重要な意思決定
19747月

旭メディカルを設立・医療機器に参入

背景

ベンベルグ繊維の研究から生まれた中空糸技術

旭化成の医療機器参入は、創業以来の繊維技術がもたらした発見に端を発する。ベンベルグ繊維の研究過程で中空糸の製造技術が確立され、片岡金吉氏らの研究チームがこの中空糸を人工腎臓のフィルター材に応用できる可能性に競合より早く見出した。中空糸膜を通じて血液中の老廃物を除去する人工腎臓は慢性腎不全患者の透析治療に不可欠な医療機器であり、市場の成長が見込まれていた。旭化成は1973年に厚生省から人工腎臓の製造許可を取得した。

1970年代前半は好況期にあたり研究開発への投資資金は比較的潤沢であった。一方で片岡氏は「たまたま好況期でカネは比較的楽に使えたが、技術者がもらえなかった。本当に強引に人を引っ張ってきた」と振り返っている。繊維技術の蓄積を有する延岡の研究者を中心に人工腎臓の開発チームが編成されたが、新規事業への人員配置には社内の抵抗もあった。繊維メーカーとしての技術基盤と、宮崎輝社長の「信頼できる人物に新事業を任せる」方針が異分野への参入を後押しした。

決断

旭化成メディカルの設立と量産・販売体制の構築

1974年7月に旭化成メディカルを設立し、医療機器事業に本格参入した。大分県に新工場を建設して人工腎臓の量産体制を整え、販売面ではエマース社との提携により全国6箇所の営業拠点を確保した。繊維・化学を主力とする旭化成にとって医療機器の販路は未知の領域であり、提携先の販売網を活用することで市場への早期浸透を図った。ベンベルグ繊維由来の中空糸は品質面での優位性があり、人工腎臓の性能で市場の信頼を獲得した。

人工腎臓事業は参入からわずか3年で黒字化を達成し、旭化成の多角化事業の中でも異例の速さで収益化に至った。1979年度には売上高100億円に到達し、売上高利益率は12〜15%と高い水準を維持した。1982年時点で人工腎臓の国内シェアは約30%に達して首位の座を確保している。メディカル事業の早期立ち上がりは、後に旭化成が2012年の米ZOLL買収や2020年の米Veloxis買収など大型M&Aに踏み切る際の事業的な基盤となった。