米IKON Office Solutions買収
グローバル販売網拡大を目指した海外M&A路線
2000年代、リコーは桜井正光社長(1996-2007年)のもとで積極的な海外M&Aを展開していた。1995年の米SAVIN・GESTENER買収に始まり、2001年の米LANIER買収、2004年の日立プリンティングソリューションズ買収、2007年の米IBM大型プリンター事業買収と、矢継ぎ早に買収を重ねた。この戦略の根底には、国内市場の成熟化に対して海外での販売網拡大で売上成長を維持するという構想があり、桜井の在任11年間で連結売上高は約2倍の2兆689億円に拡大した。
この路線を引き継いだ近藤史朗社長は、北米市場での販売網をさらに強化するため、米国の独立系事務機販売大手IKONの買収を決断した。IKONは全米に約400拠点の販売・サービス網を持ち、中堅・大企業向けのドキュメントソリューションに強みを持っていた。リコーの製品力とIKONの顧客接点を組み合わせることで、北米市場でのシェア拡大を一気に加速させる構想だった。
1,705億円でIKONの株式100%を取得
2008年10月、リコーはIKON Office Solutionsの株式100%を取得し、完全子会社化した。買収対価は1,705億円で、のれん1,432億円、無形固定資産555億円を計上した。リコーにとって過去最大規模のM&Aであり、これまで積み重ねてきた海外買収の集大成として、北米での直販体制を一挙に強化するグローバル戦略の要と位置づけられた。桜井前社長が敷いた海外M&A路線の延長線上にある、近藤社長にとっての最大の賭けだった。
しかし、買収のタイミングは2008年9月のリーマン・ショック直後と重なった。世界的な景気後退のなかで北米のオフィス需要は急速に冷え込み、企業の設備投資は軒並み凍結された。IKONの売上は買収完了の直後から下振れし、1,705億円の投資に対するリターンの前提が根底から崩れた。買収した販売網と自社の製品・サービス体制を統合する作業は、景気悪化と文化的摩擦の二重の障壁に阻まれ、想定を大きく超える困難に直面した。
統合の難航と10年後の巨額減損の伏線
IKON買収後、リコーの北米事業は期待された成長を実現できなかった。リーマン・ショック後の需要回復が遅れたことに加え、デジタル化の進展による商業プリントそのものの需要構造の変化が追い打ちをかけた。買収した販売網の統合コストが重くのしかかり、IKONの顧客基盤とリコーの製品力を掛け合わせるという戦略構想は、現場レベルでの文化的摩擦やビジネス慣行の違いもあり、想定通りには進まなかった。
この買収は、10年後の2018年に1,759億円の巨額減損として精算されることになる。買収による外延的成長はリコーの基本戦略だったが、IKONの事例は、販売網の買収が製品の競争力を補完するとは限らないことを示した。国内で「販売のリコー」を支えた三層構造の暗黙知は、海外の買収先には移転できなかった。