重要な意思決定
20071月

Steel Partnersが買収提案

背景

不動産収益が覆い隠した本業の低収益構造

2000年代のサッポロホールディングスは、収益構造に構造的な歪みを抱えていた。連結営業利益の過半は不動産事業が生み出し、酒類事業がこれを補完する一方、飲料事業と外食事業は低収益あるいは赤字が続いていた。連結では黒字を維持していたが、利益の源泉は恵比寿ガーデンプレイスを中心とする賃貸収入であった。 不動産事業が安定キャッシュフローを供給し続けた結果、飲料・外食など不採算事業の再編は先送りされてきた。資産規模が拡大する中で事業収益の伸びは限定的にとどまり、ROEやROICで同業他社と比較すると、資本効率の低さが目立つ状態が続いた。 この構造は、外部投資家の視点からは明確な改善余地を意味していた。事業価値よりも貸借対照表の規模が先行し、資産の組み替えによって収益性を引き上げる余地がある企業として、サッポロHDは注目されやすい条件を備えていた。

決断

スティールの買収提案とサッポロの防衛

2004年10月、スティール・パートナーズはサッポロHDの株式5.13%を保有していることを公表した。当初の目的は「純投資」とされたが、買い増しが進み、2007年1月には保有比率が18.13%に達して目的も「重要提案行為等」に変更された。 スティールは最大で議決権の66%取得を想定した買収提案を行い、飲料事業の外部提携、酒類工場の稼働率改善、不動産事業への外部資本導入といった改善策を提示した。資産の保有継続ではなく回転と収益化を重視する提案であり、サッポロHDの資本効率に対する直接的な問題提起であった。 サッポロHDの経営陣は買収防衛策を維持し、質問状の送付と財務アドバイザーの起用で対抗した。同時にモルガン・スタンレーと業務資本提携を締結し、恵比寿ガーデンプレイスの株式15%を約500億円で売却することで安定株主を確保し、スティールの買収動機を削ぐ戦術を採った。

結果

買収阻止と構造問題の可視化

2008年2月、特別委員会はスティールの株式取得が企業価値を毀損するおそれがあるとの見解を公表し、買収提案は事実上頓挫した。スティールは取得目標を66%から33%に引き下げたが交渉は進展せず、リーマンショック後の市場環境悪化も重なり、2010年までに全株式を売却して撤退した。 サッポロHDは買収を阻止したが、この過程で同社の構造的課題は資本市場に可視化された。不動産を中心とする大規模資産を保有しながら、それを収益成長に転換できていない点──すなわち資本効率の低さが、企業評価の中核的論点として定着した。 買収は不成立に終わったが、スティールが突きつけた問い──資産を「保有すること」と「回転させること」の違い──は、サッポロHDの経営に長期的な課題として残った。そしてこの問いは、16年後の3D Investmentによる株主提案においてほぼ同じ形で再び提起されることになる。