023年10月、アクティビストファンド3D Investmentは、サッポロHDに対して株主提案を行った。提案の焦点は短期的な業績改善ではなく、資本配分の歪みとガバナンスの構造にあった。 3Dは不動産事業の存在を否定したわけではない。むしろ不動産が高い価値を持つからこそ、その資産をどう保有・活用し、得られた資金をどこに配分するかという資本政策が企業価値を左右すると指摘した。この論点は、2007年にスティールが提起した「不動産依存の利益構造」と本質的に同じである。 加えて3Dは、不動産の切り離しや資本配分といった不可逆的意思決定を監督する取締役会の専門性と独立性にも疑義を呈した。スティール提案時に買収防衛策の下で議論が長期化した経緯を踏まえ、市場との対話が不十分なままでは企業価値にディスカウントが生じるとの問題提起であった。
繰り返される問いと変わらない構造
3Dの株主提案を受け、サッポロHDは経営改善の検討に着手した。2007年のような敵対的買収局面とは異なるが、問われている論点は共通している。不動産という安定資産の存在が、事業ポートフォリオの再構築や資本効率の改善を先送りさせる構造そのものである。 この構造は短期的には安定をもたらすが、中長期的には企業価値の成長を制約する。市場が評価するのは利益水準だけではなく、どの事業がどれだけの資本を使い、どれだけのリターンを生んでいるかである。資本効率の改善方針が示されなければ、不動産価値を含む企業全体が割り引かれる可能性がある。 2007年のスティールが示したのは「資産をどう使うか」が問われる時代の到来であり、2023年の3Dも同じ問いを突きつけた。16年間で問題提起者は変わったが、問われた論点は変わっていない。不動産収益に依存する構造から脱し、資本配分とガバナンスを通じて資産効率を高められるかが、サッポロHDの次の評価局面を決定づける。